
金融に関する専門研究班の発足式を取り仕切る蔡奇・共産党政治局常務委員
(北京、1月16日)=中国国営中央テレビの映像
中国共産党内で過去に例をみない強い権限を持つ総書記(国家主席)の習近平(シー・ジンピン、70)。彼を支える代表的な寵臣(ちょうしん)は、今やふたりだけだ。
企業の経営陣に例えるなら、「執行役員」級にみえる習近平以外の最高指導部メンバーらだが、それでも両人が今後、どんなパフォーマンスを見せるかは、習近平政治の将来を大きく左右する。
ふたりは、共産党政治局常務委員で序列5位の蔡奇(ツァイ・チー、68)と、同序列2位で首相の李強(リー・チャン、64)だ。なぜ、蔡奇を先に紹介するのか。両人の力関係の実質的な逆転がわかる政治的な出来事が昨夏以降、みられたからである。
大洪水で透ける権力構造
2023年7月末から8月にかけて、河北省と隣接する首都・北京を襲った悲惨な大洪水。多くの死者が出たことで、中国の人々の記憶に強く残っている。その際、習をトップとする現在の中国政治に特徴的な理由から、ある重大な決断が下されていた。
習の部下らが、救うべき重要拠点として最も重視したのは、習時代を象徴する河北省の新しい開発地域である「雄安新区」だ。それよりも歴史的に有名な河北省の街ではなかったのである。

金融に関する専門研究班の発足式に出席した習近平・共産党総書記(北京、1月16日)
=中国国営中央テレビの映像
雄安新区は、習がトップに就いた後、「千年の大計」と銘打って大開発を指示した特別な地域だ。付近は習の母親の出身地で、習一族との縁(ゆかり)もある。その開発計画は、新型コロナウイルス禍の影響もあって必ずしも順調に進まなかった。
大号令の下、既に有名大学の一部、国有企業が北京などから移転はした。だが、首都・北京の人口はピークを過ぎ、少しずつ減りつつある。実態的には新たな「副都心」に機能や人口を移す必要性が薄れてきた。
それでも習は、威信をかけたプロジェクトを進めるため、再びアクセルを踏もうとしていた。自ら雄安新区を視察し、開発に向けた旗を振ったのだ。大洪水の3カ月前だった23年5月。李強と蔡奇も同行している。

蔡奇・共産党政治局常務委員㊨と李強首相㊧、そして、間に立つ丁薛祥・副首相㊥(2023年5月10 日、
河北省雄安新区)=中国国営中央テレビの映像
党内序列2位、5位の最高部指導部メンバーが、ともに習に付き従って地方視察するのは異例だ。
この時は、さらに序列6位の筆頭副首相、丁薛祥(ディン・シュエシアン、61)まで雄安にいた。こんな経緯から、もし雄安新区が水没すれば、習のメンツがまる潰れになりかねなかった。
それを誰よりもよく知っていたのは、河北省の共産党トップらだ。雄安新区に隣接する湖沼である白洋淀は、中国北部で最大級の淡水湖。
それは付近で最も海抜の低い湿地帯であり、水害の際、北京に濁流が流れ込まないための自然のダムの役割も果たしてきた。
昨夏の大洪水で河北省トップらは、このままでは雄安新区ごと水中に沈むと慌てた。そして、まずは、行政ピラミッドの頂点に立つ国務院(政府)総理=首相である李強に、早急に雄安新区を救う手立てを考えてほしいと要請した。
問題はここから始まる。李強は何もできなかった。国務院=政府のトップではあるが、権限は限られる。公安・警察、国家安全省、武装警察から軍につながる国家安全系統の全体を仕切る実質的な権限を持っていない。まさに習政権になってからの特徴だ。
企業のガバナンスに例えるなら、李強は共産党ナンバー2なのに、副社長でも専務取締役、常務取締役、ひらの取締役でさえない。「執行役員」級のトップと評されるゆえんである。
では、習の名の下に強権を発揮して雄安新区を救える権限の持ち主は、いったい誰なのか。「それは国家安全系統を差配する蔡奇だった。李強は(序列上、格下の)蔡奇に雄安新区の救済を懇願するしかなかった」。関係者から、後に聞こえてきた驚くべき真相である。
いわゆる「浙江閥」である李強は、首相に就く直前まで上海市トップ。北京での本格勤務の経験が皆無だ。そのうえ23年7月末といえば、中央の官僚らを動かす仕事に就いてからまだ4カ月余り。危機に際し、右往左往するのは致し方なかった。
それに比べ、蔡奇には中央での経験がある。李強と同様、福建・浙江両省など地方経験が長い。だが、習時代に入ってから間もなく北京に入る。新設された「国家安全委員会」の事務担当に抜てきされたのだ。それから既に10年。最近まで北京市トップだった経緯もあり、北京周辺の事情に通じている。その違いは大きかった。
蔡奇は、雄安新区を大洪水から守るため、より北京に近い街である涿(たく)州の付近を流れる河川の堤防を切って、故意に決壊させる措置をとった。問題は、急な決断・実行だったため、関係部署への事前通告が間に合わなかったことだ。
