好事家の世迷言。

調べたがり屋の生存報告。シティーハンターとADV全般の話題が主。※只今、家族の介護問題が発生中です。あしからず。

『尚も生きる。手を取りて』第55話「燃え立つ思い」

2020-01-15 | ゲームブック二次創作
魔法使いの魔法は、古代語による呪文で発動する。
俺の知識では、その術が効けば最後、相手の全身がねじ曲がって
裂けるはずだった。

が、実際には全く違う現象が起こった。
奴の魔力が当たったと感じた瞬間、俺の全身が光を発した。
黒の毛並みが、白へ。
青みがかった炎のような色合いへ変わった。
正確には、色だけじゃない、本当に炎のように全身が揺らめいている。

「馬鹿な! そうか、ペチャクチャ獣の罠を突破したな。
 ハニカスめ、まだあの『エルフの粉』を封じていなかったのか」

ザラダンが戸惑っている今がチャンスだ。
俺はキャリイを、つまり宝石製の大槌を構えた。

「銀の門」は「光の槌」で開かれる。
つまり、これで鏡を割れば、決着を付けられるはずだ。
ただ、気になるのは、この槌の耐久性だ。
一度でも固い物にぶつければ間違いなく、こいつの方も砕け散る。

(わたしなら構いません。使って下さい)
(本当にいいのか?)
(言ったでしょう。わたしは最後まで付いていくと。
だから、お願い。わたしを……嘘つきにしないで)

『尚も生きる。手を取りて』第54話「罪」

2020-01-11 | ゲームブック二次創作
それも、思い出した。
あの時、俺がダンジョンで殺した、冒険者たちの事を。
頭の中で、少女と少年の叫びが、正しい形で発音された。

「お父さんを奪わないで!」
「姉ちゃんを返せ!」

そうだ。あの人だったんだ。
俺に、いつも忠告してくれた相談役。
率先してザラダンと戦っていた熟練者。

そうだ。あの人は臆病者なんかじゃない。
むしろ逆に、俺より先に命を捨てようとした。
だから俺は止めたんだ。子供がいるなら、そいつらを守ってやれと。

そうだ。あの人はずっと俺を探してくれてたんだ。
成長した子供と一緒に旅をして、そして。
その人を、俺は。

(やめて)
(キャリイ?)
(今は、それを考える時間ではありません。前を見て!)

俺は、ザラダンの思惑を知った。
奴があれこれ喋ったのは、単なる時間稼ぎでしかなかった。
呪文を詠唱し終えるまでの。

『尚も生きる。手を取りて』第53話「真実の記憶」

2020-01-08 | ゲームブック二次創作

「おや、まだ分からないのか。ライアン。
 そもそも、その姿を与えられなければ、お前は生きる事も
ままならなかったというのに。
 あの時、私はお前に敬意を表して、全霊をかけてマランハの力を注いだ。
 その成果が今のお前だ」

ザラダンは再び微笑んだ。慈愛に満ちた穏やかな顔だった。

「私は長年、マランハの実験を繰り返していた。
 最初は小動物から始め、ついに高等生物、人間に至った。
 人間を、より上位の超人へ進化させる事が、私の最終目標だ。
 その最初の成功例が、お前と、お前の部下たちだった!」

違う。アイツらは部下なんかじゃない。
一人で戦おうとする俺に付いてきてくれた、大切な仲間だ。

首を回して、部屋を見た。ベッド、タンスの服、机、望遠鏡。
俺はコレを使っていた。この自分の部屋で。あの日も、当たり前に。

「ほう、この部屋も思い出したか?
掃除をしていなくて申し訳ないが、あの時のままにしておきたくてね」

そうだ。こうしてザラダンと対峙していた、あの時から変わっていない。

「ただ残念ながら、お前の部下たちは、お前と違い、
試練に耐えられなかった。
 例えばハニカスの部屋にいたオーク達は、そう、お前はリジーと
バーゴンと呼んでいたな。彼らは、望ましい進化に至れなかった。
 もっとも、私と戦わずに船から逃げた臆病者よりはマシだが。
あの子連れの冒険者の、リチャードの味はどうだったかね?」


