人間の足音、遠ざかる。
ホッとしたようにノラ、その場へ座り込む。
シェークスピア「行っちゃいましたね。」
ノラ「おまえがノロノロしているから、もう少しで人間に見つかる
ところだろ?」
シェークスピア「ごめんなさい・・・。」
ノラ「座れよ。茫っと突っ立ってっと、もう動き出すぜ。」
シェークスピア「はい!(ノラの横に正座する。回りを見回して。)
へぇ・・・、これが鉄道・・・。何か、余り座り心地
がよくないけど・・・。」
その時、発車ベルが鳴り響き、ゆっくり列車が
動き出す。
シェークスピア「う・・・うわあっ!!動いてる!!動いてますよ
!!」
ノラ「(慌ててシェークスピアの口を押さえて。)馬鹿!!そんな
でっかい声で吠えるな!!人間に見つかったらどうすんだ
よ!!全く!!」
シェークスピア「ごめんなさい。でも、これでもう直ぐジェシーに
会えるんですね!」
ノラ「・・・一体、どうしたらそんな風に、人間のことを信用できる
のか、俺は不思議だね。」
シェークスピア「ジェシーも・・・パパもママも、ジェシーの妹の
リズも、僕にはとても優しかった・・・。僕が迷子
になった時、雨の中を何時間も捜し回ってくれ
たり・・・僕が病気になった時は、一晩中側にい
て看病してくれたり・・・。僕は皆が大好きだった
。」
ノラ「じゃあ何故、そんなに優しかった人間が、おまえを捨てて
行っちまったんだよ。」
シェークスピア「捨てて行ったんじゃありません!!」
ノラ「(溜め息を吐いて。)へぇ、そうかい・・・。楽しみだな、会え
る日が・・・。(皮肉っぽく。)」
シェークスピア「はい!!ノラさんは、ニューヨークへ行ってどう
するんですか?ニューヨークに何か面白いこと
が待ってるんですか?」
ノラ「俺は“先ずニューヨーク”って言ったんだ。ニューヨークに
目的がある訳じゃない・・・。」
シェークスピア「へぇ!!じゃあニューヨークの次は、また何処
かへ行くんですね?」
ノラ「ああ。おまえのお陰で“先ずニューヨーク”ってのは、駄目
になったけどな。」
シェークスピア「ごめんなさい・・・。」
ノラ「まあ、俺の目的にとっちゃ、先ずニューヨークでも、先ず
サンフランシスコでも、たいして違いはないけどな・・・。」
シェークスピア「ありがとうございます!!」
サイコロ「うるせぇな、さっきから・・・。」
ノラ、シェークスピア驚いて、サイコロの方を向く。
サイコロ起き上がり、ゆっくりノラとシェークスピア
の方へ。腰を下ろす。
サイコロ「無銭乗車か・・・?」
ノラ「見たとこ、おまえも同じじゃないのか?」
サイコロ「まぁな・・・。(独り言のように。)ちっ・・・!2匹共、
ギスギスしてて不味そうだな・・・。(シェークスピア
の首輪を見て、何か思いついたように。)サンフラン
シスコへ行くのかい?」
シェークスピア「はい!」
サイコロ「ありゃあ、いい町だ。」
シェークスピア「知ってるんですか?」
サイコロ「ああ。俺様は、アメリカ中を渡り歩いてんだ。俺様の
知らない町なんてないぜ。」
シェークスピア「へぇ!サンフランシスコって、どんな所なんで
すか?」
サイコロ「そうだなぁ・・・、サンフランシスコは、回りを山で囲ま
れた、自然溢れる素晴らしい田舎さ。緑なんか一杯
あるぜ・・・。」
ノラ、サイコロの顔を不審気に見る。
シェークスピア「本当!?」
サイコロ「ああ。」
シェークスピア「じゃあ、ジェシーと野原を駆け回れるね!」
サイコロ「野原でも草原でも森ん中でも駆け回れるさ!それよ
りサイコロ遊び、やらねぇか?」
シェークスピア「サイコロ?」
ノラ「俺はやらねぇよ・・・。(ゴロンと横になる。)」
サイコロ「3回ずつサイコロを振って、その合計の数の多い方
が勝ちだ。」
シェークスピア「へぇ・・・。」
サイコロ「どうだ、坊主!やるか?」
シェークスピア「面白そうだな・・・。」
ノラ「止めとけ止めとけ。」
サイコロ「俺様はコイツを賭けるぜ。(ポケットから、懐中時計を
取り出し、前へ置く。)」
シェークスピア「(覗き込むように。)わぁ!綺麗な時計ですね!」
サイコロ「年代もんだぜ。それで?おまえは何を賭ける?」
シェークスピア「僕・・・僕、賭けるものなんて何も・・・。」
サイコロ「(シェークスピアの首元を見て。)そいつはどうだ?」
シェークスピア「(サイコロの視線に気付いて、首を触る。)・・・
これ・・・?」
サイコロ「ああ。えらく高価そうな首輪じゃないか。」
シェークスピア「これは、ジェシーが僕の誕生日にプレゼントして
くれた大切な・・・」
サイコロ「おまえが勝ったら、この懐中時計もおまえのものにな
るんだぜ。そのジェシーとやらに、いい土産ができる
じゃねぇか。」
シェークスピア「(少し考えるように。)・・・そうだね・・・そうだね!
