りとるぱいんわーるど

ミュージカル人形劇団“リトルパイン”の脚本の数々です。

“アンドレ” ―全10場― 2

2012年12月08日 19時46分32秒 | 未発表脚本



    ――――― 第 3 場 ―――――

         カーテン前。
         下手より、村の医師エドワード、グレミン牧師
         話しながら出る。

  エドワード「いやぁ、昨夜の嵐は凄かったですなぁ・・・」
  グレミン「ええ、全くです。もう少しで教会の屋根が、吹き飛ばさ
       れるんではないかと、ゆっくり眠りにつくことも出来なか
       った程ですから・・・」
  エドワード「(笑って。)私もですよ、グレミン牧師。」
  グレミン「(一瞬、不思議そうに。)え?あなたもですか、先生・・・
       。」
  エドワード「可笑しいですか?私が嵐などに怯えて眠れないの
        は。」
  グレミン「いえ・・・(口籠もる。)」
  エドワード「(笑って。)自分でも可笑しいのだから、グレミン牧師
         に不思議がられるのも尤もですがね。お陰で昨夜は
         読む暇もないままに、買って置いてあった書物の山
         を、随分と整理することが出来ましたよ。(再び笑う。
         )」
  グレミン「それは嵐に感謝しなければならないと言うことですね
       ?」
  エドワード「その通りです。」
  グレミン「ところで今日はどちらへ?」
  エドワード「いや、何ね、検察官と言う訳でもないのだが、一昨
         日、隣町で起こった、旅籠の火事で亡くなった宿主
         の検視を頼まれましてね。」
  グレミン「それはそれは・・・。では今から隣町まで?」
  エドワード「ええ。今晩は泊まりですよ。(笑う。)」

         そこへ上手より、新聞記者ジョセフ、幾分
         早足に出、エドワードたちを認めて近寄る。

  ジョセフ「エドワード先生、グレミン牧師、おはようございます!」
  エドワード「(ジョセフを認め。)やぁ、おはよう。」
  グレミン「おはよう、ジョセフくん。」
  ジョセフ「昨夜は凄かったですね!教会は大丈夫でしたか?」
  グレミン「村人たちが、いつもこまめに修理をしてくれているお陰
       で何とかね。」
  ジョセフ「それはよかった。」
  エドワード「君も今から、隣町へ出勤かね?」
  ジョセフ「先生も隣町へ出掛けるところだったんですか?」
  エドワード「ああ。よかったら一緒に私の馬車で・・・」
  ジョセフ「大変有り難いのですが、先生、我々は当分この村から
       一歩たりとも出ることが出来なくなったんですよ。」
  エドワード「・・・と言うと?」
  ジョセフ「(上手方を指差して。)この先の村の出入り口の1本道
       が、昨夜の嵐で崖崩れに遭い、道路が寸断されたので
       す。」
  グレミン「え!?」
  エドワード「(驚いて。)本当かね!?」
  ジョセフ「たった今、出勤しようと出掛けて行って、この目で見て
       来たばかりですから確かですよ。」
  エドワード「何てこった・・・私はこれから大切な仕事があったと
         言うのに・・・」
  ジョセフ「仕方ないですね・・・」
  グレミン「家屋が無事だっただけでも、感謝しなければ・・・」

