大学院生は大抵が既婚者で子持ち、仕事を持っているから、卒業にこぎつけた方々を見ると、尊敬の念が湧く。特に、教育、看護学、物理療法学、心理分析学で博士号を取得した人たちは皆、努力に努力を重ね、仕事に家庭に、と、勉強以外にたくさんのやることを抱えているのであるから、立派な卒業レガリアを着て卒業タムを被った姿は、りりしく、胸を打つ。そしてそれを支えた愛する家族の姿が目に浮かぶ。
レガリアというのは、卒業生が着るガウンのことで、学士、修士は似ているが、修士は、フッド(Hood)があり、修士授与はHooding Ceremonyで、このフッドを首にかけてもらうことで成立する。専攻に応じて様々な色が黒地の布とつなげられている。この二つの学位は同じようなキャップ(角帽的なもの)で、大抵黒である。てっぺんからは、Tussleが下げられる。 博士号はベルベット地を使ったフッドで、キャップも、Tamタムと呼ぶ、ベアトリクス・ポターの、ベンジャミンバニーが被っているようなフエルトのベレーのような物を用いる。博士号のレガリアは、腕に三つあるいは、四つのストライプが付き、レガリア前面中央には二本幅広なベルベットが付いている。こうした卒業服装は、学士、修士は、$100周辺、博士号は$500以上かかることもある。博士号のレガリアセットはベルベットを使い、布も多く使うからだろう。
Hood フッドの色は各学科により異なり、大抵ユニヴァーサルなコードである。例えば、教育は水色、エンジニアリングは黄色、法学は紫、医学はケリーグリーンとそれぞれある。三本ストライプの入ったベルベットのレガリアをまとい、頭にはタムの息子は、名前を呼ばれて壇上に赴き、傍で待つ妻によってケリーグリーンのフッドを被った。そうして、この春、息子は医学博士になった。
これは博士号のレガリア、フッド、タム。
難関を越えて入学をしても、初年度に脱落する学生は独身者が多く、四年目にはさらにもっと多く妻帯者でも脱落していく。
息子は、専門医(小児眼科医)を目指しているので、まだあと四年ほどは修行を積まねばならない。
そんな険しい過程で、若い夫婦は共に苦労を乗り越えて、絆をますます深めるのだろう。息子の妻Kは生物・看護学を専攻し、病院で働き、息子を励まし、支え、まさに糟糠の妻である。こうした献身的なKがいたから、息子は勉強に励み、卒業でき、現在のレジデンシーを行えている。二人には春先女児が生まれたが、育児には、息子は持てる時間をできるだけ注ぎ、二人でしっかり育てている。息子の博士レガリアにはこのKの並々ならぬ献身と愛情が織り込まれている。パトリシア・マックガー(Patricia McGerr)の書いた話に、ジョニー・リンゴというポリネシア人が、9頭の牛に匹敵するほど素晴らしい嫁を貰う、というのがある。息子はジョニー・リンゴの妻に劣らない、10頭の牛でも足りないほどの人を妻にした。