【この記事のポイント】
・定義が異なる営業利益が少なくとも9つ存在
・トヨタ、日立など日本は東証上場272社が対象
・企業からは「システム改修が必要」との声も
世界の企業で普及している国際会計基準(IFRS)で、本業のもうけを示す「営業利益」の計算ルールが2027年度から統一される。
これまで開示が義務ではなく定義も決まっていなかったため、企業によって中身がばらばらだった。投資家は企業が本業でどのくらい稼いだのか比較しやすくなる。
IFRSはロンドンに本部を置く国際会計基準審議会(IASB)が策定する会計基準で、世界140以上の国・地域で義務づけられ、世界の上場企業約3万社が採用している。
日本では6月末時点で東証上場の272社、時価総額ベースで5割が採用している。トヨタ自動車やソニーグループ、日立製作所などグローバル企業が多い。
IASBがこのほどIFRSの損益計算書の新ルールを確定した。営業利益を本業から得られるもうけを主体とする利益と定義づけたうえで、企業に開示を義務づける。
12月期企業は27年12月期から、3月期企業は28年3月期から強制適用される。
これまでIFRSは営業利益の定義や開示方法を企業に委ねてきた。このため企業によって計算方法がばらばらで、IASBによると定義の異なる「営業利益」が少なくとも9つあった。
「営業利益」以外にも、「調整後営業利益」や「コア営業利益」といった名称の独自の利益を開示する企業もあった。投資家からは比較しにくいと不満が根強かった。
新ルールの適用前後で営業利益が大きく変動する可能性があり、企業は投資家への丁寧な説明が求められる。
決算業務やIT(情報技術)システム、役員報酬の算定などへの反映も課題となる。企業からは「システム改修が必要になりそうだ」(三菱商事)との声が聞かれる。
新ルールで最も大きく変わるのが、持ち分法適用会社の利益を自社の持ち分比率に応じて取り込む「持ち分法投資損益」の扱いだ。
これまで営業利益に含める企業と含めない企業とで対応が分かれていた。新ルールでは営業利益に含めないことで一本化する。投資家は売上高営業利益率などを分析しやすくなる。
持ち分法投資損益の扱いは同業種でも異なり、企業間で営業利益を比較しにくかった。
ソニーグループは持ち分法投資損益を営業利益に含める一方、三菱電機は含めていない。通信大手でもKDDIは営業利益に含めるが、NTTやソフトバンクは含めていない。
持ち分法投資損益が営業利益から外れることで、営業利益が大きく減る企業も出そうだ。JFEホールディングスは24年3月期の連結営業利益が2870億円で、このうち持ち分法投資利益が561億円を占めた。
ENEOSホールディングスも24年3月期の連結営業利益4649億円のうち、持ち分法投資利益が813億円と大きかった。
IFRSで営業利益の計算ルールが統一されることについて、市場関係者からは業績開示の改善が進むと評価する声が多い。
一方で「減損損失など日本の基準で特別損益に計上されるような一過性損益が含まれる点には留意する必要がある」(SMBC日興証券の大瀧晃栄シニアアナリスト)との指摘もある。
IFRS以外で日本企業の採用が多い会計基準として、日本会計基準がある。日本会計基準では売上高から売上原価、販売費、一般管理費を引いたものを「営業利益」と定義し、開示も義務づけている。持ち分法投資損益は営業利益には含まない。
IFRSの今回の新ルールは日本会計基準には影響しない。
(森国司)