『尚も生きる。手を取りて』第52話「手厚い歓迎」

2020-01-04 | ゲームブック二次創作

「帰ってきたお前には、充分な褒美を用意してある。
お前の戦闘能力は言うまでもない。
指揮能力も、今のお前ならば安心だ。
お前は我が軍の最高司令官に相応しい。
 どうか、このガレーキープの指揮を執っておくれ。
そして、一生を遊べるほどの富も約束しよう」

ザラダンは、両腕を俺に差し向けた。

「お前に残っている仕事は、あと一つだけだ。
 あのハーフオークが持っていた荷物袋から、『煙』の箱を渡しなさい。
 心を読むエルフのダーガを操る事に成功し、秘宝である『スティトル・
ウォートの煙』を得たまでは良かったが、まさかその内の一つを
あの冒険者に盗み出されたのは不覚だった。
 だが今回の件は、『煙』の効果を知る事の出来る良い機会だったよ。
 『煙』はお前に『理性』を、更に『言葉』を理解する力を与えた。
次は私が『魔術』を極める番だ」

俺は、ザラダンの前に進み出た。腰を屈め、ひざまずいた。
すると相棒が、困惑した声をかけてきた。

(待って下さい、ナオ。本当にこれでいいんですか?)
(ああ、これでいい。俺は、この人の部下になる……)
(そんな……)
(なんて……わけあるかよ!)
(え!?)

バネのように身を起こし、そのまま爪でザラダンの胴を薙いだ。
本来なら避けられない、至近距離からの攻撃。
だがザラダンには無効だった。
奴は霧のように消え、離れた位置に現れた。


『尚も生きる。手を取りて』第51話「父と息子」

2019-12-30 | ゲームブック二次創作

眩しい光は、とっさに目をつぶって或る程度防げたが、
結果として身のバランスを崩し、後ろへよろける羽目になった。
目を開けると、探し求めていた宿敵が、眼前にいた。
目を閉じて静かに立つ、一人の男。

それを見て、なぜか背筋に寒気が走り、心臓の鼓動が早まった。
どうしても、ザラダンから視線を逸らす事が出来なかった。

ザラダンが目を開いた。
その瞳に見据えられた時、どうしてなのか、身がすくんだ。
いったい何なんだ。これじゃまるで、悪事のバレた生徒か、それとも。

「鮭が川をのぼって故郷に帰るようなものだな。
待ちかねていたよ。お帰り。我が息子――ライアンよ」

ザラダンは厳かに話し始めた。

「お前がこのガレーキープまでたどり着いたのは、偶然ではない。
お前はまさに、私の創造した最高傑作だ。
 強さのみならず、知性までも完璧に兼ね備えた、その姿の何と美しい事か。
 お前は全ての試練を超えた。しかも最後の『煙』と共に
戻ってきてくれるとは」

そう言って奴は微笑んだ。懐かしいと感じる笑み。懐かしいだって?
そうだ。俺は確かに、奴と一緒に過ごした時期がある。
絶え絶えの息だった時、もうろうとした意識の中を介抱され、
給餌を受けていた記憶が呼び起こされた。
つまり、この人は本当に、俺の……?


『尚も生きる。手を取りて』第50話「見知らぬ部屋で」

2019-12-26 | ゲームブック二次創作

意外に広い、だが薄汚い部屋だった。
クモの巣や塵芥が、家具を薄く覆い始めている。
舷窓にはカーテンが引かれ、その脇のベッドは使われたままに乱れている。
ガレーキープが揺れる度に、衣装ダンスの半開きの戸が動き、
男物の服が何着か掛かっている。服にも埃が付き始めていた。
……これなら借りても、文句は言われないか。
ふと確かめたくなって、一式を身に着けてみた。
今の自分の骨格なら、袖も裾も一応入ると分かった。うん、悪くない。

