解任が発表されたレズニコフ氏(4月)=ロイター
【ウィーン=田中孝幸】ウクライナのゼレンスキー大統領は3日、レズニコフ国防相を交代させると発表した。軍で相次いだ汚職事件の監督責任を取らせた形だ。
欧米からの軍事支援の調達を主導してきた大統領側近の更迭には、軍部の腐敗対策が進まず、西側の支援が停滞しかねないことへの危機感がにじむ。
「国防省には新しいやり方と軍や社会との新たな関係が必要だ」。ゼレンスキー氏は3日の動画メッセージでレズニコフ氏の更迭理由を説明した。同氏は4日、国会議長に辞表を提出した。
ゼレンスキー氏は後任の国防相に国有財産基金のウメロフ総裁を指名した。近く議会で承認される見通しだ。
41歳のウメロフ氏は大統領の命を受け、2022年から同基金のトップとして汚職まみれだった組織の改革で成果を上げてきた。
同氏は14年にロシアに併合された南部クリミア半島の先住民族タタール系の政治家としても知られる。
ウクライナ軍の大規模な反攻開始から3カ月たっての国防相への登用には、クリミア半島の奪回に向けた意志を示す狙いもある。
ウクライナは「汚職大国」として知られてきた。22年のロシアの侵攻開始後も軍関連の汚職事件が絶えなかった。
トランスペアレンシー・インターナショナル(TI)がまとめた同年の世界の「腐敗認識指数」でもウクライナは180カ国・地域で116位と前年から大きな変化はなかった。
レズニコフ氏は21年から国防相を務め、同省や軍の汚職疑惑の報道に「中傷だ」などと反論してきた。同氏には過去にも引責辞任の観測が浮上したが、欧米からの数十億ドル規模の軍事支援の獲得への貢献もあり、ゼレンスキー氏が続投させてきた経緯がある。
このタイミングで更迭に踏み切った背景には、成人男性の徴兵逃れや軍需物資の調達に関わる不正など、戦況を左右しかねない腐敗がまん延していることへのゼレンスキー氏の焦りがある。
ゼレンスキー氏が汚職根絶を繰り返し呼びかけたにもかかわらず、今夏には徴兵免除と引き換えに軍関係者が賄賂を受け取った事例が相次ぎ露見した。8月に全州で徴兵事務を担う軍事委員会のトップを解任したが、汚職件数があまりにも多く捜査機関の手が回らない状態になっていた。
サリバン米大統領補佐官(国家安全保障担当)は1日、訪米したウクライナ司法機関の代表団と会談し、汚職対策の徹底を念押しした。ゼレンスキー氏が速やかに目に見える行動をとらなければ、市民の反発が高まり、西側諸国の支援機運も後退する恐れがあった。
ウクライナの裁判所は2日、過去にゼレンスキー氏の後援者として知られた新興財閥のイーホル・コロモイスキー氏に詐欺と資金洗浄の疑いで身柄拘束を命じた。これに続くレズニコフ氏の更迭劇も、欧米が求める汚職との戦いの一環ととらえられている。