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No37 米貯蓄率が上昇しては日本も中国もインドも困る!?という『グローバル・バブル世界』の現実

2006年01月25日 | グローバル経済
1/22日経 第4面より・・・05年の米国の貯蓄率※がマイナス水準(▲0.4%)に転落。
80年代平均が9%、90年代5.2%。マイナスは(73年前の)大恐慌以来だ。

※貯蓄率:給料などの収入から税金を差し引いた可処分所得に対し、どれだけ蓄えに回しているかを示す指標

住宅や株式など資産価格の上昇によって家計が潤い、所得を貯蓄へと回す必然性が薄れているのが一因。今後住宅などの資産価格に異変が起きた場合、蓄えがない分だけ家計が被る打撃が大きくなる。 大量退職を迎える戦後ベビーブーマー世代も資産効果に頼りがちで蓄えが少ないことが問題視されている。

SF連銀によると、貯蓄率低下に歯止めをかける契機は、株価下落・住宅市場の減速・長期金利の急上昇の三つ。 貯蓄率が上昇すると、海外マネーへの依存度を減らせると指摘。
半面、企業や設備投資に影響が出るという。


・・・


貯蓄率の減少は米国に限らず、所得の格差拡大(二極化)と大いに関係があるように思われます。

80年代から勝ち組応援政策を取ってきたアメリカは、日本以上には二極化が激しく(先進国トップ)ごく一部の富裕層が米国民の下位半分が持っている資産と同じ額を占有している実態です。平均値がマイナスということは中央値(データサンプル全体の真中の人の貯蓄率)はもっと低いことが容易に推測されます。


ありがちな意見ですが、貯蓄に関しては国民性の違い、とひと言で片付けてしまうのはもはや昔の話です。 日本の貯蓄率も大きく低下していて、急速な二極化の進行で貯蓄ゼロ世帯の数が40年前の水準に戻っています。10年前の米国は貯蓄率5%ありましたが今の日本はその半分近く(2.8%)です。しかし今の米国の状況は日本の貯蓄率うんぬんとは原因も、世界に与える影響度も違います。

その元凶と見られている米国の「住宅ブーム」。ラスベガスやNY,フロリダ、ハワイなど投資価値の高いところは1年間で30~40%も不動産が急騰しました。米国の一般庶民は株を買う感覚で不動産投資を行うのですが、この投資を借金でやっているのが一般的です。ローン金利は変動で5~6%、日本の約2倍の金利でも米国内では類を見ない低金利ということです。 それでも大きく相場が上がったので時価総額が膨張し、とても儲かった“気分”になり消費マインドも向上します。さらに時価が上がった分を担保にしてさらに借金ができる仕組みがポピュラーな国でもあります。これが問題です。

現状、大部分の人は実際には物件を売り抜いてキャッシュを手にしていないわけで、それはつまり「泡」そのものといえます。私も個人的な絡みで足元の事情に多少明るいのですが、現場の状況ではすでに中古の売り在庫が急速に増えつつあり、昨年までのように言い値で売り抜くことは難しくなってきています。引き合いの数自体が昨年秋あたりから急速に落ちている感じです。ますます売るに売れない塩漬け物件が増えてくるはずです。

時価総額が減少していけば、今後近いうちに個人のローン破産が激増するのは避けられないと見ています。そうなれば米国を牽引している消費の落ち込みは避けられないでしょう。これは世界中に大きな影響を与えます。

上の記事でのSF連銀は、米国の資産価格が下落したり金利が急上昇したりすれば、貯蓄率は上昇し海外マネー依存度が減らせる・・と米国立場から考えたときのポジティブな言い回しをしているようですが、このことは他の世界(他国)から見れば、少なくとも短期的には避けてほしい最悪のシナリオです。

日本のことだけ考えてみても・・
米国株価が明らかな下落基調に転換すれば投資家の投資余力が少なくなり日本の株価や都心の不動産価格に大きく影響します(当ファイルNo34,35,36参照)。資産プチバブルが景気を引っ張っている日本の現状に痛い一撃を加えそうです。

さらに企業収益の3分の1を海外に頼っている日本企業(1/25日経記事)からすれば米国の消費減少はタダ事ではありません。いま“日本企業のファンダメンタルズは力強い”との論調が大勢ですが、米国消費に助けられたグローバル企業の企業体力に頼ったファンダメンタルズであることを忘れてはいけません。
これまでの米国人の驚くべき消費量に恩恵をあずかっているのは中国、インドなど新興国も同じです。

日本や中国はじめ米国ドルを稼ぎまくっている国は、そのマネーで米国債を購入しつづけ米国長期金利の上昇を防ぐ役割を果たしています。長期金利が低いままなので米国人は住宅ローンを組める。それが住宅ブームを支え、時価上昇分を担保にした借金が増え、消費ブームを支える原点になっています。

いつまでこの麻薬のような循環が続くでしょうか?それが危惧されはじめて久しいわけですが、最近ついに米国の住宅指標、株価指標に黄信号が灯り始めました。微妙なバランスの上に成立しているなんともよく出来た(?)世界循環が壊れるリスクが徐々に高まってきた感じがします。 

皮肉にも、日本含めた諸外国にとって米国人の貯蓄率が上がってしまっては大変困るわけです。その時は米国に大きなリセッション(再調整)が起こっているときだからです。

このよく出来た循環が米国経常赤字を記録的に増やしつづけていることはあまりにも有名ですね。貯蓄率と同じ意味ですが、米国にはずっと経常赤字を増やし続けてもらわなければ他国は困ります。

米国に依存した、いびつで不自然なバランスの上に立った昨今の世界的景気拡大は、大げさにいえば世界的規模の『グローバル・バブル』とも言い換えられます。


だがムリを続ければいつかリバウンドすることになります。問題はそれが「いつ」で「どれぐらい大きい」のか。これを正確に予想できる人間はいません。

リバウンドの引き金サインとなるキーワードは“米国金利”“NYダウ株価”“住宅価格”であるということでSF連銀総裁のコメントは全くその通りであるといえます。いつ異変が起こってもおかしくないので、一般投資家においては最大の注意を払って慎重に行動するしかありません。

最近世界的にドルが安くなりはじめ、ユーロやスイスフランなどの“避難通貨”に人気の兆候が見られるのも、もしかしたらサインのひとつの現れなのかもしれません。

たかが貯蓄率の小さい記事のようでもその裏にすごく大きな問題をはらんでいて、無視するわけにはいかないと考えます。ひとえにグローバル世界はアメリカと一蓮托生だからです。