【シリコンバレー=山田遼太郎】
米半導体大手エヌビディアの急成長が続いている。2024年2〜4月期の売上高は1年前に比べて3.6倍に拡大した。
シェアが8割に達する人工知能(AI)向け半導体は奪い合いの状況で、高性能な製品の投入もあって価格も上昇している。AI開発用のソフトウエア含め経済圏を築いていることで他社の追随を許さず、高収益につながっている。
22日に発表した2~4月期の売上高は3.6倍の260億4400万ドル(約4兆800億円)、純利益は7.3倍の148億8100万ドルだった。
5〜7月期の売上高は280億ドル前後との見通しを示した。ともに事前の市場予想を上回り、同社株は時間外取引で一時7%上昇した。23日の日本市場にも波及し、半導体関連株が軒並み上昇した。
「毎日が競走だ。顧客は少しでも早く製品を納めるよう当社に大きなプレッシャーをかけている」。
ジェンスン・ファン最高経営責任者(CEO)は22日のアナリスト向け電話会見でAI半導体の争奪戦が続いていることを示した。
市場では新製品の投入に伴って成長に「谷」ができるのではとの見方もあった。ファン氏は次世代半導体「B200」などの収益貢献が25年1月期中に始まるとしつつ、その立ち上げの間も現在の主力製品「H100」の需要は途切れないと説明した。
増収に転じた23年5〜7月期以降、売上高が前年同期に比べ2倍以上に増える急拡大が続く。異形の急成長が続くのは、巨大テクノロジー企業が繰り広げる生成AIの開発・投資の恩恵を、エヌビディアが一手に引き受けているためだ。
マイクロソフトやグーグル、メタなどはクラウドやネット広告などの主力事業を進化させようと生成AIの開発を急ぐ。各社は24年のデータセンターへの投資を大幅に増やすと表明した。
米調査会社デローログループの推計によると、マイクロソフト、グーグル、米アマゾン・ドット・コムの3社がデータセンターに投じた金額は1〜3月に304億ドルと前年同期比7割近く増えた。
このデータセンターで使うAI半導体で8割のシェアを持つのがエヌビディアだ。同社の売上高をみても、約9割を占めるデータセンター部門の45%程度がテック大手向けだ。
各社はサーバーに組み込む半導体をエヌビディアから直接買う。生成AIで先行を狙うIT大手の動向が同社の業績を押し上げている。
デローログループのバロン・ファン氏は「エヌビディア製半導体の購入比率が最も高いのはマイクロソフトだ。24年も割合を増やすだろう」とみる。
Chat(チャット)GPTを生んだ米新興企業オープンAIと組んでAI対応を優位に進めるマイクロソフトを、エヌビディアが裏側で支える構図だ。
同社は主力のH100の改良版「H200」や、AIが質問に答える推論の処理が大幅に速くなるという「B200」を年内に投入する。ただ、AI半導体で1強の地位を築いたのはハードウエアの性能だけではない。
牙城を支えるのがソフトウエアの「CUDA(クーダ)」。もともとゲーム向けだった画像処理半導体(GPU)でAIを高速に動かすためのソフト基盤だ。多くの企業がCUDAにあわせてAIのソフトやアプリを作っており、開発者の強固なエコシステムがある。
CUDAはAI半導体を使いこなす際の標準を握っている。囲い込み効果が働き、他社に切り替えるのが容易ではないとの指摘も出るほどだ。
世界のAI半導体市場は27年に22兆円規模に膨らむとの予測がある。それだけに、競合などはCUDAへの対抗を強めている。
オープンAIが主導する取り組みが「トライトン」だ。CUDAよりも手軽にGPUを使えるようにする試みで、多くの人が参加しやすいオープンソース方式の開発を取り入れている。メタや米インテルなどが同技術の活用に動き始めた。
米半導体スタートアップのグロックも「エヌビディアの技術仕様に依存するとAI開発で想定外のやり直しが起きかねない」と主張する。推論に特化した計算処理がエヌビディアより高速だとうたい、AI半導体を売り込んでいる。
今後の焦点はエヌビディアが成長カーブをどう維持するかだ。過去1年は倍々ゲームで伸びてきただけに、同じペースの増収を続ける難度は上がる。
業績拡大の原動力となったテック大手は依存度を下げようと、AI半導体の内製化を進める。
ソフトバンクグループやオープンAIなどが半導体開発を探る動きもある。競争の広がりでAI半導体の単価が下がれば、2〜4月期に65%の売上高営業利益率を保つのは難しくなる。
ファン氏は22日の会見で「画期的なAIを発表する企業と、それより0.3%優れたAIを後から発表する会社のどちらになるか。この競争がデータセンターの立ち上げを急がせている」と述べた。
巨大テックやスタートアップがAIの性能進化を急ぐ限り、エヌビディアの高性能品への需要は続くとの説明だ。
先見の明でAI半導体市場を切り開いた同氏にとって、テック大手の「次」の大口顧客を見つけることも重要性を増している。
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日経記事2024.05.23より引用