         その時、下手よりミリオッタ出る。続いて
         アンドレ、エリザベス出る。

  ミリオッタ「おはようございます、皆さん。」
  
         皆、一斉にミリオッタの方を向く。

  エドワード「おはよう、ミリオッタ。」
  ジョセフ「おはよう!今日は早いんだな。昨夜の嵐が怖くて、眠
       れなかったかな?(笑う。)」
  ミリオッタ「失礼ね!それよりどうしたの?皆揃って何の相談?
        」
  エドワード「それが昨夜の嵐で、この先の道が通行不可能にな
         ってしまって、仕事に行けない我々は、途方に暮れ
         ていたと言う訳だよ・・・。」
  ミリオッタ「え・・・?」
  アンドレ「通れない・・・!?」
  ジョセフ「・・・(ミリオッタの後ろのアンドレたちに気付いて。)・・・
       ミリオッタ・・・誰だい?」
  ミリオッタ「昨夜、旅の途中にこの村に立ち寄られたご兄妹・・・
        宿屋がなくて困ってらしたから、うちへお泊めしたの。」
  ジョセフ「おまえのところへ?」
  ミリオッタ「ええ。丁度空き部屋もあったし・・・。それより・・・(アン
        ドレの方を向いて。)先を急いでたようだけど、この村
        から出られないのなら仕方ないわ。道が元通りになる
        まで、うちにいらっしゃって下さいな。」
  アンドレ「しかし・・・」
  ミリオッタ「うちは構わないのよ!!ね、そうしなさいよ!!」
  ジョセフ「ミリオッタ・・・」

         困惑した面持ちのアンドレ、嬉しそうな
         ミリオッタでフェード・アウト。

    ――――― 第 4 場 ―――――

         楽しそうな音楽が流れてくる。(カーテン開く。)
         フェード・インする。と、舞台は村の丘。
         其々の位置にポーズするアーサーと
         ジャクリーヌ、幸せそうに歌う。

      2人“待ち望んだ今この時・・・
         幸せに満ちた心の充実
         あなたといればただそれだけで
         たとえ何が起ころうと
         回りは全てバラ色に変わりゆく”

      アーサー“冬の寒さも2人でいれば”

      ジャクリーヌ“涙の時もあなたがいれば”

      2人“ただそれだけで
         全ては幸せ色に染まりゆく
         花の香りも芳しく
         あなたの温もりに心時めく
         2人で共に生きる喜びに
         満ち足りた今この時・・・
         あなたさえいれば
         この世は全て
         生きる希望へと変わりゆく・・・”

         アーサー、ジャクリーヌを抱き締める。
         2人幸せそうに微笑み、手を取り合い
         上手奥へ出て行く。
         入れ代わるように下手より、2人を見て
         いたようにアンドレ、エリザベスゆっくり
         出る。

  エリザベス「私たち、いつになったらこの村から出られるの?」
  アンドレ「私にも分からないよ・・・」
  エリザベス「もう一週間も経つのよ!今までこんなに長い間、同
         じところに滞在したことって、私たちが生まれ育った
         村くらい・・・」
  アンドレ「仕方ないだろう。真逆、空を飛んで行く訳にもいかない
       し・・・」
  エリザベス「(溜め息を吐いて。)羽があったらいいのに・・・。私
         ・・・ミリオッタのこと嫌いだわ。」
  アンドレ「どうして?親切な人だと思うけど・・・。」
  エリザベス「確かに親切よ!でもその親切が・・・!お兄さんは
         ・・・どう思ってるの・・・?」
  アンドレ「どう思うも何も・・・知ってるだろ?私は誰に近付くこと
       もしたくないんだ・・・。おまえが一体、何を心配している
       のか分からないけれど、道が直れば、この村とも直ぐに
       お別れだ・・・。」
  エリザベス「本当ね?」
  アンドレ「ああ・・・」
  エリザベス「昔から私の勘はよく当たるのよ・・・。お願い、お兄
         さん、ミリオッタにだけは近付かないでね・・・。」
  アンドレ「ああ・・・可笑しな奴だな・・・(笑う。)」
  エリザベス「私だけよ・・・お兄さんの側にいてあげられるのは・・・
         。」
  アンドレ「・・・分かっているよ・・・私の為に、おまえにまで不自由
       をかけていることは・・・」
  エリザベス「(アンドレの腕にしがみつく。)そんなことないわ!!
         私はお兄さんの側にいられることが幸せなんだから
         ・・・。」
  アンドレ「こうして立ち寄った村で、おまえの気に入った場所が
       見つかれば、私に気兼ねすることなく、おまえの好きな
       ようにしてもいいんだ・・・」
  エリザベス「私はずっとお兄さんと一緒に行くわ・・・(小さくくしゃ
         みをする。)」
  アンドレ「ほら、私に付いてこんなところまで登って来るから・・・
       暖かくなったと言っても、午後からは丘の上はまだまだ
       冷えて来るんだ。さぁ、先にお帰り。もうそろそろお茶の
       時間だろう?」
  エリザベス「でも・・・」
  アンドレ「私も直ぐに戻るから・・・」
  エリザベス「(頷く。)早くね・・・」
  アンドレ「ああ・・・」

