●さかのぼること05年11/14・・・米経常赤字の拡大に警鐘・米FRBのグリーンスパン議長(当時)は講演で、米経常赤字の拡大に警鐘を鳴らし「いつまでも維持できない水準にある」と述べた。「投資家はある時点で赤字のファイナンスに尻込みするだろう」とも語り、経常赤字を穴埋めする海外の対米投資が縮小しかねないとの懸念を表明した。
議長はメキシコ銀行(中央銀行)の会議で、衛星放送を通じて講演した。経常赤字が国内総生産(GDP)の6%を超える規模まで拡大しているにもかかわらず、最近のドル高が海外の資金を引きつける役割を果たしているため「現時点では赤字の穴埋めに支障は出ていない」と述べた。
3ヵ月後・・
●2/15・・FRBのバーナンキ新議長は下院金融委員会で「高水準の米経常赤字が懸念材料で、縮小する必要があり、それは可能だ」と述べた。ただし「経常赤字の急激な縮小は望ましくない」という見解も示した。
関連して・・・
●2/10・・・米商務省が10日発表した05年の米貿易赤字は前年比17.5%増となり、4年連続で過去最大となった。対中国、対日のモノの貿易赤字も、それぞれ過去最大を更新。対外不均衡の拡大を受け、米議会では保護主義的な動きが強まる恐れが出てきた。
(筆者注:2003年貿易赤字から2年間で50%近く増えた)
●2/20・・・国際マネーの対米証券投資、昨年1兆ドルを突破
2005年の外国から米国への証券投資の買越額が年間ベースで初めて1兆ドル(約118兆円)を突破した。米国債など民間マネーの債券投資が拡大した半面、政府部門の買越額は前年比半減。貿易赤字を大きく上回る資金還流がドルや金利の安定を支える米経済の構図を浮き彫りにした。だが、資金の主力が外国の政府・中央銀行から民間にシフトしたことで先行き不透明感を指摘する声もある。
民間マネーの対米投資拡大の一因は原油高で膨らんだ中東マネー流入の加速。バーナンキ米連邦準備理事会(FRB)議長は15日の議会証言で「長期的にインフレが抑制されるとの(金融政策への)信頼が年金などによる長期債投資につながっている」と分析した。
<以上、日経・ロイターより>
・・・・・
昨年はすっかり鳴りをひそめていた米国の経常赤字問題が、少し前のグリーンスパン前議長の発言あたりから再び議論の的に上がりつつあります。
もちろん鳴りをひそめていた間に経常赤字が縮小していた訳ではなく、赤字はむしろ加速度的にそのスピードを増していたのですが、05年はもっぱら米の住宅ブームを起爆剤とした世界的景気回復の熱に酔いしれる方へ関心が集中し、世界経済にとって根源的問題である米経常赤字については“臭いモノに蓋”をした状態であったといえるでしょう。
おさらいですが、そもそもアメリカの経常赤字が世界経済全体にとってなぜそんなに問題であるのか? これについてはまず今一度No37~38をご覧ください。
経常赤字問題をマスコミ的に(表面的に)分けると、
①“世界ドル帝国”にたてつく中国の貿易不均衡問題。為替切り上げ要求や産業空洞化の解決を求めてアメリカがイライラしていること(当ファイルのNo19参照)
②米国人の消費しすぎマネーを世界中がファイナンス(手当て)している家計収支の悪化。この異常状態がどこまで続くのか、当blog呼称「グローバル・バブル」が一気崩壊する危険性がある。(No37-38参照)
・・という2つに大別できますが、この①②が赤字減らしの根っこで絡まりあっていることが問題を複雑にしているような気がします。
①は一次的には米-中2国間の貿易問題であるといえ政治的な駆引きが激化していて目が離せません。②の家計収支は米国と繋がっている世界各国にとって重要関心事です。 世界各国の想いは、対中貿易摩擦の解消などで赤字額自体は減らすべきという総論とは裏腹に、米国景気の減速や何らかの事変が起こったときに世界中から集まったドルが米国から引き揚げてしまえば、世界経済の船頭役である米国資産や消費に大打撃を与え、ひいては各国経済に影響を及ぼすことが容易に予想されるため、できるだけ米赤字が減らないよう望んでいるという矛盾をはらんでいます。
