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とはずがたり

論文の紹介や日々感じたことをつづります

人工筋肉に関する論文

2020-03-13 18:28:51 | 骨代謝・骨粗鬆症
https://science.sciencemag.org/content/365/6449/145
https://science.sciencemag.org/content/365/6449/150
https://science.sciencemag.org/content/365/6449/155
https://science.sciencemag.org/content/365/6449/125

Pax3のポリアデニル化が筋幹細胞の分化に重要

2020-03-13 17:28:41 | 骨代謝・骨粗鬆症
組織に存在する幹細胞は組織・臓器の恒常性維持のために重要な役割を果たしています。筋に存在する幹細胞(muscle stem cells, MuSCs)の恒常性はホメオボックス転写因子PAX3, 7によって制御されることが知られていますが、PAX7がすべての成体マウスMuSCで発現しているのに対し、PAX3は横隔膜など特定の骨格筋でのみ発現しています。以前著者らはMuSCにおけるPAX3タンパクの発現がmicro RNA 206(miR206)によって抑制されることを報告していますが(S. C. Boutet et al., Cell Stem Cell 10, 327–336, 2012)、本論文において彼らはPax3の発現がmiR206により翻訳レベルで制御されること、その制御はPax mRNA isoformの長さによって異なることを明らかにしました。mRNAの長さは3’ untranslated region (UTR)へのpolyadenosine tailの付加(polyadenylation)によって制御されます。Pax3の場合、遠位のpolyadenylation siteを用いると長いmRNAが、近位のsiteを用いると短いmRNAが産生され、short Pax3 mRNAはmiR206の標的配列を持ちません。後肢MuSC(長いPax3 mRNAを発現する)と横隔膜MuSC(短いPax3 mRNAを発現する)を比較することで、著者らはU1 small nuclear RNA (snRNA)の発現が前者で高く、long Pax3 mRNAの産生を促進することを示しました。つまりU1 snRNA→long Pax3 mRNAの産生→miR206によってPax3翻訳が抑制→Pax3タンパク低下、という一連のpathwayがMuSCの静止相⇔増殖相の移行を、それぞれの筋特異的に制御するという訳です。本研究はpolyadenylationによって幹細胞の増殖や分化が制御されることを初めて示した点で大変重要な知見だと思います。 
Science. 2019 Nov 8;366(6466):734-738. doi: 10.1126/science.aax1694.
Alternative polyadenylation of Pax3 controls muscle stem cell fate and muscle function.

Hip Attack!

2020-03-13 08:56:18 | 骨代謝・骨粗鬆症
大腿骨近位部骨折は高齢者に多い骨折ですが、その予後の悪さから国際的には“hip attack”とも呼ばれています。治療法としては手術(骨接合術あるいは人工股関節[骨頭]置換術)が第一選択であり、ガイドラインではなるべく早期の手術を推奨しています。ここで問題は「早ければ早いほどよいのか?」ということです。
この研究(その名もHIP ATTACK trial)では国際多施設共同研究(17か国69病院)において、(休日ではなく)通常勤務日に軽微な外傷で受傷した手術が必要な45歳以上の大腿骨近位部骨折患者を、①6時間以内の手術(accelerated surgery)群と②通常治療―とは言っても24時間以内に手術を行う―(standard care)群に割り付けて、RCTで比較しました。Accelerated surgery群1487名、standard-care群1483名が組み入れられ、平均年齢はいずれの群も79歳でした。99%の患者はfollow-up可能であり、primary outcomeである90日以内の死亡、主な合併症については、accelerated surgery 群の140名(9%) 、standard care群の154名(10%) が死亡し、HRは0.91 (95% CI 0.72 to 1.14) 、absolute risk reduction (ARR)は1% (–1 to 3; p=0.40)でした。またco-primary outcomeである主な合併症は、それぞれ321(22%)および331(22%)でHRは0.97(0.83 to 1.13) 、ARRは1%(–2 to 4; p=0.71)と、いずれも有意差はありませんでした。一方secondary outcomeとして設定された脳卒中(HR 0.35)、譫妄(OR 0.72)、敗血症のない感染(HR 0.80)、尿路感染症(HR 0.78)などはaccelerated surgery群で有意に少ないことが示されました。人工関節の脱臼や再手術などの率は両群で有意差はありませんでしたが、accelerated surgery群の患者の方がランダム化から歩行開始までの時間は短く、入院期間も短いことが分かりました。
さてこの研究のメッセージをどのように考えればよいでしょうか?著者らの主張は「死亡率や主たる合併症は変わらないが、脳卒中や譫妄などのリスクを減らすし、在院日数も減らすのだから、手術までの時間は短い方がよい」ということのようです。しかし6時間以内に手術を行うためには常に手術ができるような体制(麻酔科を含めたヒト、スペース、モノ)を用意しておかなければならないことを考えると、少なくとも日本でこのような体制を常にとれる病院は少ないのではないでしょうか。またこのようにready-to-go状態を維持するためのコストはどうでしょうか?皆様はどうお考えですか?
Lancet. 2020 Feb 29;395(10225):698-708. doi: 10.1016/S0140-6736(20)30058-1. Epub 2020 Feb 9.
Accelerated surgery versus standard care in hip fracture (HIP ATTACK): an international, randomised, controlled trial.

