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No23 金融緩和の解除はNG?② ・・・日銀の独立性問題

2005年11月19日 | 金融・経済全般
11/18 日経新聞19面<論説> ・・・「金利正常化を待望する」金融緩和解除をけん制する政治的発言が相次いでいる。金利が上昇したら景気が失速しかねないとの懸念表明だ。果たして本当だろうか。 

仮に、近い将来93年の金利水準(短期金利2%長期金利4%)になったとしても企業の営業利益率は現在4%(93年2.5%)とバブル前の水準を回復しているので金利を正常に戻しても問題ないはずだ。

また国債金利が4%になると7.5兆円金利負担が増えるが、景気回復により今年だけで税収(歳入)が当初予算を5兆円上回る見込みである。

一方これまでゼロ金利に泣かされてきた家計は金利が正常化することで利子収入が22兆円増える。消費に回ればGDPを4%押し上げる計算だ。

過去12年間のデフレ経済の延長線上でしか考えないと経済運営を誤りかねない。ゼロ金利離脱によるデフレ再燃はもはや杞憂だ。金融政策を正常化すれば日本経済に対する自信と信頼が高まる。  (以上論旨抜粋)

以下※ 11/19日経記事3面より抜粋

・・・・・

一昨日当ファイル(No22)で政府の金利解除NG発言に疑問を呈したところ、昨日の日経でこんな前向きな論説を見つけました。

一見強引な理屈に見えるこの記事ですが、政府側の考えがマスコミ大勢を占める中、こんな正反対な思考もあってもいいのではないかと思います。

現在ゼロに張り付いている日銀の政策金利(短期金利)が2%に、現在約1.5%の市場金利(長期金利)が4%に上がっても、今や全く問題ないどころか家計の利子収入増が消費に回りGDPを押し上げるという論旨です。

基準となる政策金利は5%といわれていますが、ここ数年はデフレを恐れた世界的低金利が潮流でした。米国はこのところインフレが懸念されるようになり度重なる利上げで現在4%まで上がって、更にもう一段の利上げが予想されています。

政策金利を決定するFRBは常に市場との対話と情報開示を心掛け、懸念事項のリスクが大きくなる前に経済社会を緩やかに修正します。18年間議長を務めたFRBグリーンスパンのこの手法は数々の危機を乗り越える実績を残しています。

FRBは金融政策のプロフェッショナルとして完全な独立性を保っており、米大統領でさえ決定を覆すことはできません。
ユーロ(ECB)についても基本的に同じような、独立した金融政策を取っています。

なぜなら「金融政策は特に専門性が高く、日々変動する市場と常に向き合い、機動性が求められる※」からに他なりません。


対して日銀はどうでしょうか。彼らのトップは大蔵省出身と日銀プロパーが交代で務めるような官僚的で閉ざされた体質が根強くありました(現在の福井総裁は日銀プロパー出身)。

98年の新日銀法により“形式上”政府からの独立を果たし、大蔵とのたすきがけ人事が廃止されることになり、ようやく他の先進国並みの透明性を維持するポジションが可能になってきたわけです。しかしそれは相当遅い改革だったと言わざるを得ません。そして今でも政治発言が幅を利かすような時代であります。

ゆえにバブル当時の取り返しのつかない金融政策の誤りは日銀政策でありながら、このときまだ日銀へ強い権限を持っていた政官に大きな責任があったわけで、「米国や日本政府から強い金融緩和の圧力がバブルを招く一因になった※」との日経記事も妥当ではないかと考えます。

とにかくミソをつけたのが2000年、前日銀総裁が政府の反対を押し切りゼロ金利解除に踏み切ったのが更なるデフレを呼ぶ一因になった(日銀はこの政策をすぐに撤回した)と言われることで、現在の政府側の日銀に対する不信感が大きいわけです。

かといって、政治家の判断は正しいといえるでしょうか?
外交や内政や様々な課題が山積している中で、金利解除NGと発言している首相や自民党幹事長はどの程度日々変動するマーケットと向き合って分析を加えているのか、大きな疑問だと思います。

現在の福井総裁は、昨年英エコノミスト誌で“世界で最も優れた中央銀行総裁”と謳われて話題になりました(世界的に有名なグリーンスパンや欧トリシエを差し置いて!ビックリですが・・)。話半分に割り引いたとしても、政治家や国民は彼の発言にもっと耳を傾けるべきでしょう。

「異例の政策を長くやりすぎてインフレが心配なところまで引っ張っていくと、後の反動が大きい。大変な混乱を起こす※」と福井氏は現在発言しています。
“大変な混乱”とはたぶん私が前ファイルNo22で危惧したところだと思います。

また、ついぞ忘れがちな事ですが、金利上昇に伴う国民円資金の利息収入増、というプラスの効果ももっと意識されるべきでしょう。利上げは海外資産逃避の歯止めの役割も果たします。

日経で触れられていないマイナス要素としては、住宅ローンなどの借金の金利負担増があります。国の借金は景気上昇の税収増でまかなえたとして、個人収入はたいへん好調な上場企業収益と必ずしもイコールにならないからです。これは当ブログでも度々強調しているアメリカ型グローバリズムの浸透による大きなデメリットであります。
個人の構えとして最低でも住宅ローンは今のうち長期固定金利に換えておくことが大切です。


冒頭で紹介した記事はあくまで“理想”としながらも、05年末~06年春にかけてはデフレの危険性が高いのか、インフレを放ったらかしにして市場が暴走するリスクを未然に防ぐべきなのか、答えを出さなければならない重要な時期にさしかかっている、と少なくとも言えるでしょう。

1 コメント

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金融調節は難しいですね (たきもと)
2005-11-20 12:39:41
 TBありがとう御座います。

 日経の論調は、金利を上げても現在の利益率が横ばいで推移すると言う前提で話しているようで、そこに矛盾を感じます。

 利上げの会社収益に与えるインパクト、住宅関連に与えるマイナス影響を差し引いての企業利益でやっていけるかどうかを考えなければならず、この部分が計算できない要素で、舵取りが難しいと言われるところです。

 個人的には日経新聞の記者の論文はあまり評価していません・・・

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