少し偏った読書日記

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スパイたちの遺産

2020-11-29 18:43:39 | 読書ブログ
スパイたちの遺産

スパイたちの遺産 (ジョン・ル・カレ/ハヤカワ文庫NV)

引退した老スパイが、昔の作戦にかかわる裁判沙汰のため、当局に呼び出されて尋問を受ける。合間に、証拠として提示された報告書の記述と、老スパイの回想がまじる構成で、決して読みやすくはないが、諜報活動をリアルに伝えるという効果は出ている。

この作品は、『寒い国から帰ってきたスパイ』の背景を描き出すとともに、『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』から始まるスマイリー三部作の後日談ともなっているので、先にこっちを読んでしまうと、完全にネタバレになるので注意。

この作者は、冷戦終了後も、さらに、冷戦に勝利したはずの自由主義陣営の優位が疑わしくなった21世紀以降も、時代の本質を突く作品を書き続けている。この作品では、改めてかつての諜報活動を振り返ってその意義を問い、失われた命を悼んでいるようにみえる。

作者の年齢を考えると、1冊でも多くの作品を残してくれることを祈るのみである。(このフレーズは、フレデリック・フォーサイスにもそのまま当てはまる。最近、自伝を著したことも共通している。)

最後の方で描かれる、スマイリーの近況とカーラの行く末が、いかにもこの作者らしい。


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