マスク氏の強引な手法への反発が強まっている=ロイター
【ワシントン=高見浩輔】
起業家のイーロン・マスク氏が米政府効率化省(DOGE)の実質トップを継続できるのか危ぶむ声が出ている。
強引な連邦政府のリストラなどで反発を受け、経営する電気自動車(EV)大手テスラの業績は不買運動で悪化した。マスク氏への逆風はトランプ政権のリスクにもなりつつある。
政治サイトのポリティコは2日、トランプ米大統領が閣僚を含む側近らにマスク氏の早期退任を伝えたと報じた。数週間以内に辞めるという内容だ。
米NBCテレビはこの非公式会合が3月24日だったと特定したうえで、ホワイトハウス高官の話として退任は数カ月以内と報じた。
レビット大統領報道官はX(旧ツイッター)で「この『スクープ』はゴミだ」と否定した。「DOGEでの信じられないような仕事が終われば、特別政府職員として公務から離れることは公言されている」と反論した。DOGEが2026年7月までの時限組織であることを念頭に置いた発言とみられる。
マスク氏もXでレビット氏の投稿を引用して「そうだ、フェイクニュースだ」と書き込んだ。
マスク氏への風当たりは強い。途上国支援の米国際開発局(USAID)を実質的な閉鎖に追いやるなどの強引なリストラには、政権内からも不安視する声が出ている。
職員の労働組合などから多くの訴訟が起こされ、差し止め命令も複数出た。
1日には中西部ウィスコンシン州の最高裁判事を選ぶ選挙で、マスク氏が支援した候補が落選した。
多額の献金に加え、マスク氏に賛同した同州の有権者2人にそれぞれ100万ドル(約1億4800万円)の「賞金」を渡すなどしたが、選挙活動への介入が逆に批判を招いた。
ドイツ総選挙で極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」を支持するなど米国外でも議論を呼ぶ政治的な活動が目立った。
反発は国内外でのテスラの不買運動に発展し、テスラが2日発表した1〜3月期の世界販売台数は前年同期比13%減った。
首都ワシントンでも、テスラの販売店周辺でマスク氏に抗議する活動が頻繁に繰り広げられている。テスラ車に火を放つ破壊活動も報じられるなど、反発が収まる兆しはみられない。
退任観測の背景には、政府内での立場が曖昧であることもある。歳出削減や規制緩和の権限に関わる議論を避けるため、マスク氏はDOGEのトップとは名乗らず「特別政府職員」という肩書で実質的に率いてきた。
この職位は勤務が年間130日以下の人に適用されるものだ。いずれ肩書を変更する必要があるとの見方もくすぶっていた。
マスク氏の政権内での力の源泉は、トランプ氏との蜜月にある。トランプ氏は2月26日に開いた初の閣僚会議にもマスク氏を出席させ、閣僚らに支持を迫った。
マスク氏が退陣に追い込まれれば政権運営への影響は避けられない。
DOGEはマスク氏ありきの組織といえる。名称はマスク氏が肩入れする暗号資産(仮想通貨)「Dogecoin(ドージコイン)」から付けられた。当初はDOGEの「共同トップ」だった実業家のビベック・ラマスワミ氏も抜け、1人で率いていた。
DOGEはすでに各省庁にチームリーダーを派遣し、大統領令に基づいてそれぞれの人員削減計画に関与している。マスク氏が抜けると、DOGEがどう機能するかどうかは未知数だ。
DOGEは公式サイトでこれまでに1400億ドルの予算を削減したと公表している。米メディアは過剰な数字だと批判しているが、政権が目指す1兆ドルの削減までには遠い。マスク氏は大統領選の時点では2兆ドルの削減が可能だと説明していた。
