2日の米株式市場でダウ工業株30種平均は反発し、前日比235ドル(0.6%)高で終えた。取引終了後にトランプ米大統領の相互関税の発表を控え、投資家の様子見姿勢が強かった。
閑散とした相場で異様なまでの急落劇で目を引いたのが、保守系のニュース番組を手がける米ニュースマックス株だ。前日比の下落率は一時80%に達し、上場するニューヨーク証券取引所では複数回、取引停止となった。終値は77%安の52ドルだった。
同社は2日前に上場を果たしたばかり。初値は14ドルだったが翌4月1日にかけて急騰し、一時は265ドルと19倍に跳ね上がった。1日終値ベースの時価総額は200億ドル(3兆円)を超え、米ニューヨーク・タイムズなど主要メディアをしのぐ規模になっていた。
ニュースマックスはトランプ氏の友人のジャーナリスト、クリス・ラディ氏が1998年に設立した。トランプ氏が敗れた2020年の米大統領選で陰謀論を唱えるなど同氏寄りの姿勢で知られ、「MAGA(米国を再び偉大に)」のスローガンに共感するトランプ支持者を主な視聴者とする。
3月25日にはトランプ氏の単独インタビューを報じている。同氏との近さから恩恵を受けるとの思惑でミーム株(はやりの株)となったが、賞味期限は短かった。
同社の開示資料によると、2024年通期の売上高は1億7100万ドル、最終損益は7200万ドルの赤字だ。投資価値評価の指標面では到底説明がつかない水準まで株価は高騰していた。
2日はニュースマックス発の目立った売り材料はなかった。米金融調査会社の関係者は「トランプ氏のSNS運営会社トランプ・メディア・アンド・テクノロジー・グループ(TMTG)の株価下落と連動した売りが出た可能性がある」と指摘する。
TMTG株は既存株主が大規模な株式売却に向けた手続きを進めていると伝わり、前日比7%下げた。同社もニュースマックスも短期の値ざやを狙う個人に加え、保守系メディアを好む人々も投資しており、相互に影響を受けやすいとの見立てだ。
「ニュースマックスのようなミーム株は『愚か者の投資理論』に従って、短期的な株価のモメンタム(勢い)に乗ろうとする投資家が多い」。IPOに詳しい米フロリダ大のジェイ・リッター教授はこう話す。
この理論では過大評価された資産を購入しても、より愚かな人に高値で売って利益を得られると人々が考え、実態からかけ離れたバブルが醸成される。ひとたび資産価格が下げ始めると「モメンタム・トレーダーは買い手から売り手に急転換する」(リッター氏)ため、下げ方も劇的になる。
同氏はより本質的な問題として「ここ数年の米IPO市場は優良企業の上場が少なく、非常に小規模な企業の上場が多い」と述べ「日本とよく似た状況になっている」と続けた。
投資経験の浅い個人の買いを見込んだIPOは、長期的な株価のパフォーマンスが機関投資家の関心を集めるIPOに見劣りするという。
ニュースマックス株の乱高下は、現在の米IPO市場のもろさの一断面ともいえる。
(ニューヨーク=斉藤雄太)
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