「(時間的に切迫した危機の中、突然、実行された)人工的な決壊という措置を知らない多くの人の命が失われた。そこには(災害救助に出動しようとしていた中部戦区の)軍関係者まで含まれていた」。時間を経て現場から漏れ伝わってくる真相である。次第に浮き彫りになってきたのは、当局の発表を上回る洪水の深刻さだった。
23年夏「北戴河」、習外国訪問にも影響
低地、湿地として有名な雄安新区の一帯は、なんとか救われたものの、故意の決壊、放水で別の広範囲の地域が濁流にのみ込まれ、水没したのである。そこには、「三国志」で世界的に知られる「桃園の誓い」にちなむ歴史的な場所、涿州も含まれていた。
この一連の政治劇は、23年夏、同じ河北省の海辺で開かれていた問題の「北戴河会議」とほぼ並行して起きていた。その大混乱は、同8月下旬から続く習の外国訪問にまで影響する。
8月下旬、 南アフリカで開かれたのが、新興国によるBRICS首脳会議。空港に到着して専用機のタラップを降りる習の表情はさえず、足元もふらついていた。そして会議中も突如、演説をキャンセルし代読になる。
帰路も、なぜか北京には直帰せず、突如、予定を変更して新疆ウイグル自治区のウルムチに入った。異例の事態だ。ここにも大洪水後の政治的な混乱、人事を含む複雑な処理が関係していた。
さらに同9月前半、インドで開かれた20カ国・地域首脳会議(G20サミット)には、自ら出席せず、李強を代理に立てた。中国が最大限、重視してきたG20である。それだけに、リアル開催される会議現場に中国国家主席が不在だったのは、初めてだ。
そして、洪水を巡る複雑な政治劇で、もうひとつ明らかになったのは「ある意味、蔡奇が李強よりも強い権限を有している」という政治力学だった。極めて重要な雄安新区を救ったという大きな手柄は、蔡奇のものなのだ。
習政権の政治構造が透けて見える一連の動きの結末は同11月、習が再び河北省を訪れ、復興途上の被災地に入ったことで終結した。お供していた政治局常務委員は、蔡奇ひとりだけだった。
国家安全の蔡奇が李強の金融・経済も
国家安全部門が金融問題にまで――。そして年が明けた1月、国家安全部門が、金融問題にまで幅を利かせているように見えるイベントがあった。習の出席の下、中国の特色ある金融の発展を推進する専門研究班の発足式が1月16日、北京で開かれたのだ。

中国主要幹部の金融に関する専門研究班発足式(北京、1月16日)= 中国国営中央テレビの映像
深刻な中国の経済状況下、金融に関わるリスク管理が焦点になる――。その認識は正しい。特に中国の地方政府系投資会社「融資平台」に絡む巨大な債務返済がピークを迎えるのは今年からだ。
だが、スイスでの世界経済フォーラム(WEF)の年次総会(通称ダボス会議)に出席していた李強は、北京にいない。本来、首相が仕切り役のはずの金融・経済分野を主題にした大々的な会議が、首相不在時にあえて開かれているのは、違和感がある。
さらに注目すべきは、金融専門研究班の発足式を取り仕切ったのが、蔡奇だったことだ。習は、蔡奇と李強を互いに競わせているという見方もできる。ふたりが今や微妙な関係にあるのは間違いない。
とはいえ、役割が全く違うだけに、ふたりが「犬猿の仲」で、話さえできないわけではない。昨夏に起きた河北省の大洪水対策でも、李強が蔡奇に頼ることで雄安新区を救い、習の威信を守る連携をみせたのだから。ふたりの間には、微妙な均衡が成立している。
ただし、国家安全という本来、裏に隠れているべき領域が、中国ほどの大国の金融・経済領域を仕切り、その権限が拡大しつつある現状は異常である。いびつな政治構造の象徴が、時に蔡奇が李強の上位にいるかのような寵臣ふたりの関係だ。

ダボス会議に出席した李強・中国首相(1月16日) =ロイター
これでは、いくら李強が、「中国経済の未来は明るい」「対外開放を進める」と海外に訴えても、国際的な信用は得られない。
それを嫌気してなのか、中国の代表的な株価指数である上海総合指数は、22日の終値が2700台にまで落ち込んでいた。寵臣ふたりの微妙な均衡関係は、今後の習体制を左右する。注目したい。(敬称略)
中沢克二(なかざわ・かつじ)
1987年日本経済新聞社入社。98年から3年間、北京駐在。首相官邸キャップ、政治部次長、東日本大震災特別取材班総括デスクなど歴任。2012年から中国総局長として北京へ。現在、編集委員兼論説委員。14年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。
関連記事】
日経記事 2024.01.24より引用
