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巨大IT規制、不公正なビジネス手法を正せ サンディープ・バヒーサン オープン・マーケッツ・インスティチュート法務責任者

2024-08-02 18:28:09 | AI・IT・サイバーセキュリティ・メタバース・NFT・ゲーム、
ポイント
○米国政府は訴訟や買収差し止めを積極化
○IT大手の広告手法や雇用慣行は不公正
○当局は企業が利益を上げる手法も規制を
 


米国政府はビッグテックの規制を優先課題とする。2020年秋以降、反トラスト法(日本の独占禁止法)の施行を担う司法省と連邦取引委員会(FTC)は同法違反の疑いでアマゾン・ドット・コム、アップル、メタ(旧フェイスブック)、グーグルに計5件の訴訟を起こし、すべてが係争中である。

メタとマイクロソフトによる買収案数件の差し止めも試みてきた。

 

連邦政府はこれらの企業の権力乱用や市場での地位固めを食い止める措置を講じているが、他にもやるべきことは多い。政府は、これらの企業が採用する不公正なビジネスモデルの規制にも踏み込むべきだ。

例を挙げるならアマゾンは名目上の個人事業主(サードパーティ事業者)に依存しているが、彼らを支配し圧力をかけている。メタとグーグルは利用者を監視する広告手法を採用する。

 

連邦政府は最近になって独禁法違反に目を光らせているが、実はシャーマン法第2条(独占・独占化の試み・独占のための共謀の禁止)違反の取り締まりに、特に司法省は数十年にわたって及び腰だった。

20年以降に司法省が同法違反で訴えた件数は、それまでの20年間を上回る(図参照)

 

 

連邦政府の取り締まりは主にハイテク産業の独占的企業に照準を合わせる。司法省はグーグルに対し2件の訴訟を起こしている。

1件目は検索の独占を理由に20年にトランプ政権下で、2件目はデジタル広告技術の独占を理由に23年にバイデン政権下で提訴した。

 

24年初めにはアップルが他社のアプリ開発やサービス提供を妨げ、競争を阻害したとして提訴した。

FTCも積極的に動いている。21年8月には画像共有アプリのインスタグラムや対話アプリのワッツアップの買収が競争の阻害に当たるとして、旧フェイスブックを独禁法違反の疑いで再提訴した。

 

23年9月にはアマゾンを、マーケットプレイス(事業者が販売する市場)で消費者と販売事業者の双方に不利益になるような不公正な権力行使をしたとして提訴した。

このほかFTCはビッグテックによる買収2件の阻止も試みた。1件目は22年7月、メタによる運動アプリ開発のWithin(ウィジン)の買収差し止めを裁判所に求めた。

 

2件目は22年12月、マイクロソフトによるゲーム大手アクティビジョン・ブリザードの買収差し止めを求めた。いずれも請求は却下された。

以上をまとめると、ビッグテックの権力乱用と支配的地位強化に対して、当局は幅広い攻撃を仕掛けてきたと言えるだろう。

 

 

グーグルの検索エンジンと広告技術を考えてみよう。当局は不当に競争相手を締め出し、同社と契約せざるを得ないように仕向けるような契約や垂直統合に切り込んだ。

アマゾンについては競合他社(あるいはアマゾン自身)のマーケットプレイスで値引きをしたり、アマゾン以外の配送サービスを使ったりした販売事業者を締め出すような不公正な契約形態や商慣行をやめさせようとしている。

 

 

これらは称賛に値するものの、ビッグテックの疑わしいビジネスモデルを問題にするところまで踏み込んでいない。

メタとグーグルは人々の行動を追跡し、一人ひとりの詳細なプロフィルを作成。的を絞ったターゲティング広告や政治的メッセージなどのコンテンツの提供を企業、公職候補者、メディアに約束することで利益を得ている。

 

 

このしくみを成り立たせるために行われる監視は広範囲かつ網羅的だ。グーグルは検索、メール、クッキー、全地球測位システム(GPS)などを駆使して人々の欲望やニーズ、希望、不安を探り出す。

ターゲティング広告と監視で利益を上げている企業はメタとグーグルだけではないにしても、圧倒的優位を確保しているのはこの2社だ。

 

 


Sandeep Vaheesan 
メリーランド大卒、デューク大法学博士。専門は反トラスト法(独占禁止法)

 

物品の小売りと物流を手がけるアマゾンは、他のテック企業と比べて労働集約度が格段に高い。

名目上は個人事業主・法人のネットワークを構築し、厳しく管理しておきながら、業者にも規制当局に対してもアマゾンという企業には属していないと主張している。

 

例えば「アマゾンフレックス」という配送ネットワークの登録業者は、割り当てられたアマゾンの荷物を自分の車で配達する。

アマゾンのために働き、管理対象になっているにもかかわらず、正規雇用労働者の権利や保護は与えられない。

 

また労働組合を作る権利、団体交渉権、ストライキを行う権利も認められていない。

アマゾンはいいとこ取りをしており、雇用主然として管理しつつ、雇用主としての費用負担も責任も引き受けていない。

 

これは労働者にとってはもちろんのこと、労働基準法を順守し、その分のコストを負担しているアマゾンの競争相手にとっても不公平だ。

連邦規制当局はこうした独占的企業の権力乱用をとがめるだけで終わらせず、彼らが利益を上げる方法自体も問題にすべきである。

 

◇   ◇

 

当局は、公平なデジタル経済をめざす準備的な措置にも着手した。

22年8月にFTCは商業的監視に関する規則づくりの前段階として、パブリックコメントを求める通知を出した。

 

質問は、データセキュリティー、子供向け広告、大衆監視の手法など60項目に及ぶ。なお今のところ規則の提案などその後の動きはない。

その一方でFTCは消費者保護の権限を行使。メタが18歳未満の子供から集めた情報を広告などに活用して収益化することを禁じる規則案を発表したほか、重要なユーザーデータを違法に販売したとして数社に処罰を下した。企業による大量のデータ収集に当局が重大な関心を持っていることは明らかだ。

 

またFTCはアマゾンの「責任なき支配」にも踏み込む姿勢を示しており、フランチャイザーのビジネス慣行に関するパブリックコメントを募集した。

アマゾンの雇用慣行も対象であることはまず間違いない。

 

24年4月には、雇用契約における競業避止条項を禁止する規則を発表した。

この規則にも、アマゾンを相手取った訴訟にも、強い力を持つ企業が弱い立場の労働者に経済的抑圧を行うことを制限する狙いがある。

 

支配的地位を利用した抑圧の禁止は数十年にわたって反トラスト法から消えたも同然だったが、FTCと司法省はついに復活させると決めたようだ。

ただし監視についてもそうだが、責任なき支配にも彼らが全面攻撃を仕掛けるかどうか現時点でははっきりしない。

 

米国ではトランプ前政権もバイデン政権も、独占的なテック企業に一連の大型訴訟を起こしてきた。

反トラスト法の施行を担当する政府機関は、そうした企業が維持・拡大してきた市場支配のやり方に直接攻撃を仕掛け始めている。

 

提訴は称賛に値するし、入念に組み立てられてもいるが、それで満足してはならない。

ビジネスモデルが公正で民主的な経済の規範に反しているのだから、司法省とFTCはビッグテックが利益を上げる方法にも踏み込むべきである。

 

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経済学などを専門とする学者や有識者が内外の論文やデータを紹介しながら、学術的な視点から経済の動きをわかりやすく解説します。

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日経記事2024.08.02より引用

 

 

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