脂質による骨軟骨の形成・再生の制御

2020-03-13 08:48:12 | 骨代謝・骨粗鬆症
最近次々とbig journalに論文を発表しているベルギーのGeert Carmelietらのグループから出たNature Articleです。軟骨は基本的に無血管組織であり、血流非存在下でも維持可能です。一方で骨移植後の治癒は軟骨内骨化の過程をたどりますが、血管新生に引き続いて軟骨内骨化が進行します。治癒過程には外骨膜に存在するprogenitor cell(periosteal progenitor cell)が関与しますが、この細胞自体は直接血管新生には関与するわけではありません。移植部位を孔サイズ30マイクロメーターのフィルターで隔てて外部からの細胞侵入を抑制しても血管新生は生じますが、0.2マイクロメーターのフィルターで隔てると血管新生は阻害され、骨化が抑制されるとともに修復組織における軟骨成分の割合が増加します。つまり「血管新生は軟骨形成には抑制的、骨形成には促進的に関与している」ということです。著者らはC3H10T1/2などの培養細胞や器官培養、そしてマウス骨折治癒モデルなどを用いてこのメカニズムを解析し、血管侵入とともに供給される血清中のオレイン酸、パルミチン酸をはじめとしたlipidが軟骨形成を抑制し、骨形成を促進することを示しました。
次にlipidがどのようなメカニズムで軟骨・骨形成を抑制しているかを検討しました。軟骨細胞においては解糖系(glucose oxidation)が亢進していますが脂肪酸酸化能は低く、逆に骨芽細胞では脂肪酸酸化(fatty acid oxidation, FAO)が亢進しています。組織レベルでも成長板軟骨では皮質骨に比べて解糖系に関与する遺伝子発現が高く、FAOに関係する遺伝子の発現は低い傾向にあります。細胞レベルでも未分化間葉系細胞株であるC3H10T1/2をlipid飢餓状態におくとFAOが低下し、この現象は軟骨細胞分化のマスター転写因子であるSOX9の上昇と同時に生じます。この時核内FOXO1, FOXO3aの上昇が認められ、これらの転写因子のSOX9プロモーターへの結合が認められました。以上のことから、骨移植後や骨折治癒過程において、血管新生はlipidの供給を通じてprogenitorを軟骨細胞から骨形成細胞へと分化させ、この過程にはlipidによるFOXOシグナルの不活化とSOX9発現抑制、そしてFAO経路の活性化が関与していると考えられます。
軟骨内骨化の過程にlipidが関与しているコンセプトが新しいのだと思いますが、このような現象をノックアウトマウスで確認したわけでもなく、少し内容が薄っぺらい印象を受けます。とはいえNature Articleにふさわしい素晴らしい成果だと思います(とってつけたようですが)。
Nature. 2020 Mar;579(7797):111-117. doi: 10.1038/s41586-020-2050-1. Epub 2020 Feb 26.
Lipid availability determines fate of skeletal progenitor cells via SOX9.