         エリザベス、アンドレを気にするように
         上手奥へ出て行く。
         アンドレ、エリザベスが出て行くのを
         見計らって、後方小高く盛り上がった
         丘の上へ腰を下ろし、ゴロンと横に
         なる。
         そこへ一時置いて、上手よりミリオッタ、
         誰かを捜すように出、アンドレを認め
         嬉しそうに駆け寄る。

  ミリオッタ「こんなところにいたの!?」
  
         アンドレ、ミリオッタを認め、ゆっくり
         起き上がる。

  アンドレ「・・・何か用でも・・・?」
  ミリオッタ「もう直ぐお茶の時間なのに、姿が見えないからどこへ
        行ったのかと思って!この場所はこの村で一番見晴
        らしのいい丘なのよ。登って来るのは結構大変だけど
        、眼下に広がる村を見た途端、そんなことは吹っ飛ん
        でしまう程!!ね、素敵だと思わない?」
  アンドレ「(立ち上がって服を払う。)私は余計なお喋りに付き合
       う気はないので・・・(出て行こうとする。)」
  ミリオッタ「(アンドレの腕を取って。)待って!折角ここまで来た
        んだから、もう少し楽しみましょうよ!」
  アンドレ「・・・お一人でどうぞ・・・」
  ミリオッタ「駄目よ!あなたも一緒でないと!」
  アンドレ「君に一言忠告しておこう・・・私に・・・近付かない方が
       いい・・・」
  ミリオッタ「近付かない方がいい?何故?」
  アンドレ「私は昔から・・・側にいる人々を不幸にしてしまう運命
       を持って生まれた者なのだ・・・」
  ミリオッタ「(笑う。)私、そんなこと気にしないわ!」
  アンドレ「気にするしないの問題じゃない。君も私に近付くと、き
       っとロクなことはない・・・。怪我の一つもしないうちに・・・
       余計な好奇心を出して、あれこれ私に構うのを止める
       ことだ・・・。」
  ミリオッタ「エリザベスはどうなの?あなたはずっとエリザベスと
        2人、旅して来たのでしょう?もし本当にあなたが、今
        言ったような人なら、真っ先にエリザベスがどうかした
        んじゃなくて?今まで色々あったんだとしても、それは
        単なる偶然で、何もあなたがいたからそうなったんじゃ
        ない筈よ、きっと・・・。」
  アンドレ「・・・どう思われても・・・今までのことは、私の幻想でも
       夢でもない・・・本当に起こったことなのだから・・・」
  ミリオッタ「へぇ・・・でも今まで確かに色々あったかも知れない
        けど、これからも同じようなことが起こるとは限らない
        でしょ?ね?」
  アンドレ「それは・・・だが・・・!」
  ミリオッタ「今までどんな町や村を見て来たの?私なんて、生ま
        れてから一番遠くに出掛けたことって隣町よ!(笑う。)
        あなたから見れば、きっと私の世界なんて、ちっぽけ
        な世界なんでしょうね・・・。」
  アンドレ「(溜め息を吐いて。)本当に知らないからな・・・。」
  ミリオッタ「ひょっとして・・・だからずっと旅して来たの?自分の
        生まれ育った故郷を捨てて・・・一所に留まることなく
        ・・・」
  アンドレ「・・・だったら・・・?」
  ミリオッタ「そんなのって、悲しいじゃない・・・」
  アンドレ「・・・親しい者たちが私の目の前で次々と亡くなるんだ
       !!そんな別れを、運命にまざまざと見せ付けられるく
       らいなら、私はどこの地にも愛着を持たず、ただの通り
       すがりの旅人として生きて行く方が、余程いいんだ・・・
       。」
  ミリオッタ「エリザベスも納得しているの?それで・・・」
  アンドレ「ああ・・・」
  ミリオッタ「あなたの生き方は、ただ運命に流されてるのよ・・・。」
  アンドレ「何・・・?」