日本や中国の政府部門に代わって赤字を支える主役に踊り出たのは原油高で潤った中東マネー。上の記事にもあるように、民間のオイルマネーが昨年は大量に米債券へ回ってきました。
だれが、いつまで米国の借金を支えていくのか。
アメリカ一国の住宅指標や消費指標に対して、世界中が毎日かたずを飲んで注目せざるを得ないという奇妙な現実が数年間続いています。合わせて、中国が保有する莫大な米国資産(米債券)を今後どうするつもりのか、米中貿易摩擦の綱引きと合わせて、中国当局が赤字問題のカギを握っているといっても過言ではないと感じます。先の中東オイルマネーの動向も同様に気になる存在です。
片や米国側にとってのウルトラCは「ドル安」誘導です。手っ取り早く赤字を減らすことができるからです。今年は米国中間選挙があり、議会の総意として85年双子の赤字を減らすために各国にドル安を容認させたプラザ合意と同じような動きが今後活発になる可能性が指摘できます。
円高ドル安は米国への輸出が経済の原動力となっている日本企業にとっては戦々恐々といったところでしょう。日本政府が中国とほぼ同額保有している米債券の価値も目減りしますが、米国御用政府(日本)は裏切って引き揚げることはできないだろうというのが大方の見方です。
その点中国はドライに引き揚げる選択もカードとして持っているし、為替自由化に踏み切らないのも米国のウルトラCを封じるための切り札戦略と見ることができます。
また、中東は何といっても石油というジョーカーを持っています。そもそもオイルマネーは民間マネーですから、いつでも自由に動かすことができる。
ドル帝国に振り回される運命の日本に比べ、強力な封鎖壁を作って対抗している中国はアメリカにとってまさに目の上のタンコブ、中東はボトルネックといえるかもしれません。
ドル支配下の円で暮らす日本人にとっては、これからもこれらの国同士のパワーゲームにハラハラドキドキしながら暮らすしかないように一見思えます。
ですが昨今の海外マネー投資ブームに表れるように、円を捨てて資産逃避する日本人が益々増えていくのも、個人としては理にかなった自衛策の行動といえるかもしれません。
議長はメキシコ銀行(中央銀行)の会議で、衛星放送を通じて講演した。経常赤字が国内総生産(GDP)の6%を超える規模まで拡大しているにもかかわらず、最近のドル高が海外の資金を引きつける役割を果たしているため「現時点では赤字の穴埋めに支障は出ていない」と述べた。
3ヵ月後・・
●2/15・・FRBのバーナンキ新議長は下院金融委員会で「高水準の米経常赤字が懸念材料で、縮小する必要があり、それは可能だ」と述べた。ただし「経常赤字の急激な縮小は望ましくない」という見解も示した。
関連して・・・
●2/10・・・米商務省が10日発表した05年の米貿易赤字は前年比17.5%増となり、4年連続で過去最大となった。対中国、対日のモノの貿易赤字も、それぞれ過去最大を更新。対外不均衡の拡大を受け、米議会では保護主義的な動きが強まる恐れが出てきた。
(筆者注:2003年貿易赤字から2年間で50%近く増えた)
●2/20・・・国際マネーの対米証券投資、昨年1兆ドルを突破
2005年の外国から米国への証券投資の買越額が年間ベースで初めて1兆ドル(約118兆円)を突破した。米国債など民間マネーの債券投資が拡大した半面、政府部門の買越額は前年比半減。貿易赤字を大きく上回る資金還流がドルや金利の安定を支える米経済の構図を浮き彫りにした。だが、資金の主力が外国の政府・中央銀行から民間にシフトしたことで先行き不透明感を指摘する声もある。
民間マネーの対米投資拡大の一因は原油高で膨らんだ中東マネー流入の加速。バーナンキ米連邦準備理事会(FRB)議長は15日の議会証言で「長期的にインフレが抑制されるとの(金融政策への)信頼が年金などによる長期債投資につながっている」と分析した。
<以上、日経・ロイターより>
・・・・・