突然、俺と似た奴が現れたと焦ったら、それはタンスの横にある姿見だった。
机の上には、書類や地図が積まれ、《船長秘》と書かれた封筒もあった。
机の横には螺旋階段。天井の閉じたハッチに通じている。
舷窓の前には、三本足の複雑な機械があり、その上部の棒の先が、
窓の外へ向けられていた。

俺は、姿見に近寄った。
金縁の枠に彩られた銀色の面に、俺の全身が映っていた。
漆黒の毛に覆われた身体に、緑眼が光っている。
最初は四足歩行の、まるきりの獣だった自分は今、手足を持ち、
明らかに人型に近づいている。だが、断じて人ではあり得ないと分かる、
そんな矛盾した異形が、“向こう側”にいる。

鏡の表面を撫でてから、掌を押し当てた。
映る自分の姿の、その奥を。
虚像が揺らめいて、消える。

これこそが、あの時の本にあった、ザラダンの潜む「銀の門」だ。
そう確信した時、部屋は突然の閃光に満たされた。


『尚も生きる。手を取りて』第49話「暗号解読」

2019-12-21 | ゲームブック二次創作

ガレーキープが真上に来る直前。ロープの輪に足先を入れ、罠を作動させた。
木は勢いをつけて跳ね上がり、予想通りに木の最上部から逆向きに吊られる。
もしこれで、ガレーキープが気づかないってオチだったら笑うしかない。

幸いにも、近づいてきた方舟から、鉤の付いた棒が突き出され、
ロープごと俺は回収された。
不快な臭いを放つ魔物たちが、引き上げた俺を甲板へ投げ出した。
俺は衰弱して動けないように演じ、機会を待った。

さっきの魔物たち2匹が、俺の体をつかんで引きずっていった。
甲板に据え付けられたギロチン装置へセットしようとする。
たいそう磨かれている刃は、落としきれない血の色を帯びている。

俺には最善、奴らには最悪のタイミングで、跳ね起きてやった。
満身の力で2匹を横へ突き飛ばせば、奴らは甲板の手すりを超えて落ちていく。
その近くにいた、もう2匹。今度は種族が分かる。ゴブリンだ。
小剣を構えているが……無理しなさんな。

次第に騒ぎは大きくなる。船内の兵士たちが集まってきている。
そうなるように派手に暴れたんだから当然だ。
入り乱れた人込みの間を縫って、近場の扉へ駆け込んだ。
下りの階段を油断せずに進んでいく。
突き当たりで、扉が5つ並んでいた。
描かれている文様はそれぞれ、「水の垂れる水差し」「燃え上がる炎」
「王冠」「雪の結晶」「交差した青い剣」。

俺は詩編の情報に従って暗号を解き、速やかに正解の扉を開いた。
(※解答は伏せます)


『尚も生きる。手を取りて』第48話「方舟(はこぶね)への潜入」

2019-12-18 | ゲームブック二次創作

ダーガの情報に従い、敢えて道から外れた茂みを調べた。
闖入者に驚く鳥たちが、ばたばたと飛び上がっていく。
飛んでいく鳥を見上げた俺の目に遠く、黒い物体が浮かんでいるのが見えた。
鳥にしては、それはあまりに巨大だった。形も違う。
木々よりも遙かに高みを飛ぶ方舟。
まさしく、ガレーキープに他ならない。

船は段々近づいてくる。
間違いない、この近くに罠がある。
茂みをなぎ払うと、ついにお目当てが見つかった。

背の高い細木が不自然にたわんでいる。
木の小枝は見事に全部を刈り取られ、たわんだ木の先端が
ロープで固定されている。
ロープの先は輪になっていて、輪に足を入れれば最後、
ロープが外れて木が跳ね上がる、よくある仕組みだ。
よくある? どうしてそんな事を思ったのか。どこで見覚えが?
ふと、自分の体にくくりつけている相棒が気になった。

