ニデック転身､EVからAIへ　永守氏｢1兆円企業買収も｣角田康祐

ニデックの株価が復調の気配を見せている。電気自動車（EV）向け部品の不振を受けて低迷していたが、足元の株価は7300円近辺と3月につけた年初来安値（5400円）から3割強上昇した。

産業機器用モーターなどEV向け以外が業績を支え、AI（人工知能）半導体関連の新規事業も期待を集めている。

「中国の企業は低価格ばかり要求する。競合もみんな赤字だ」。4月下旬、東京都内で開いた決算説明会で、永守重信・代表取締役グローバルグループ代表はEV駆動装置「イーアクスル」事業の競争環境について不満を語った。

ニデックはEV用モーターとインバーターなどを組み合わせたイーアクスルを業界に先駆けて2019年に発売し、成長戦略の柱に据えてきた。しかし、世界的なEV市場の変調を受けて軌道修正を迫られている。

24年3月期（国際会計基準）にはEV向けを中心に598億円の構造改革費用を計上した。前期の純利益は1253億円と前の期の2.8倍に回復したが、当初予想を約400億円下回った。

EV駆動装置「イーアクスル」は中国向けを絞り込んで採算を改善する

25年3月期のイーアクスルの販売数は前期の4倍の82万台になる見通し。拡大路線を続けるようにも見えるが、実情は違う。22年9月から生産を始めていた欧州ステランティスとの合弁事業が連結対象になり、「プジョー」や「フィアット」向けの供給が伸びる。

一方で、採算が悪化していた中国向けを大幅に絞り込む。

25年3月期の連結純利益は前期比32%増の1650億円となり、3期ぶりに過去最高益を更新する見通し。EV向けの損益改善が大きな要因だが、全体の売り上げの4割強を占める「家電・商業・産業用」モーターも貢献する。

佐村彰宣最高財務責任者（CFO）は「先進国中心に港湾や下水道などインフラ関係の更新需要があり、特に産業向けが好調」と語る。部門営業利益率は前期で約12%と収益性も高い。

車載モーターの売上高は前期で5809億円と全体の25%で、EV向けはさらに小さい。大和証券の佐渡拓実氏は「イーアクスルにこだわる必要はない。新たなビジネスを見つけ、スピード感を持って実行できるのは強みだ」と語る。

新規事業で注目されるのは、米サーバー大手のスーパー・マイクロ・コンピューターと開発した冷却装置だ。

生成AI向けのサーバーは画像処理半導体（GPU）などが発熱しやすく、水冷式装置の需要が急拡大している。ニデックはタイ工場の生産能力を月200台から6月まで月2000台に高める計画だ。

ゴールドマン・サックス証券の高山大樹氏は「価格や生産能力をかけ算すると、2000億〜3000億円規模の売上高に育つポテンシャルがある」と評価する。

野村証券の秋月学氏も「先行メーカーの1社となるため、20〜30%のシェアを獲得する可能性がある」と見る。

株式市場もEV関連以外の事業の成長性を織り込みつつある。ニデックの株価は4月下旬の前期決算発表の後に大きく上げた。

24年に入ってからの上昇率は28%と、日経平均株価の16%を大きく上回る。同じく京都に本拠を置く電子部品大手では村田製作所が年初から2%安、ロームが26%安となるなか、好調さが際立つ。

中期的には課題もある。1つは「15%以上」を数値目標として掲げている投下資本利益率（ROIC）だ。

QUICK・ファクトセットによると、24年3月期（暫定値）までのニデックの直近5年平均のROICは6.4%だ。村田製（10.8%）やTDK（6.7%）に届かない。

ROICは自己資本と有利子負債を合わせた投下資本で利益を割って算出する。改善には分母である投下資本の圧縮か、分子である利益の引き上げが必要だ。

産業用モーターなどの既存事業に加えてEV部品事業の利益を伸ばし、M&A（合併・買収）でも投下資本に見合った利益成長を実現する必要がある。

決算説明会に出席したニデックの永守代表取締役グローバルグループ代表（右）
と岸田社長兼CEO（4月24日、東京都千代田区）

永守氏はこれまで73件のM&Aを重ね「失敗はゼロ」と豪語する。不振企業を再生するなどしてシナジー（相乗効果）を最大化してきた。

これまでは売り上げ規模が数百億円の企業や事業を買収するケースが多かったが、ニデックは今期の連結売上高が2兆4000億円になる見通しだ。永守氏は「今なら5000億円でも1兆円の会社でも買える」と語る。

永守氏は4月に会長兼最高経営責任者（CEO）からM&Aを担当するグローバルグループ代表に就き、社長兼CEOにはソニー（現ソニーグループ）出身の岸田光哉氏が昇格した。

EV部品事業について岸田氏は「中国では目先はいたずらに数を追わず、将来はナンバーワンを取っていく」と語る。ニデックのさらなる成長には、EV部品の再建と過去にない規模のM&A戦略という2つの解が求められている。

記者の目

記者が独自の視点で企業を分析。企業ニュースの背景や株価変動の要因、プロの投資家が注目するポイントなどをわかりやすく紹介します。

日経記事2024.05.22より引用

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