うん!僕やるよ(首輪を外して、懐中時計の横
に並べる。)」
ノラ「いいのか?そんな奴の口車に乗っちまって・・・。」
サイコロ「おいおい、人聞きの悪いこと言うなよ。(笑う。)おまえ
は本当にやらないのか?え?ノラさん!」
ノラ「ふん!(ゴロンと背を向ける。)」
シェークスピア「ノラさんもやりましょうよ!」
ノラ、無視する。
サイコロ「まぁ、いいさ。2人でやろうぜ!ほら、先ずおまえから
だ、坊主。(サイコロをシェークスピアの方へ差し出す
。)」
シェークスピア「はい!(サイコロを受け取る。)よし、じゃあ・・・
(サイコロを投げる。)やった!!6だ!!」
サイコロ「やるじゃないか、坊主。じゃあ次は俺様だな。(サイコ
ロを取って投げる。)・・・6だ・・・。」
シェークスピア「わぁ!!緊張するなぁ・・・。(サイコロを取って
投げる。)やった!!また6だ!!」
サイコロ「そら!(サイコロを投げる。)・・・2だ・・・。(サイコロを
シェークスピアへ渡す。)3以上出れば、坊主の勝ち
だな。」
シェークスピア「・・・僕の勝ち・・・」
サイコロ「ああ。」
シェークスピア「よおし!3以上出して、その時計は頂きます!
(サイコロを投げる。)あー・・・1だ・・・。」
サイコロ「(ニヤリと笑う。)残念だったな、坊主!さぁ、俺様の
番だ。これで俺様が見事6を出せば、俺様の勝ちって
訳だ!そら!(サイコロを投げる。)一発逆転6だ!!
悪いな、坊主!この首輪は頂きだ。(笑う。首輪と時計
を手に取る。)」
シェークスピア「あ・・・」
ノラ「おい、如何様野郎・・・。(起き上がる。)」
シェークスピア「ノラさん・・・」
サイコロ「如何様・・・?」
ノラ「さっきから、2個のサイコロを巧みに使い分けてたつもりだ
ろうが、世間知らずのコイツと違って、俺の目は誤魔化せ
ないぜ・・・。」
サイコロ「何言ってんだ。俺様が何時・・・」
ノラ「(サイコロの服のポケットから、サイコロを抜き取り、サイコ
ロの前に放り投げる。)」 ※
サイコロ「おい!!何すんだ!!」
ノラ「この重石の入ったサイコロが、何よりの証拠だろ?さぁ、
その手にしてる首輪を返してもらおうか。」
サイコロ「・・・嫌なこった!!ふん!!コイツは初めっから、俺
様が頂戴しようと思ってたんだ!!そう簡単に返して
たまるかってんだ!!(立ち上がる。)」
ノラ「(立ち上がって。)なら、力尽くで取り返すまでだ!!」
シェークスピア「ノラさん!(立ち上がる。)」
ノラ、サイコロ、見合ったまま構える。
その時、人間の声が聞こえる。
人間の声「こっちです!!」
ノラ「人間だ!!」
3匹、驚いて逃げようと其々、サイコロ下手方へ、
ノラ、シェークスピア上手方へ行きかけると、上手
下手から人間が登場。3匹、怯えるようにゆっくり
中央へ。
人間1「(3匹を認めて。)野良犬に狼!?3匹も紛れ込んで
やがったのか!!」
人間2「放りだしてやる!!」
人間達、3匹を捕まえようとする。ノラ、
シェークスピア“ワンワン”吠える。サイコロ唸る。
人間3「ワンワン煩いんだよ!!他のお客様に迷惑がかかる
だろ!!」
其々、躍起になりながら追い掛ける3人の人間に、
捕まった3匹、吠えながら逃げようと暴れる。
その時ノラ、人間の腕に噛み付く。
人間3「いてててて・・・!!(思わず捕まえていたノラを放す。
)コイツ!!」
ノラ、続いてシェークスピアを捕まえていた人間
に噛み付く。
人間2「いてててて・・・!!(シェークスピアを放す。)」
ノラ、シェークスピアの腕を素早く取って、
