りとるぱいんわーるど

ミュージカル人形劇団“リトルパイン”の脚本の数々です。

“うららかな思い” ―全1幕― 完結編

2012年08月06日 20時15分24秒 | 新作(人形劇用)


         うらら一寸前へ。(男達下がる。)

  うらら「松太郎・・・」

         松太郎、松の木の後ろから登場。
         ゆっくり前方へ。

  松太郎「うらら・・・。」
  うらら「(松太郎を認めて。)松太郎!!急にいなくなるから心配
      したじゃない!!」
  松太郎「ごめん・・・」
  うらら「それより大変よ!!この松の木が明日、切り倒されるん
      だって・・・!!」
  松太郎「知ってる・・・」
  うらら「え・・・?」
  松太郎「僕も今の話し・・・聞いてたから・・・」
  うらら「でも・・・どこで・・・」
  松太郎「・・・うらら・・・驚かないで僕の話しを聞いて欲しい・・・」
  うらら「松太郎・・・」
  松太郎「・・・僕は・・・人間じゃないんだ・・・」
  うらら「・・・人間じゃない・・・?」
  松太郎「(頷く。)僕は・・・君の前の家の庭にあった・・・松の木の
       精霊なんだよ・・・」
  うらら「・・・嘘・・・」
  松太郎「(首を振る。)嘘じゃない・・・。だから、僕は君以外の人
       には見えないんだ・・・。」
  うらら「・・・あ・・・だからあの人達・・・」
  松太郎「うん・・・。僕は君の前の家で、いつも君の成長を見てい
       た・・・。いつも君が明るく笑う、その声を聞くだけで、僕
       は幸せだったんだ・・・。それがある日突然・・・うららが引
       越したと聞いて、僕はもう二度と君には会えないのかと、
       とても悲しんだんだ・・・。」
  うらら「松太郎・・・」
  松太郎「自分の涙で・・・僕自身が枯れてしまうんじゃないかと
       思う程に・・・。そんな風に泣く僕を見かねて、松の木の
       精霊の主が、僕を君の側へ・・・君と同じ姿へと変えて、
       寄越してくれたんだよ・・・。ただし・・・期限付きで・・・」
  うらら「・・・期限・・・って・・・」
  松太郎「夏休みの間だけ・・・君の・・・君だけの友達として・・・」
  うらら「夏休みが終わったら・・・」
  松太郎「夏休み最後の日・・・また僕は・・・僕の本当の体へと帰
       るんだ・・・。」
  うらら「・・・前の家の松の木へ・・・帰るってこと・・・?」
  松太郎「うん・・・。でも僕はこの一夏、君と一緒に過ごした思い
       出を胸に・・・これからもあの懐かしい場所で・・・生きて
       いける・・・。」
  うらら「いや・・・そんなのいやよ・・・(泣く。)」
  松太郎「でも聞いて、うらら。ここからが本当に大切なことなんだ
       。」
  うらら「(松太郎を見る。)」
  松太郎「僕は今、自分の体から離れてこの松の木の体を仮の
       宿として、ここに存在出来ているんだ・・・。」
  うらら「仮の・・・宿・・・?」
  松太郎「(頷く。)夏休みの間、この松の木こそ僕そのものなん
       だよ。だから夏休みが終わるまでに、もしこの仮の宿と
       してる松の木が、倒れたり枯れたりするようなことがあ
       れば、僕はもう自分の体に戻ることは出来ない・・・」
  うらら「・・・え・・・?じゃあ、松太郎は・・・」
  松太郎「この世から存在が消えてなくなるんだ・・・」
  うらら「駄目よ!!」
  松太郎「だからなんとか後少し・・・夏休みが終わるまで、この松
       の木を守って欲しい・・・!!」
  うらら「松太郎・・・分かった・・・分かったわ!!」

         音楽流れ、うらら歌う。

         “私が守る大切なもの
         私に任せて
         必ず助けるわ”

         松太郎歌う。

         “君に任せる僕の命
         君の思い出と共に
         生きる為”

         うらら歌う。

         “出会えた奇跡が
         再び奇跡を
         起こすわ必ず
         だから信じて
         あなたを守るわ”

  松太郎「ありがとう!!」

         松太郎、うらら下がる。
         一時置いて、上手より男達、下手より
         子ども達登場。

  男1「(子ども達を認めて。)こらこら、今日からここは立ち入り禁
     止だぞ。」
  ケン「立ち入り禁止・・・?」
  男2「ああ、そうさ。」
  男3「今からこの松の木の伐採作業をするんだ。危険だから早
     く出て行きなさい。」
  少年2「えーっ!!この木、切られちゃうの?」
  ケン「何でだよー!!」
  男1「ここには、大きなマンションが建つんだよ。」
  少年3「そしたらもうここで遊べないの!?」
  男2「そう言うことだな。」
  男3「さあ、おしゃべりしてないで、さっさと出て行くんだ。」
  少年2「ちぇっ・・・また俺らの遊び場所が減るのかよ・・・。」
  少女1「この松の木・・・可哀想・・・」
  ケン「うん・・・」

