巨大テック各社は成長投資を加速させてきた=ロイター
米ダウ工業株30種平均が17日、史上初めて4万ドルに到達し、米国株は新たな局面を迎えた。
原動力は一握りの巨大テクノロジー銘柄だ。圧倒的な投資が収益力向上を経て株価を押し上げ、さらに投資と成長が加速する。
残された「その他」大勢の企業との格差は開くばかりだ。好調な株式相場も巨大テックを除けば勢いを欠き、業績も直近では減益に陥る。一極集中のゆがみは強まっている。
広がる巨大テックとの格差
マイクロソフトやアップル、アマゾン・ドット・コムなど、巨大テック株の代名詞である7銘柄、通称「マグニフィセント・セブン(MAG7、壮大な7社)」の成長過程が象徴的だ。
7社が投じた研究開発(R&D)費が世界の上場企業全体に占める比率は2010年に2%だったが、直近では19%まで上昇した。
M&A(合併・買収)支出額も全世界の1割近くを占めるに至った。米S&P500種株価指数を構成する米トップ500社でみると、R&D費ではMAG7とそれ以外の493社でほぼ均衡する。
インターネット、スマートフォン普及に伴う事業モデルの変革、そして人工知能(AI)と、技術革新にあわせて絶えず成長するためには持続的な投資が欠かせない。
米証券ウェドブッシュのダニエル・アイブス氏は「生成AIで消費者を魅了する製品やアプリなどを出せるかどうかで、『AI革命』勝者は今後数年のうちに決まる」と説明し「賭け金の高いポーカーゲームだ」と指摘する。
「賭け金」である投資余力をMAG7はふんだんに持つ。捻出できないプレーヤーはゲームに残れない。
事業から得た資金から投資に充てた分を差し引いたフリーキャッシュフロー(FCF、純現金収支)をみると、MAG7は直近10年間、年率15%のペースで増加してきたのに対し、S&P500構成銘柄からMAG7を除いた「S&P493」のFCFの成長は年平均5%と大きく見劣りする。
米企業業績、巨大テック除けば減益
業績や指数でも格差はあらわとなる。ファクトセット集計のアナリスト予想によるとS&P500全体で24年1〜3月期の純利益は前年同期比6%程度の増加となる見込みだが、MAG7を除いたベースでは2%程度の最終減益となる計算だ。
S&P500の構成銘柄を均等配分した株価指数は、時価総額で加重平均して算出する通常のS&P500より上昇がやや鈍い。13年末を起点にすると、S&P500が2.61倍となった一方、均等配分指数は2.35倍。特に株価上昇局面で差が大きく開いた。時価総額の大きな巨大テックの株価上昇は、S&P500の上昇をもけん引してきた。
一握りの銘柄が米国の企業業績の拡大と株高の加速を支えている。経験則に照らせば一極集中は「悪い予兆」でもある。
米JPモルガンのストラテジスト、ドゥブラブコ・ラコス・ブジャス氏らの分析によると、米株市場における上位銘柄への集中度合いは1970年代以来の高さ。過去の景気後退期では直前あるいは序盤に株式市場で集中度合いが高まることが多かったとも同氏は指摘する。
国家に匹敵するような影響力を持つようになった巨大テックへの警戒も強まる。世界各地で独占禁止法違反の疑いで提訴が相次ぐほか、巨額の制裁金を課そうとする動きもある。今までのように成長を独占できるかは不透明だ。
米連邦準備理事会(FRB)の年内利下げ観測の高まりや米経済の軟着陸期待、そして巨大テックの長期持続成長。こうした要素を当然視するような相場上昇には危うさも残る。
分析・考察
NYダウが大台に乗った時の日本経済新聞の社説の見出しは「ダウ1万ドルの後が怖い米国経済」(1999年3月18日)、「NY株2万ドルは持続可能か」(2017年1月27日)、「初のNY株3万ドルでも警戒は怠れない」(2020年11月26日)。
いずれも懸念が色濃いものとなっています。 日本人が「怖い」「長続きしない」「警戒せよ」と評論しているうちに、米国株は1989年末から約15倍に。日本株はようやく89年の水準に戻った段階です。
大きな格差がついた現実を受け入れ、学ぶべきは学び、戦略を練ろう。
私たちは「ダウ4万㌦が映す持続成長に学べ」(2024年5月19日)にそんな思いを込めました。
日経記事2024.05.19より引用