ままちゃんのアメリカ

結婚42年目のAZ生まれと東京生まれの空の巣夫婦の思い出/アメリカ事情と家族や社会について。

お目見え

2019-08-07 | 家族

 




これは「スパイダーマン候補」の続き。



フリーウェイを南下する夫と私は、普段にまして美しく暮れなずむ行く手の空を見上げ、健やかな子の誕生を予感させるかのような雅やかな雲に気づき、単純な私たちは都合よく順調なお産を予感したのだった。医師たちが、「教科書通りの、見本のような妊娠状態」と言うところの娘は、これまた「教科書通りの陣痛」を迎え、病院に入っていた。私たちが到着するまで、娘の夫は刻一刻と状況変化をテキスト中継してくれていた。さすが手が携帯電話な現代っ子。


 


中央カリフォルニアと南カリフォルニアの間にあるグレイプヴァインの峠を越えると、インターステイト5(I-5)のフリーウェイは、ロサンジェルス郡のヴァレンシアに入り、交通はだんだんと渋滞してくる。I-5は北と南カリフォルニアを結ぶ物流の重要な路線だから、日夜お構いなく、大きな貨物運搬のセマイ・トレイラートラックが行きかう。ロサンジェルスからオレンジ郡へ抜けても、多少の事故はいつでも発生し、さらに交通は重くなる。そんな中、時には空いている有料道路も使い、六時間かけて、娘の入院するカリフォルニア大学サンディエゴ校の大学病院へ午後十時を過ぎてやっと到着した。産科のある病棟は、新しく、清潔だ。早速受付で名札のスティッカーを受け取り、娘の個室病室へ行くと、すでに硬膜外麻酔処置の済んだ娘は、ひっそりと横たわり、休んでいた。


ひっそり。


この7階にある産室はすべてバスルーム付きの広い個室で、大きな窓からサンディエゴ・ラホヤの夜景が広がる。この産室で子供が生まれると、二時間してから、10階の快復室とでも言う部屋へ移される。そこも大きな窓のある広い個室が32ある。産科病棟というよりもホテルのごとく静謐で、まず病院特有の24時間される院内放送がない。アメリカの医療ドラマでよく聞くコード・ブルー(心臓発作を表し、コード・レッドともいう)のようなアナウンスがなく、あっても患者は耳にしない(テロアタックや地震やその類の緊急事態にはちゃんと患者は聞ける。)のでその点医療従事者への連絡はどうなっているのか不思議だが、患者の快復・休養への配慮はたいしたものである。ただし子供が生まれると、看護師は壁のスイッチを押し、ブラームスの子守歌一節が館内に響くようになっている。それを耳にすると、誰もが新しい人がやってきたのを知るのだ。それ以外、新生児と母親が常に同室するこの産科病棟は、静かで隣室の新生児の泣き声が漏れもしない。ここでは新生児の足型は取らず、出生時に足と手首につけるブレスレットにコンピュウターチップが付き、それで親と子の一致をさせ、またそれはGPS機能もある。アメリカの病院では、新生児誘拐が多発するので、それを予防するためである。さすがカリフォルニア大学のリサーチ病院だけのことはある。


 

    

 

 

若い研修医たちは、ベッドサイドマナー(看護態度)もよろしく、傍から見ていても胸のすくような、てきぱきとした働きをしていて、ひとつひとつの処置やこれからすることへの説明を患者やその家族にして、娘には、100点をあげたいほどの熱心さで温かい励ましを絶えず与えてくれていた。娘よ、頑張れ、夜明けは近い。


フロリダ州で眼科専門研修医として働く長男が、カリフォルニア大学アーヴァイン校医学部と提携している病院で一般研修をしていた折、産科も経験して、何人かの子供を取り上げたことを思い出した。息子も通った道なんだ。君のベッドサイドマナーはこの人たちのように立派だったろうか?と思いながら、生まれたての孫#7(男児)を抱く祖母の私。娘の夫は涙で赤くなった目をして、娘の頭をそっと抱き、感謝と愛情のこもった言葉をかけていた。ひとつの命が誕生することの神聖さ。何遍経験してもはっとするほど心を揺り動かす。そうか、末娘もとうとう親になったのだ。


  

3544グラム、51センチメートルの健やかな新しいスパイダーマン#7がデビューした。

 


そして娘の夫は父となった。






コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする