~経済ニュースの森の奥~ ・・マクロな視点から。

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No46 ドルの急落がグローバル世界に与えるショックとは

2006年04月23日 | グローバル経済
4/9日経6面(ニューヨーク発) ・・・米個人負債、最大の11.9兆ドル─消費に懸念も―
米国で個人の借り入れ依存が一段と強まっている。住宅関連の借り入れ増などで、米家計の借入金残高(個人負債)は2005年末で前年末比11%増の約11兆9000億ドルと過去最高を記録。可処分所得に対する負債倍率も1.3倍と過去最悪となった。住宅価格の上昇などで資産も増したが、負債増のペースが上回った。金利上昇で個人消費が抑制される懸念も次第に高まっている。


4/21ロイター(ワシントン)・・・IMF(国際通貨基金)は21日、世界的不均衡について会合を主宰、ドルの急落をいかに回避するかについて討議した。
この非公開会合には、トリシエ欧州中銀総裁(ECB)バーナンキ米連邦準備理事会議長(FRB)、中国人民銀行の周小川総裁らが出席したという。
会合の要旨として「住宅市場の沈静化や個人消費の減速などで米経済は鈍化する可能性があり、それに伴いドルも下落するだろう。各国はそれに備えるべきだ」との見方が示された。
また、ドルが急落すれば、米国でのインフレを引起して長短金利が上昇し、米経済に打撃を与えるとの懸念も示された。
アジアからの出席者の間では、ドル急落の可能性がある際に外貨準備の大半をドルに投資するリスクについて、認識が徐々に高まっているという。

(以上抜粋)

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G7終了後に、非公式で米国・欧州・中国の金融政策トップがIMFと会合を開いていたことはこの小さなロイター報道以外まったく目にしませんでした(ちなみにロイターHPには載っていません)。
来るべきドルの下落が急激に起こった場合、世界経済全体へ及ぼす影響がいかに大きいか、改めて認識せざるを得ないと実感するニュースです。

ドルの信認低下による世界同時不況の危険性はこのブログも立ち上げ当初から何度か警鐘を鳴らしてきましたが、昨今の欧米日同時金利上げモードに原油高が加わって、より現実味を帯びてきた可能性があります。

金融資本や消費財・工業資材などあらゆる面でグローバル化が進んだ結果、日本はもとより世界が米国と一蓮托生になってしまった。基軸通貨である米国ドルに信認を与えすぎてきたツケがいつか払われようとしています。

理解しやすくするために上の2つの報道に基づいて簡単におさらいしてみます。
インフレ懸念 ⇔ 金利上昇・原油高 ⇔ 米消費抑制・借金増 ⇔ ドル安 
・・・これら米国内の懸念材料が全て連鎖しています。文章で示すと判りにくいですが、どの順番でどこへ波及するという定義はなく、このうちどれかが具現するとそれぞれへ悪影響を与えるということだと理解しています。


次に、米国から世界経済へと視点を移します。
米消費減・ドル安 ⇒ 米向け輸出減 ⇒ 世界同時不況リスク
・・・背景にはアメリカほどの強い内需が世界主要国に根付いてない前提があり、日本ややEUが米国への輸出に頼った成長をしていることで発生するリスクです。

アメリカへの貿易輸出額の多い順は、①EU②カナダ③中国④メキシコ⑤日本⑥中東・・となっています。統計グラフを見るとどの国も2003年あたりから急激なカーブで米国輸出が激増中です(ただしカナダとメキシコは自由貿易協定(NAFTA)により米国からの輸出も多く、対米黒字はそれほどない)。

 中国・インドなどの新興国は長期的に内需爆発力を秘めているわけですが、アメリカ人の現在の消費額はまるでケタが違います。世界中がアメリカの消費力をアテにしてきました。


さらに、モノではなく金融資本の動きはどうなるでしょう。
ドル安・米経済不況 ⇔ 世界的ドル離れの連鎖/悪循環リスク
・・・中国筆頭にしたアジア諸国・日本・中東などは自国防衛のため外貨準備を積み上げていますがその大半はドルです。ドルが多いのは基軸通貨だから当たり前ですが、これをユーロにシフトする動きが急激に起こる可能性があります。

つい先日も、ドルをかなり少ない額しか持っていないスウェーデンの中央銀行がドル→ユーロにシフトすると発言して為替が動いたり、ロシア財務省が外貨準備をドルで持つことに疑問を感じると発言しただけでドル安が進んだりと、世界がこの事にかなり敏感になっていることがわかります。上の報道のIMF会合でのアジア当局者の認識もドル離れを意識させるものです。

しかし、長期で見た世界経済の行方にとっては少し複雑で・・
ドル安・ドル離れ/米国輸入減 ⇒ 米国経常赤字の減少 ⇒ 「貿易不均衡の是正」
・・・という一見良い側面を同時に持ち合わせていて、世界経済最大のリスクといわれる貿易不均衡問題(=米赤字問題)は解消に向かうわけです。

つまり世界不況リスクと世界貿易不均衡是正は同じコインの裏と表で、米国と他国との貿易不均衡が解消されるほど世界の不況リスクは増していくという矛盾に満ちた(メビウスの輪のような)状態にあるわけです。

上の報道に戻ると、IMF会合の「ドル下落に各国は備えて・・」というのは、極端に言うと各国いっせいにドルのリスクに備えユーロ等にシフトすれば、その先に世界的不況リスクが待っているという“頭隠して尻隠さず”のような話しになってしまう危険性があるわけです。

別の最新報道でIMFが、金融危機に対する備えとして途上国へより良い融資制度を提供することで、外貨準備蓄積を軽減する方法を研究しなければならない・・とし、新興国の通貨の監視などを含む、新たな監視システムを間もなく導入すると発表したとのこと。急激に増えた新興国のドル準備高が抱えるリスクを、IMFがコントロールしようということでしょう。

また、欧米日など主要国の中央銀行が金融調整政策を慎重にミスなく進めることができれば、よりマイルドなインフレと緩やかな不均衡是正が実現できる可能性もあると感じます。その場合この数年続いた世界同時好況の減速は避けられないものの、通貨危機や恐慌のような大事件には至らない“マイルドな景気調整”が期待できます。

ことグローバル世界経済の舵取りについてはとにかく「ソフトランディング」が大切ということでしょうか。