(どうした? さっきからずっと黙ってないか?)
(すみません……何だか、怖くて)
(怖い? 例の、俺が死ぬ夢でも見たのか?)
(いいえ。私の知る未来は、ダンジョンの中だけで終わっていました。
こんな遠くまで旅が続いているなんて思ってもいませんでした。
 だから怖いんです。何か、途方もなく恐ろしい事が起きる予感がして)
(かもしれないな。この作戦がうまくいく保証なんてどこにもない)
(それなら……)
(だが、うまくいかない保証だって、どこにもない。やるしかないんだ)
(はい。それがあなたの選択なら。わたしは最後まで付いていきます)


『尚も生きる。手を取りて』第47話「詩編の情報」

2019-12-14 | ゲームブック二次創作

「君もなかなか侮れないな。一見ただの獣人と思ったが、本質は違うようだ」

白髪のエルフことダーガは、俺を見定めるように見つめてから言った。

「もう分かっていると思うが、私が今しがた話した内容は正確ではない。
信用できない者には、真実を打ち明けるわけにいかんのでな。
ガレーキープは、この近くへ着陸などしない。
着陸すれば当然ながら危険が増すわけだからな。
あれに乗り込む方法は、二つある。
ガレーキープは、食料や奴隷を地上から調達している。
そのために、森のあちこちに罠が仕掛けられている。
それらの罠にかかって引き上げられるのが、一つ目の手段。
もう一つの手段は、サグラフの兵士訓練所へ行き、乗員として雇われる事だ」

そこまで語った後、ダーガはもう一度、俺の目を覗き込んだ。

「君の目的は、そうか、ザラダン本人に会う事だな。
ザラダンの潜む部屋には、あるマークが記されているという。
直接の答えを私は知らないが、この詩編なら知っている。
《それは、火と氷の争いを止めるもの/火と氷の間に立つもの/
火と氷を分かつもの/赤でなく、白でなく、青きもの》
――と」

ダーガに言われた文言を、頭の中で復唱する。
情報には感謝するが、少しばかり疑問が残った。
ここまで知っているのなら、なぜ堂々と戦わない?
このエルフには、何か別の、本当の目的があるようにも思えた。

「理由など無い。私には、ザラダンと戦う資格も無い。
ダーガ・ウィールズタングという防人は、もう存在しない。
今の私は、一介の旅人、ホワイトリーフに過ぎんよ」

白髪のエルフはそう言うと、手を一振りしてから森の中へと消えていった。


『尚も生きる。手を取りて』第46話「底知れない相手」

2019-12-11 | ゲームブック二次創作

当たり前のように問われ、反射的に答えようとし、踏みとどまった。
俺は手近な木の枝を拾い、土に文字を書いて示した。

「ガレーキープか。
ザラダン・マーの行く所、残されるのは死と荒廃のみだ。
いっそあの方舟が落ちてくれれば、ザラダンは、あの血に飢えた
軍勢ともども全滅するのだが。
いや、起こり得ない事を言っても仕方ないな。
あの空飛ぶ要塞を、誰かが壊さねばならんのだ。
あの方舟に乗り込む方法ならば知っている。
風が弱まると、ガレーキープはここから西に少し行った地点に着陸する。
そこに行けば乗り込む事が出来る。
君はガレーキープを滅ぼそうとしているんだろう?
奴が天から墜ちて、連中がいなくなってくれればどんなに嬉しい事か。
君の幸運を祈るよ」

見上げたもんだ。よくも、これほど自然に嘘を並べ立てるとは。
俺はおもむろに、例のドリー三姉妹から渡された指輪をつきつけた。
途端、エルフの表情が動いた。
与しやすそうだった態度は消え失せ、眼光は炯々としたそれに変わった。

「ほう……。彼女たちから『真実の指輪』を持たされたか。
ならば私も、礼を尽くさなければならんようだな」

声の調子も、一段低くなっている。
本番は、これからだった。