SMICのグループ会社、SMSCの工場は社名やロゴが外された（上海市）
米中間の「半導体ウォー」が激しさを増している。先端技術を握る米国は中国の開発を封じ込めようと規制を通じて包囲網を敷く。
一方の中国は国家として総力を挙げて米国を追い上げる。経済を支える「産業のコメ」にとどまらず、国家の戦略物資となった半導体を巡る米中対立を追う。
社名外した先端量産拠点
中国のハイテク産業を支える上海市浦東新区の一角。警備員らが周囲に目を光らせる秘密工場で、最先端半導体の量産に向けた作業が24時間体制で進む。
工場のかつての名称は「中芯南方（SMSC）」。半導体受託生産で中国最大手、中芯国際集成電路製造（SMIC）の本社工場に隣接したグループ会社だ。正門や工場の外壁に社名とロゴを掲げていたが、最近になって外した。
米国が厳しい輸出規制をかけるSMICとのつながりを偽装するのが狙いとみられる。工場内には日米欧メーカーの半導体製造装置がずらりと並ぶ。いずれも米国が規制強化に動く前に買い集めた。
国際半導体製造装置材料協会（SEMI）によると、2023年の世界の装置市場規模は1063億ドル（約16兆2700億円）だった。厳しい規制があっても、全体のなお3分の1が中国市場向けだ。
旧型装置を改造して7ナノ量産
これまでSMSCは回路線幅で14ナノ（ナノは10億分の1）メートルと、比較的世代の遅れた半導体生産を手がけていた。
だが最新鋭ではなく、既存の旧型装置を改造することで、23年までに7ナノメートルの量産に成功したとされる。
通信機器大手の華為技術（ファーウェイ）は23年8月、7ナノの半導体を搭載した新型スマートフォンを発売した。生産を請け負ったとされるのがSMSCを事実上傘下に持つSMICだ。
この事実は米政府に衝撃を与えた。規制を通じた包囲網によって、中国企業の半導体開発を封じ込めたはずだったからだ。
米政府は22年、中国への半導体製造装置の輸出を大幅に制限する新たな規制を打ち出した。アプライドマテリアルズやラムリサーチなど米大手装置メーカーはこれを受け、そろって中国で保守サービスなどを担っていた米国人技術者を引き揚げた。
効果は絶大かと思われた。半導体の製造装置は「売って終わりという世界では全くない」（アプライド幹部）からだ。
半導体の工場は一般に、24時間365日体制で稼働し続ける。製造装置が1つでも動かなくなれば、1日100万ドル単位の損失が出ることもざらだ。装置メーカーによる保守サービスは欠かせない。
たとえば電子回路のパターンを焼き付ける露光装置を主力にするオランダ大手のASMLホールディングだ。エンジニアなどアフターセールスの技術対応を担う人材を世界で1万人抱える。
何千ものスペア部品を用意し、装置が不具合を起こした場合でも整備にかかる待ち時間を1週間あたり20分までに抑えている。
半導体の製造技術が複雑になるなか、こうした点検と修理を含めたサプライチェーン（供給網）の重要性は一段と増している。米国は生命線となる保守サービスからも、中国の半導体開発を締め上げる戦略だった。
同盟国頼みの規制強化
しかし、すでに限界ものぞいている。
「我々は重要製品の整備を請け負わないよう、同盟国に働きかけている」。輸出管理を担当するエステベズ米商務次官は3月末、記者団を前に力を込めた。オランダと日本が念頭にある。
米国は自国企業に対し、中国が規制前に仕入れた製造装置の保守サービスも禁じた。一方でオランダと日本の企業には効力が及ばない。米政府は水面下で何度も両国に規制強化を求めてきた。
製造装置は日蘭勢が高いシェアを持つ。米企業だけが修理や点検を絞っても、効果は薄い。バイデン政権はそう見て、日蘭企業が抜け駆けしていると批判を強める。
これに対し、外資系装置メーカー関係者は異論を唱える。「大半の米企業も請負会社など抜け道を使って保守サービスを続けている」。現地では米国人に代わって、アジア系技術者を増やしている例も多いという。
中国ビジネスは巨大だ。企業もなかなか抜け出せない。
国を挙げて装置を強化
そんな米国の封鎖網の穴を突くように、中国は技術力の蓄積を急ぐ。追い上げは著しい。
中国は旧式の露光装置「深紫外線（DUV）」で先端半導体を生産しているとされる
（ASMLのオランダの拠点）=ロイター
ファーウェイが今秋に発売する新しいスマホには、5.5ナノレベルの半導体を搭載するとの見方が広がっている。最先端となる3ナノ半導体の開発も始まったという噂も駆け巡る。
「従来型の露光装置で5ナノや3ナノを量産できれば、台湾積体電路製造（TSMC）でも実現できていない技術的なブレークスルーになる」。外資系半導体大手の技術者は警戒する。
3月、北京で開いた全国人民代表大会（全人代、国会に相当）。経済界の代表は半導体産業の育成強化の必要性を訴えた。
SMICから代表に入った郭会琴氏は「核心技術を自力更生でものにして（米国の規制強化に直面している）チョークポイント問題を解決していく」と応じた。
全人代直後には李強（リー・チャン）首相が自ら半導体装置最大手、北方華創科技集団（NAURA）に足を運んだ。
「供給網（に関わるあらゆる企業）の協力も得ながら、イノベーションを進めていく」。国を挙げた体制整備の方針を改めて強調するためだ。
中国ではいま、過去最大となる約4兆〜6兆円におよぶ国策の半導体ファンド構想が浮上する。産官学が一体となった巻き返しの布石が着々と進む。
パソコンやスマホの半導体や、電気自動車（EV）に使われるパワー半導体とは。
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日経記事2024.05.20より引用
