1993年11月、サイモン・アンド・シュースター出版会社によって、ある一冊の本が出版された。その本は青少年の道徳教育を目的としており、さまざまな美徳に分けられて、自己鍛錬、思いやり、責任、友情、勤勉さ、勇気、忍耐力、誠実さ、忠誠心、そして信仰について書かれている。題して、The Book of Virtues: A Treasury of Great Moral Stories、美徳の本:素晴らしい道徳の話の宝庫とでも訳そうか。
著者はウィリアム・J・ベネットである。彼は、ロナルド・レーガン大統領政権下、教育長官を務め、在職中は数多の学校を頻繁に訪問した。 ベネットによると、彼の「美徳の書」は訪問先の学校教師との会話から、学校だけでは根付かない道徳観を子供に知ってほしいという要望を受け取り、執筆した。
日本ではかつて修身というものがあったが、戦後75年経ち、その間、修身そのものには、むしろ児童・生徒に道徳心を養うのに助けになるのでは、という意見も上がったのを覚えている。
しかしながら、修身が大事だったのは、明治の富国強兵から軍事色の強かった時代のものだ、軍国主義に元どおりなのか、などという観念があり、その後修身の復活話がどうなったのかは知らない。修身とは、文字通り、「身を修める」ということだが、それは決して悪いことではない。きちんと挨拶ができる子供や、両親を敬い、などというのは、昨今の日本では、終戦で終わってしまったのだろうか。
日本でのそうした事情はさておき、残念ながら、ベネットのこの本は日本語には訳されていず、アマゾン日本でも原書しか入手できない。
この本は発売と同時に大ヒットとなり、長女は中学、高校とこの本が副読本として奨励され、818ペイジもあるが、完読している。先日本棚の本を掃除している時、この本があるのに気が付いた。例のごとく、久しぶりに手にしたり、目についたものは、掃除中であろうが、まずカウチに腰をかけて、どれどれと記憶の旅路を辿るのが、わたしであるから、もちろんダスターを片手にパラパラとペイジをめくった。
そのうち一枚の名刺が挟んであるところへ来た。その名刺は、メリーランド州にあるレストランもので、なんとそれは7年生だった長女のG.A.T.E.(Gifted and Talented Education)クラスのシャパロン(付き添い)としてワシントンD.C.旅行の際、ゲティスバーグ戦場跡へ行った時のものだ。ゲティスバーグを見学した後、夕食はそのレストランでとったのだった。
その「栞」が挟まれていたのは、207ペイジで、そこに”If You Were"という短な短なエッセイがあった。今日はそれについてご紹介したい。
もしあなたが
もしあなたが親切で忙しいなら
それを知る前に、気がつくことでしょう
すぐに「あれは真実だったんだ」と考えるのを忘れるでしょう
誰かがあなたに不親切であったことを。
もしあなたが嬉しくて忙しいなら
そして悲しい人を励ますのにも忙しいなら、
あなたの心が少し痛むことがあるかもしれなくとも
すぐにそれに気づくことを忘れるでしょう。
もしあなたが良くあろうとすることで忙しいなら
そして、何にでもできるうる限り全力を尽くしていたら、
あなたと同じく最善を尽くそうとしている人を
責める時間はないでしょう。
もしあなたが自分は正しくありたいと忙しかったなら、
長い間隣人を批判するには自分はかなり忙し過ぎると気づくでしょう
何故なら彼は自分が誤るのに忙しいからです。
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もし自分が最善を尽くして、心を喜びで満たし、正しくあろうとすれば、他人の短所や誤った点について気付かないほど、忙しいはずだ、という話である。裏返せば、我が身を振り返れば、他人の欠点など、批判できない自分ではないか、ということ。時折の本棚のお掃除も、こんなミニの道徳を思い出させてくれるのだ。さて、次はどの本棚の埃をダスターではらおうか。
#5は、彼女の母方の従兄とは、大の仲良し。
自分の欠点を失くそうとすれば、他人の欠点など気づかないほど あなたは忙しいでしょう、の見本。忙しいことはいいことかも。