上手へ走り去る。
人間3「おい、早く捕まえろ!!」
人間2「ああ!!」
人間2,3上手へ、ノラとシェークスピアを追い
掛けて走り去る。サイコロの唸り声が辺りに響いて
フェード・アウト。
――――― 第 3 場 ―――――
上手客席より、ノラ、シェークスピア息を切らせ、
走りながら登場。
ノラ「(後ろを振り返って。)ここまでくれば、もう大丈夫だろ・・・。」
シェークスピア「(後ろを見る。)はい・・・。」
ノラ「(シェークスピアが押さえている手に、チラッと目を遣る。)
・・・大丈夫か?」
シェークスピア「(手を見て。)はい・・・。さっき、飛び降りた時に、
ちょっと擦り剥いただけだから・・・。」
ノラ「・・・かしてみな!(シェークスピアの手を取って、傷跡を舐
める。ハッとして手を離す。)こんなのは、舐めときゃ治るん
だよ!!」
シェークスピア「ノラさん・・・ありがとう・・・。僕の為に、あの人か
ら首輪を取り返そうとしてくれて・・・。」
ノラ「・・・けど、取り返せなかったな・・・。あの騒ぎで、何処かへ
行っちまった・・・。(作り笑いする。)」
シェークスピア「(首を振って微笑む。)僕、嬉しかった!ノラさん
が一生懸命闘ってくれたこと・・・。でも、どうして
あの人が如何様したって分かったんですか・・・
?」
ノラ「サンフランシスコの話しを聞いた時にピンとくるさ。俺は、
その辺に落ちてた観光ブックでしか知らないけど、アメリカ
西海岸の都市サンフランシスコは、少なくともあいつが言っ
てた、山に囲まれた田舎ではないからさ。」
シェークスピア「そうか・・・、西海岸の都市か・・・。僕、何も知ら
なくて・・・。」
ノラ「当たり前だろ。(笑う。)」
シェークスピア「・・・そうですね!(笑う。)でも・・・どうするんです
か?こんな所で、列車から降りちゃって・・・。見え
る限りの地平線・・・。」
ノラ「大丈夫大丈夫!何とかなるさ!」
ノラ、元気よく歌う。シェークスピア、嬉しそうに歌う。
“なんとかなるさ このまま歩こう!
彼方に見える地平線も
ゴールのテープに見えてくる
足があるんだ このまま進もう!
昇る太陽が道標
続く線路が道案内
何も恐れるものはない
歩けば必ず到着するはず
願いを叶えるんだ
この果てに見える夢に向かって
歩き続けよう!”
ノラ「行くぞ!!」
シェークスピア「はい!!」
2匹、下手へ走り去る。
―――――“わん!!ダフルMOMENT
―君と僕との素敵な出会い―“3”へつづく―――――
※ ここの()内の文章・・・書いてる時はあまり考えもしなかっ
たのですが、改めて読み直すと・・・可笑しいですね~^^;
― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪
今は、基本的にハッピーエンドが好みであるのと、子ども
相手の作品を書くことが多いのとで、余程のことがない限り、
悲劇にはしません。でも、この頃の作品を読み直していると、
やたら悲しい結末を迎えるお話しが多いのです^^;
今と違って、ハッピーエンドを探す方が難しいのではないか
・・・と思うくらい・・・(>_<)だから・・・?
はい、今回のお話しも・・・(-_-;)ラスト、ちょっと書き直し
ちゃうかも知れません・・・^^;
どら。
http://www.geocities.jp/littlepine2005/
http://blogs.yahoo.co.jp/dorapontaaponta
http://blog.goo.ne.jp/axizgoo7227