12人の陪審員はトランプ氏に有罪の評決を下した(30日)=AP
【ワシントン=芦塚智子】
トランプ前米大統領が不倫の口止め料を不正に処理した罪に問われた裁判で、12人の陪審員は2日間の評議で34すべての罪状について有罪の評決を出した。
評決まで1週間以上かかったり、陪審員全員が一致せず審理無効になったりする可能性がささやかれていた。
米メディアはスピード評決に至った理由として、検察の証拠の積み重ねと弁護団のミスを挙げる。
事件のきっかけは、トランプ氏の顧問弁護士だったマイケル・コーエン氏が、トランプ氏と性的関係にあったと主張するポルノ女優のストーミー・ダニエルズさんに対する13万ドル(約2000万円)の「口止め料」を肩代わりしたことだった。
トランプ氏が口止め料だったことを隠すための記録の改ざんに関与したというのが検察側のシナリオだった。
裁判では、検察側の重要証人で事件の中心人物であるコーエン氏に注目が集まった。コーエン氏は期待通り、トランプ氏の指示で口止め料を手渡したと証言した。
ただ、その発言の信用力には疑念も持たれていた。コーエン氏は口止め料を巡って実刑判決を受けており、トランプ氏を公然と批判していたからだ。
弁護団は過去の虚偽発言も挙げて「嘘つき」と攻撃した。
評決に向けて検察側は慎重に証拠を積み上げた(マンハッタン地区検察提供)
結果的に有罪と無罪を分けるカギになったとみられるのが、検察が不正処理を証明するために用意した多数の証拠だった。
トランプ氏の署名入りの小切手のコピーや電子メール、手書きのメモ、電話の通話記録などで、コーエン氏に頼らずに有罪を証明できるように周到に用意していた。こうした証拠の裏付けが、コーエン氏の証言の信用度を高めたとの見方が強い。
トランプ氏の主任弁護士は米CNNのインタビューで「陪審員たちは我々がコーエン氏の話の致命的な欠陥と考えたことを見逃し、有罪評決を下した」と嘆いた。
民主党地盤のニューヨークの住民から陪審員が選ばれる裁判では、トランプ氏は不利だとも主張した。
複数のメディアは、弁護団が冒頭陳述でトランプ氏とポルノ女優のダニエルズさんの不倫をあえて否定したことが大きなミスだったと指摘する。
ダニエルズさんが法廷で罪状とは無関係の不倫行為を詳細に証言し、陪審団の心証を害する結果になったと分析する。
また重罪で有罪とするには、トランプ氏が口止め料を業務記録に虚偽記載しただけでなく、その目的が2016年の大統領選への影響を不正に防ぐ選挙法違反の隠蔽だったことを証明する必要があった。
米メディアは、こうしたトランプ氏の意図を証明する証拠は少なかったのに、弁護団はこの点を十分に追及しなかったと指摘する。
米国の陪審制度では12人の陪審員全員が有罪か無罪かで一致する必要があり、1人でも反対すれば審理無効となる。
政治サイト「ポリティコ」のコラムニストは弁護団にとって「少なくとも審理無効の形で勝てるケースだった」とする。
トランプ氏は控訴の際に一審でのミスを利用する可能性がある。
評決を覆すためには、裁判に過誤があったことを示す必要がある。米メディアは、トランプ氏側がダニエルズさんの証言が不適切で陪審員に偏見を与えたと主張することを予想する。
検察が重罪での起訴の根拠としたニューヨーク州の選挙法違反は、そもそも大統領選には適用されないといった主張を展開する可能性もあるとしている。
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では、同業のよしみでトランプ弁護団を少し弁護しましょうね。 複数のメディアは、どうやら弁護団が自らの判断でトランプ氏の不倫をあえて否定したと想像するようですが、そんなことはあり得ません。
特にトランプ氏の性格を考えれば、不倫の否定は彼の強い意向である可能性が高いでしょう。弁護団はその点を争うのはむしろ不利だと意見したかもしれない。
しかし、最後は依頼人の意向に反する主張はできませんし、守秘義務があるためその事情も表では話せません。
弁護団の主張とはそのような依頼者の希望や、表には出せない膨大な事情を考慮して、苦心惨憺してつむぎ出されるものなのですね。・・・いや、ミスの場合もありますが(笑)
日経記事2024.06.01より引用