  ミリオッタ「だってそうでしょ?何故逃げてばかりいるの?何故
        もっと立ち向かおうとしないの?辛いことから目を背け
        て生きて行くのは、勇気ある者の選択ではないわ・・・」
  アンドレ「放っといてくれ・・・おまえに“死神”と呼ばれ続けて来
       た者の気持ちなど、分かろう筈がない・・・(ミリオッタに
       背を向けて、出て行こうとする。)」
  ミリオッタ「私だって!!父さんや母さんが・・・私の不注意で亡
        くなった時・・・生きていくのが嫌になったわ!!まだ
        ほんの小さな子どもだったけど・・・!!罪の意識に苛
        まれて・・・何故私はあの時・・・火を点けたんだろう・・・
        って・・・」
  アンドレ「・・・火を点けた・・・?(振り返って、ミリオッタを見る。)
       」
  ミリオッタ「丁度あの日も・・・あなたたちが私のところへ来た時
        と同じような、冷たい雨が激しく降っている日だった・・・
        出掛けていた父さんと母さんが、雨に濡れて戻って来
        たら、風邪をひくんじゃないかって・・・納屋で焚き火を
        したのよ・・・。その為に納屋が火事になって、戻って驚
        いた父さんと母さんは・・・馬を助ける為に中へ飛び込
        んで、その小屋ごと・・・。ね!!私こそ裁かれるべき
        者でしょ・・・」
  アンドレ「何故・・・そんな風に平然としていられるんだ・・・」
  ミリオッタ「これでも・・・こんな風に平気で人に話せるようになっ
        たのは、つい最近のこと・・・。偉そうに言ったけど、やっ
        ぱり立ち直るまで・・・何年もかかったもの・・・。けど私
        には姉さんがいた・・・。あなたにもエリザベスがいるよ
        うに・・・。それにいつも私の回りには、優しく見守って
        くれたこの村の人達が大勢いたから・・・。あなたが立
        ち直る為に、もっと他に誰かの手を必要とするなら、私
        が力を貸すわ!!」
  アンドレ「・・・何故・・・ただの通りすがりの私の為に・・・?」
  ミリオッタ「・・・何故かしら・・・多分・・・あなたの目を見ていると
        ・・・昔の私を思い出すから・・・。辛いこと悲しいことを
        全部忘れるのは無理かも知れない・・・。償いの気持
        ちを持ち続けることも大切だわ・・・。けど・・・生きて行
        く為には、前を向いて歩かないと・・・!!」

         ミリオッタ、思わずアンドレの手を取り、
         力強く歌う。
         呆然とミリオッタを見詰めるアンドレ。

         “夢を見よう
         どんな小さなことでも
         夢を見つめよう
         たとえちっぽけで
         人から見れば取るに足らない
         そんな夢でも
         夢を思い明日を夢見て
    
         歩いてみよう
         過去を見ないで
         昨日流した涙のことも
         きっと明日は乾いていると
         信じて今日は微笑もう

         心を開いて
         自分を悪く言わないで
         正しいと思う真実を
         心の瞳を見開いて
         今まで自分が拘った
         どんな些細な思いでも
         悲しみに打ち拉がれた
         自分を捨てよう
         未来を見れば
         昨日の心の小ささに
         閉じ篭った自分の殻が見える筈
         きっと気付いて今日は微笑もう”

         カーテン閉まる。
       
                






     ――――― “アンドレ”3へつづく ―――――










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