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んかなか読みごたえのある秀逸な記事でした。
現在の中国の権力構造が事実ベースによく理解できました。
私の関心は、予測不可能なトランプの行動ですが、演説とは真逆に、親北朝鮮、そのバックにいる親ロシア、親中国になることです。 また米国DSの本丸とも言えるロックフェラー財閥(共和党のバック)に尻尾を振り出すことです。
予測不可能なトランプの言動! 北朝鮮、そのバックの中国・ロシア側にならなければ良いがhttps://blog.goo.ne.jp/renaissancejapan/e/fad5c5b9838ad9a216b6eda2379fbe71
既に何がしか水面下では動いているでしょう。
当然、中国・ロシアもなにがしかの工作はしていることは考えておかねばなりません。
世界の最貧国の一つであった中国に巨額の資金技術・技術援助、一つの中国を約束したのは、ロックフェラー財閥と米共和党です。
1972年2月、共和党のニクソン大統領が訪中し、北京で毛沢東と首脳会談を行いました。 その出来で上記、巨額の資金援助・技術援助・一つの中国を約束しています。 中国の異常な発展は、これが起点です。
また、軍磁力で北ベトナムごときに負ける訳がないアメリカですが、ベトナム戦争中に突然「北ベトナムを攻撃するな」という命令を出し。さらにベトナムから米軍を撤退し、ソ連を喜ばしたのも、ロックフェラーがバックの共和党ニクソン政権です。
政治や歴史をしらない日本の一部のお馬鹿たちは、共和党は愛国保守とうプロパガンダを真に受けているようですが、上記はすべて公式な事実。
むしろ、ご存じなようにロシア・中国に厳しいのは米民主党です。 トランプも「ウクライナ支援は辞めてしまえ」と言っていますね。 ロシアと中国に有利なだけです。
君たちはまだ分からないのかな。以下すべて事実、反論してみなさい。
【事実】2016年、トランプ・ブームはマケドニアの小さな町ヴェレスの若者たちのデマから始まった。
https://blog.goo.ne.jp/renaissancejapan/e/02dc2fa491e85b3d17884ebf16907127
・トランプとQアノンのデマを信じる阿呆たち-1 ~トランプはDSと戦っている? アホかhttps://blog.goo.ne.jp/renaissancejapan/e/358b3a0253fd576b529d92a0057dca71
・トランプとQアノンのデマを信じる阿呆たち-2 ~トランプは平和主義者で暗殺も戦争もしない? アホか
https://blog.goo.ne.jp/renaissancejapan/e/56dd7b8ead46e7304879c33ee5f4e10b
・【解説】 Qアノン陰謀論とは何か、どこから来たのか 米大統領選への影響は
https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-53929442
・アメリカを操るイスラエルロビー・AIPAChttps://blog.goo.ne.jp/renaissancejapan/e/a2d3149aa6cb24348d3a333e9f2f41d2
・ロスチャイルド財閥ー226 アメリカ新世紀プロジェクト(PNAC)とネオコンhttps://blog.goo.ne.jp/renaissancejapan/e/1c331c20783eeefd8d826780a5d38106
・ロスチャイルド財閥ー223 ネオコンhttps://blog.goo.ne.jp/renaissancejapan/e/ec25633641a286c475b6cc36a5033f10
・親中の安部晋三・高市早苗、そして統一教会との癒着https://blog.goo.ne.jp/renaissancejapan/e/3014a48c1fe58ceabb6dfef5fa59b0bd
・リンカーン、ケネディ、安倍元首相暗殺の共通点 https://blog.goo.ne.jp/renaissancejapan/e/62b46eec87d1a18e8da9195e4d353d64
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【インボイス制度は増税でない】 ネットのデマに注意!https://blog.goo.ne.jp/renaissancejapan/e/0fc4809962e571b2ad23991ec43c0822
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