プラハの墓地(ウンベルト・エーコ/東京創元社)
3年半前、アプリの存在も知らず、パソコン上でこのブログを始めたときに、最初に取り上げたのが、この作者の『バウドリーノ』だった。そのときに本書はすでに刊行され、また作者もすでに亡くなっていたことに、最近、気付いた。
物語の舞台は19世紀のイタリアとフランス。記憶の一部が欠落した主人公と、イエズス会の僧侶が、交互に日記を書く、というスタイルで話が進む。
主人公は、彼から遺産をだまし取った公証人の下で働きながら文書偽造の技を覚え、公証人への復讐を果たす。文書偽造と謀略の才能に目をつけた各国の秘密警察に重用されるようになり、ナポレオン3世の独裁、普仏戦争、パリ・コミューン、ドレフュス事件などの歴史に関わっていく。こうした物語が進むにつれて、主人公が地下道に隠した死体の数が増えていく。そして最終的に、プラハの墓地でユダヤ人が世界征服を計画したという『シオンの議定書』(史上最悪の偽書と呼ばれている)を、ロシアの秘密警察のために作成する。
主人公と僧侶の関係や死体の謎の解明は、ミステリとして楽しむことができるし、歴史の陰にある陰謀や『シオンの議定書』の成立過程は、史実と矛盾しない歴史フィクションとして読める。なお、主人公以外の主要な登場人物はすべて実在し、本書で描かれたような言動をしていた、とのこと。
非常に重厚な作品で、手に余るところはあるが、読了後に浮かんだ直感的な感想。宗教は確かに、人類に功罪をもたらしたが、それ以上に強力な共同幻想がある。それは国家だ。
本書からの引用。「貧しい人々に残された最後のよりどころが国民意識なのです。そして国民のひとりであるという意識は、憎しみの上に、つまり自分と同じでない人間に対する憎しみの上に成り立ちます。」
その憎しみは、本書ではもっぱらユダヤ人に向けられているが、それに替わりうるものは、現代世界にあふれている。
3年半前、アプリの存在も知らず、パソコン上でこのブログを始めたときに、最初に取り上げたのが、この作者の『バウドリーノ』だった。そのときに本書はすでに刊行され、また作者もすでに亡くなっていたことに、最近、気付いた。
物語の舞台は19世紀のイタリアとフランス。記憶の一部が欠落した主人公と、イエズス会の僧侶が、交互に日記を書く、というスタイルで話が進む。
主人公は、彼から遺産をだまし取った公証人の下で働きながら文書偽造の技を覚え、公証人への復讐を果たす。文書偽造と謀略の才能に目をつけた各国の秘密警察に重用されるようになり、ナポレオン3世の独裁、普仏戦争、パリ・コミューン、ドレフュス事件などの歴史に関わっていく。こうした物語が進むにつれて、主人公が地下道に隠した死体の数が増えていく。そして最終的に、プラハの墓地でユダヤ人が世界征服を計画したという『シオンの議定書』(史上最悪の偽書と呼ばれている)を、ロシアの秘密警察のために作成する。
主人公と僧侶の関係や死体の謎の解明は、ミステリとして楽しむことができるし、歴史の陰にある陰謀や『シオンの議定書』の成立過程は、史実と矛盾しない歴史フィクションとして読める。なお、主人公以外の主要な登場人物はすべて実在し、本書で描かれたような言動をしていた、とのこと。
非常に重厚な作品で、手に余るところはあるが、読了後に浮かんだ直感的な感想。宗教は確かに、人類に功罪をもたらしたが、それ以上に強力な共同幻想がある。それは国家だ。
本書からの引用。「貧しい人々に残された最後のよりどころが国民意識なのです。そして国民のひとりであるという意識は、憎しみの上に、つまり自分と同じでない人間に対する憎しみの上に成り立ちます。」
その憎しみは、本書ではもっぱらユダヤ人に向けられているが、それに替わりうるものは、現代世界にあふれている。