         子ども達、松の木を気にしながら、下手方へ
         行きかける。(男達、工具類を取り出し、伐採
         の準備を始めている。)
         その時、下手よりうらら、走り登場。

  うらら「待って!!」
  少女1「あなた・・・」
  ケン「誰?」
  少女1「ほら、隣のクラスに新学期早々転校して来た・・・」
  少年2「ああ・・・そう言えば・・・」
  うらら「待って!!待って頂戴!!この松の木を切ったりしない
      で!!」
  男1「え・・・?」
  男2「君は昨日の・・・」
  うらら「お願い!!こんな立派に大きくなった木よ!!それを、
      マンションを建てる為に切り倒すなんて止めて!!」
  男1「(笑う。)昨日も言ったけどねぇ、君・・・。この木の伐採は
     もうとっくの前から決まってたことなんだよ。今さら何があっ
     たって、それを止めることなんて出来ない話しなんだ。」
  
         音楽流れ、うらら歌う。

         “お願い
         この木を切らないで
         命の源だから
         こんなに大きく
         今まで育った
         そんな風に簡単に
         切るなんて言わないで!!”

  男3「そう言われてもねぇ・・・」

         うららに感化されるように、子ども達
         お互いに顔を見合わせ歌う。

         “そうだよ・・・
         僕らが生まれる
         前からこの場所で
         長い時を
         過ごした筈だよ”

         うらら、子ども達歌う。

         “お願い
         この木も生きてる
         長い時を
         人間がその是非を決めること
         出来る筈ない
         皆もこの木と
         同じに生きてる
         誰にもそのこと
         止める権利ない”

  うらら「だからお願いします!!どうか・・・どうかこの木を切らな
      いで・・・!!」
  
         男達、困ったようにお互い顔を見合わせ、
         何か話したりしている。

  ケン「おまえ・・・勇気あるな・・・。」
  うらら「え・・・?」
  少年2「俺達の遊び場だった松の木・・・」
  少年3「うん・・・小さい頃はよく、この木に登ったり・・・いっつも俺
      達皆で、この木の周りに集まって、遊んでたっけ・・・」
  少年2「この広い野原で走り回っている時も、この木はいつも俺
      達の砦だった・・・。」
  ケン「・・・そうだよ・・・おじさん!!この木を切り倒すのなんて止
     めて!!」
  少年2「お願いだよ!!」
  うらら「せめて・・・せめて何処か他の場所へ・・・」
  男2「他の場所・・・ったってなぁ・・・」
  男1「・・・あ・・・そうだ・・・おい!(他の男達に耳打ちする。)」
  男3「ああ・・・そうか、あそこなら・・・」
  男1「よーし、分かった!!そんなに言うならこの木を切らずに
     おいてやろう!!」
  うらら「え・・・?本当に・・・?」
  男1「ああ、本当だとも!」
  子ども達「(其々顔を見合わせて。)やったーっ!!」
  男2「俺達だって、樹齢何百年ものこんなご神木を、切っちまう
     なんて出来れば勘弁願いたいからな。」
  男3「ただし・・・この場所からは移動してもらうよ。」
  うらら「え・・・?」
  男1「君も言っただろ?何処か他の場所って。」
  男2「川沿いの桜並木の端っこに、植え直してやるよ。」
  子ども達「わあーっ・・・!!」
  うらら「(嬉しそうに微笑んで。)ありがとう!!おじさん達!!」
  ケン「よかったな!(うららの肩に手を掛ける。)」
  うらら「うん!!」
  少年2「やったな!!」