昨年はすっかり鳴りをひそめていた米国の経常赤字問題が、少し前のグリーンスパン前議長の発言あたりから再び議論の的に上がりつつあります。
もちろん鳴りをひそめていた間に経常赤字が縮小していた訳ではなく、赤字はむしろ加速度的にそのスピードを増していたのですが、05年はもっぱら米の住宅ブームを起爆剤とした世界的景気回復の熱に酔いしれる方へ関心が集中し、世界経済にとって根源的問題である米経常赤字については“臭いモノに蓋”をした状態であったといえるでしょう。
おさらいですが、そもそもアメリカの経常赤字が世界経済全体にとってなぜそんなに問題であるのか? これについてはまず今一度No37~38をご覧ください。
経常赤字問題をマスコミ的に(表面的に)分けると、
①“世界ドル帝国”にたてつく中国の貿易不均衡問題。為替切り上げ要求や産業空洞化の解決を求めてアメリカがイライラしていること(当ファイルのNo19参照)
②米国人の消費しすぎマネーを世界中がファイナンス(手当て)している家計収支の悪化。この異常状態がどこまで続くのか、当blog呼称「グローバル・バブル」が一気崩壊する危険性がある。(No37-38参照)
・・という2つに大別できますが、この①②が赤字減らしの根っこで絡まりあっていることが問題を複雑にしているような気がします。
①は一次的には米-中2国間の貿易問題であるといえ政治的な駆引きが激化していて目が離せません。②の家計収支は米国と繋がっている世界各国にとって重要関心事です。 世界各国の想いは、対中貿易摩擦の解消などで赤字額自体は減らすべきという総論とは裏腹に、米国景気の減速や何らかの事変が起こったときに世界中から集まったドルが米国から引き揚げてしまえば、世界経済の船頭役である米国資産や消費に大打撃を与え、ひいては各国経済に影響を及ぼすことが容易に予想されるため、できるだけ米赤字が減らないよう望んでいるという矛盾をはらんでいます。
日本や中国の政府部門に代わって赤字を支える主役に踊り出たのは原油高で潤った中東マネー。上の記事にもあるように、民間のオイルマネーが昨年は大量に米債券へ回ってきました。
だれが、いつまで米国の借金を支えていくのか。
アメリカ一国の住宅指標や消費指標に対して、世界中が毎日かたずを飲んで注目せざるを得ないという奇妙な現実が数年間続いています。合わせて、中国が保有する莫大な米国資産(米債券)を今後どうするつもりのか、米中貿易摩擦の綱引きと合わせて、中国当局が赤字問題のカギを握っているといっても過言ではないと感じます。先の中東オイルマネーの動向も同様に気になる存在です。
片や米国側にとってのウルトラCは「ドル安」誘導です。手っ取り早く赤字を減らすことができるからです。今年は米国中間選挙があり、議会の総意として85年双子の赤字を減らすために各国にドル安を容認させたプラザ合意と同じような動きが今後活発になる可能性が指摘できます。
円高ドル安は米国への輸出が経済の原動力となっている日本企業にとっては戦々恐々といったところでしょう。日本政府が中国とほぼ同額保有している米債券の価値も目減りしますが、米国御用政府(日本)は裏切って引き揚げることはできないだろうというのが大方の見方です。
その点中国はドライに引き揚げる選択もカードとして持っているし、為替自由化に踏み切らないのも米国のウルトラCを封じるための切り札戦略と見ることができます。
また、中東は何といっても石油というジョーカーを持っています。そもそもオイルマネーは民間マネーですから、いつでも自由に動かすことができる。
ドル帝国に振り回される運命の日本に比べ、強力な封鎖壁を作って対抗している中国はアメリカにとってまさに目の上のタンコブ、中東はボトルネックといえるかもしれません。
ドル支配下の円で暮らす日本人にとっては、これからもこれらの国同士のパワーゲームにハラハラドキドキしながら暮らすしかないように一見思えます。
ですが昨今の海外マネー投資ブームに表れるように、円を捨てて資産逃避する日本人が益々増えていくのも、個人としては理にかなった自衛策の行動といえるかもしれません。