ネルソン・マンデラがロベン島に投獄されていた19年の間に、あるひとりの指揮官がとりわけて最も残忍でした:以下はマンデラ氏の回想です。
「バーデンホルストの退去の数日前、私は本部に呼ばれました。スタイン将軍は島を訪れていて、私たちに何か不満があるかどうか知りたいと思っていました。バーデンホルストは私が要求リストを読み始めた時、そこにいました。私が読み終えた時、バーデンホルストは直接私に話しかけました。
彼は自分は島を離れるだろうと言い、『私はただあなたがたの幸運を祈っています』と言いました。 私が物を言えないほどあっけにとられているように見えたかどうかはわかりませんが、しかし私は驚きました。彼はこれらの言葉をまるで人間のように話し、今まで見せたことのない側面を示したのでした。私は彼にその芳志を感謝し、彼の尽力の幸運を祈ります、と言いました。
その後、この瞬間について長い間考えました。バーデンホルストは、私たちがロベン島にいた時、おそらく最も冷淡で野蛮な指揮官だったのです。しかし、その日事務所で、彼は彼の性質に別の側面があることを明らかにしました。
このことは、すべての人は、たとえどんなに一見冷血冷淡な人であっても、良心の核を持ち、その心に触れれば、変化できるということを思い出させてくれました。究極、バーデンホルストは悪魔ではなく、彼の非人間性は非人間的なシステムによって彼に押し付けられていたのです。彼はその野蛮な振る舞いで報われたので、野蛮人のように振る舞っていたのでした。」
Source: ネルソン・マンデラの著書"Long Walk To Freedom" ら。
ネルソン・マンデラはジャン・バルジャンとそう変わらない澄んだ心を持っていたのだ、と私は思う。反アパルトヘイト運動により27年間に及んだ獄中生活、そこでの非情な仕打ち、それでも心は濁らなかった。1990年に釈放されてから、マンデラが政権を得た時、最も心を砕いたのは、アパルトヘイト体制下での白人・黒人間、またインカタ派とANC派などといった対立をいかにして収め、全人種を融和させるかということであった。政治的に特にフレデリック・デクラークには厳しい意見を持ち、口論をしたが、その出自の種族の教えやキリスト教の教えが彼を基本的に平和主義で自由民主主義を重んじさせ、全人種・民族の融和を特に重視していたそうである。最も残忍だった指揮官への彼の一瞬に得た感情が、どれほど虐げられても、心の奥にある高潔さは誰にもなににも穢されないことを物語っている。