少し偏った読書日記

エッセーや軽い読み物、SFやファンタジーなどの海外もの、科学系教養書など、少し趣味の偏った読書日記です。

孔丘

2021-04-10 07:30:00 | 読書ブログ
孔丘(宮城谷昌光/文芸春秋)

宮城谷昌光氏の作品には、はずれがない。まだ読み残している作品はあるが、それは興味がないからではなく、長いから。

作者は、春秋・戦国時代の名君・名臣の物語を多く書いているが、作者によると、中国が一番輝いていたのは戦国時代、とのこと。人々が宗教や教学に縛られず、自由に発想し行動できたから。作者は用心深く、清朝までの歴代王朝の中では、という限定をかけているが、現代まで延長しても、その事情は変わらない気がする。(現代の中国人には、お気の毒さま。)

私が一番気に入っているのは、『重耳』である。国同士の権謀術策を尽くした政事と軍事。王位をめぐる親子・兄弟の争い。王の徳・不徳と国の盛衰。
これぞ中国史、という内容である。

で、この作品は、孔子を主人公とする物語。『論語』は、孔子の教えを弟子たちが記述したもので、歴史的な文書としては、ほとんどあてにならない。孔子の生涯をたどることは、老子ほどではないにしても、雲をつかむような作業に違いない。それでも作者は、残された文献を読み込んで、もっとも有りうべき物語を紡ぎだすという、いつもの手法を尽くすことに全力を注いでいる。確かに、この作者にしか書けない作品だ。

孔子は、国家を繫栄に導く政治家としては失敗の連続であったが、作者は、偉大な思想の完成のためにはそのほうがよかった、と思っているようだ。いずれにしても、この作者の作品は、すべてお勧めしたい。