~経済ニュースの森の奥~ ・・マクロな視点から。

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No49 “世界相場一斉急落”の森の奥②・・学習&予想篇

2006年05月29日 | グローバル経済
5/28日経より抜粋・・・世界の株式、商品相場が不安定さを増している。米欧などで利上げ観測が強まり、投資家がリスクに敏感になり始めたためだ。高リスクの株式、商品市場から比較的リスクが低いとされる米債券市場などにマネーが逆流、こうした「質への逃避」が新興国株や金相場などの急落を招いた。ヘッジファンドや年金基金が巨額の資金を動かすようになったことも相場の振れを大きくしている。

今月10日発表の米消費者物価指数が予想を上回り「インフレ抑制のため利上げが長期化、世界経済に水を差すリスクがある」との懸念から、投資家が安全志向を強め株式、商品市場から資金を引き揚げた。


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今回の米国発世界同時株安は、急落中の5/18前ファイルNo48でその要因などを書きましたが、その後3日ぐらいでもう一段下げたあと自律反発して小康状態?となっていますね。

日本株は最大で10%程度下落、米国が約5%、ドイツ、英国、韓国、香港等が日本と同様に約10%の下落値をつけた後、現在その3分の1~半分前後を戻している状況です。

新興国の下げはさらに大きく、最大下落率はブラジル、インド、ロシアは15~25%、インド・ロシアでは取引所が一時取引の全面停止に追い込まれ、中南米は米同時多発テロが発生した9・11以来の最大の下げを記録。

あまり大ニュースになりませんが、オイルマネーを抱える中東市場では今月サウジが50%以上暴落し、UAEのドバイに至っては(他国より早く)昨年11月に1250あった指数が60%以上下げ400台という悲惨なありさまです。

この急落に対するエコノミストの分析や報道が盛んです。上の記事にもあるように米市場金利に対する市場拒否反応、FRB議長の市場対話不慣れ、質への逃避・・・考えうる要因を並べて理由を特定し、今後については「良好なファンダメンタルズに変わりはないのだから、早晩元に戻すだろう」といった楽観論がどちらかというと主流です。

また株安はデフレ圧力を伴うため、世界同時株安が長引けば世界同時不況が生じるのではないかという悲観的な観測もあります。

BRICsなどの新興国は、確かに長期的な成長潜在力を持ち将来的に先進国以上に発展していくかもしれません。しかし細かいデータをすべて取り払って単純に考えたとき、実体経済の健全性や成長を明らかに超えた、1年で100%を超えるような相場の急上昇が下落の直前まで続いたわけです。しかし限りなくバブルといえる、下落に至るまでの根本要因については、あまり積極的に論じられていないのが不思議です。

ウォール街やオフショアファンドを通じた外国マネーの過剰流入による投機資金が、その国のファンダメンタルズとの整合性もよく確認されないまま、勢いで株価を押し上げていったのは明らかでした。急落局面についてもファンダメンタルズでは全く理解不能な下落を記録したということで、計らずもこれが「グローバル投機バブル」だったことを証明してしまったと思います。


考えてみればグローバル金融機関の投機マネーが世界一斉に引いていったのは20年近く前から何度かありました。

米国発の世界同時株暴落、「ブラックマンデー」が起こったのは1987年10月、グリーンスパンがFRB議長に就任した3ヵ月後でした。暴落の連鎖が広がった背景には普及し始めていたコンピュータシステムによるプログラム取引が、各国市場の下落を受けて自動的に売り注文を出す連鎖が起きたためといわれています。

10年後の97年10月にロシアが発端となり世界経済を揺るがした世界同時株安は、香港市場に始まりニューヨークで史上最大幅の株価暴落をひき起こしたほか、その影響は東京・アジア・欧州・中南米など世界各地の市場に及びました。
(日本の不動産バブル、2000年米国ITバブル崩壊、9・11直後の急落・・等は比較的局地的な事象なので、ここでは少し分けて考えます)

04年~05年の世界相場急上昇は、BRICsの潜在パワーや日本の景気回復などがまるで神話のように謳われ「これはバブルではなく正当な上昇」という話がまことしやかに喧伝されてきたことで、海外機関投資家が火をつけたあと大量の個人投資家がそういったアナウンス効果に追従してブームを形成していきました。日本の金融機関などもあやかって商売繁盛と相成りました。

冷静に考えてみれば“BRICs”を喧伝したのはウォール街(を代表するゴールドマンサックス)、大量の投機資金をいち早く新興国に入れ始めたのも彼らで、今回の急落の直接的な引き金を引いたも主に彼ら周辺のヘッジファンドというわけです。

相場の急上昇にせよ暴落にせよ急激な変動でもっとも利ざやを上げられるのは世界で一握りの投機エリート集団である彼らです。思惑通り相場が右肩上がりの急カーブを描いていったとき、何らかのリスキーな要因を理由にして、売りを仕掛ける絶好のタイミングでビッグチャンスをモノにする、といったところでしょうか。

利ざやの格好のターゲットになったのはBRICsやそれに続くエマージング諸国・・そして2年間大幅な外国人買い越しが続いた日本、などです。
今回急落で最も被害が少ない市場は・・彼らの本拠地NYであるというのは単なる偶然だと思いますが。

歴史がいつか繰り返してきたように、今回の一件で多くの個人投資家は臆病になり、本格的に相場に戻ってくるまでには癒しの時間がかかると思われ、先進国マーケットは別としても新興国市場が昨年のような連続右肩上がりのペースに戻るのは当分先のような気がします。ファンダメンタルズ指標は引き続き軽視されながら、今後も新興国相場は一進一退を繰り返すように思えます。

そして、傷が癒え記憶が薄くなった頃を見計らって訪れるのは、投機筋の仕掛けによるある特定エリアの「バブル相場」再現。その時は誰もバブルだと考えず、別のもっともらしい上昇理由が喧伝されるはずです。

それは数ヶ月後なのか数年後なのか、エリアはどこなのか? 

時期はともかくとして、意外にも昨年最も株価上昇率の低かった米国などは、案外上げ底が作られるのに適しているかもしれません。
万年経常赤字は止めたくとも、海外からの穴埋めがストップしたら米国内が大変なことになるので極端な政策は取れません。さらに大統領の支持率は最低で、住宅資産価格は目減り方向・・となれば当面をしのぐため、米国民の大部分が年金運用などで保有している株資産を押し上げる方向に向わざるを得ないのではないでしょうか。インフレ懸念よりも、過度な金融引締めのほうが今の米国にとってハイリスクだと判断するような気がします。


いずれにしても、BRICs神話がウォール街を起点にして世界中のエコノミストや証券アナリストから大きく喧伝されたように、投資に関する同一方向のトレンド情報が世間一般に繰り返しアナウンスされてきた時は要注意です。

CMを扱う広告業界のノウハウと原理は同じで、人は反復される情報に弱いものです。消費商品ならCMで刷り込まれた後に購買しても損はないのですが、投資商品はフォロワーになるほどリスクが高まります。急落直前の4月に株式投信の流入残高が史上最高を記録したというニュースは、象徴しているといえます。

BRICs神話のような、メディアによってマーケットに繰り返されるトレンド情報に対して、次こそ慎重で冷静なまなざしを向ける必要がありそうです。


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5/31追記…米国の新しい財務長官にゴールドマンサックスの会長が就任しましたね。今後ますます、あからさまな政・財界の一体化が進むようです。
もとより、世界経済に重要な影響を与える米政権の発言・行動は、国益よりもウォール街の利害を代表している・・といつも意識しながらニュースを聞いています。