         子ども達、うららの回りに集まって、
         喜び合う。

  男1「さぁ、じゃあ早速準備にかかるか!!」
  男2、3「ああ!!」

         うらら残して、子ども達、男達下がる。
         そこへ上手より、松太郎登場。
         うららの側へ。

  松太郎「うらら・・・」
  うらら「(松太郎を認め。)松太郎!!」
  松太郎「ありがとう・・・」
  うらら「(首を振る。)ううん・・・。これで松太郎は消えてなくなら
      ないわね!!」
  松太郎「・・・うん・・・(心持ち淋しそうに。)」
  うらら「夏休みが終わるまで思いっきり・・・!!・・・どうしたの・・・
      ?」
  松太郎「うん・・・あのね・・・うらら・・・僕・・・」
  うらら「何・・・?」
  松太郎「・・・この木が移動させられる前に・・・元の体へ戻らなけ
       ればいけないんだ・・・」
  うらら「・・・移動させられる前に・・・って・・・」
  松太郎「夏休みが終わる前に・・・うららとお別れしなくちゃいけ
       ないってことなんだ・・・」
  うらら「・・・嘘・・・」
  松太郎「もう・・・時間がない・・・」
  うらら「時間がないって・・・」
  松太郎「もう、この木の移動が始まる・・・。僕は行かなくちゃ・・・
       」
  うらら「・・・嫌・・・どうして・・・!?この木があれば、松太郎は夏
      休みが終わるまでここにいることができるんでしょ!?そ
      の後は私がもう一度、松の木の主にお願いして・・・」
  松太郎「(首を振る。)この木が今ある・・・この場所が・・・僕の仮
       の居所だったんだよ・・・。だから・・・どこか別の場所へ
       行くと言うことは、僕の引越しも終わりなんだ・・・。」
  うらら「嫌よ・・・行かないで・・・行かないで、松太郎!!(泣く。)
      」
  松太郎「泣かないでうらら・・・。もううららには新しい友達もでき
       た・・・。僕がいなくても君は淋しくなんかないよ。」
  うらら「あなたは特別よ!!」
  松太郎「僕の姿は見えなくても・・・心はいつも君といる・・・。だ
       から会いたくなったら、僕を感じて・・・」
  うらら「松太郎・・・」

         音楽流れ、松太郎歌う。

         “優しい風 温かな気持ち
         僕はいつでも君の側に・・・
         姿は見えなくても
         心は君と共にいるよ
         だから悲しくなんかない
         君と過ごしたこの夏が
         僕の心を満たすよ
         いつまでも・・・
         だから君も新しい
         出会いに思いを馳せてごらん・・・
         新しい未来を見詰め
         歩いてごらん・・・
         僕も必ず・・・
         君の側に・・・”

  うらら「松太郎・・・」

         松太郎、松の木下がる。
         うらら歌う。

         “あなたと過ごした夢のような
         素敵な思いに溢れ返る
         優しい思いが私を包む・・・
         いつも側にあなたがいるわ
         だから忘れない
         いつまでもあなたのこと・・・
         目の前に続いて行く道
         心にあなたを感じている
         だから忘れない・・・
         きっと必ず・・・
         私の側に・・・”

  うらら「松太郎・・・ありがとうー!!」

         明るい音楽に変わり、下手上手より子ども達
         飛び出すように登場。

  ケン「うららー!!」
  少年2「うららー!!」
  ケン「何してんだよ!!」
  うらら「皆・・・」
  少女1「私達と遊びましょう!!」
  うらら「うん!!」

         子ども達歌う。

         “気付こうとしなければ
         気付かないこと沢山ある
         けどほんの少し横を向けば
         見詰める仲間がそこにいる
         誰もが皆友達だ
         ほんの少し手を出して
         掴めば仲間だいつだって”

  うららの声「松太郎・・・あなたがいたから、また私は新しい場所
         で新しい友達と歩いて行けるのよ・・・。私に会いに
         来てくれて・・・本当にありがとう・・・!!」

  ケン「ご神木の松の木でも見に行ってみるか!!」
  少年2「ようし・・・じゃあ川沿いまで競争だぞ!!」
  少年3「わーい!!」

         子ども達、歓声を上げ、下手へ走り去る。

  うらら「あっ、待って・・・待ってよー!!(下手へ行きかける。)」

         その時、一風が吹き抜ける。

  声「うらら・・・」

  うらら「(立ち止まり、回りを見回す。)松太郎・・・?」

  ケンの声「うららー!!早く来いよー!!」

  うらら「(下手方を見て。)うん!!(微笑んで。)松太郎・・・あな
      たも一緒に行きましょう!!」

         うらら、下手へ走り去る。
         音楽盛り上がり





        ――――― 幕 ―――――







  

    それでは次回掲載作品のご案内ですが・・・
    次回は、前回お知らせしていた通り、“ネコ吉”“ミータ”
    の若かりし頃のお話しをご覧頂きたいと思います(^^)v
    ・・・と言っても、実は新作ではなく・・・ファミリーミュージカル
    脚本を書かせて頂きだした頃に書いたお話しで、名前を
    たまたま最近書いていた猫達に変更して、紹介しようかな
    ・・・と思いついた、新旧合作作品とでも言いましょうか・・・
    そちらをご覧頂きたいと思います^_^;

    「ねこの村は大騒ぎ」(読み直してみたのですが、大騒ぎと
    言うより、ねこ達のちょっとした友情物語になっています。)
    お楽しみに♪



                                どら。







 ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪

   
    (どら余談^^;)

    読みは“しょうたろう”ですが、書くときはずっと“まつたろう”
    と打っていました~(^_^;)








   
  http://milky.geocities.jp/little_pine2012/index.html

         http://ritorupain.blogspot.com/

     http://blogs.yahoo.co.jp/dorapontaaponta