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弁護士・元ロースクール教授宮武嶺の社会派リベラルブログです。

白井邦彦青山学院大学教授特別寄稿「ロシア・ウクライナ戦争の即時停戦・和平交渉による解決を強く訴えます。 ー奪われた領土は取り戻せても、失われた命は二度と戻らないー」

2023年01月21日 | 白井邦彦教授シリーズ

ウクライナ東部クラマトルスクで、子どもを抱えて電車を待つ避難民(2022年4月4日撮影)。(c)FADEL SENNA / AFP

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 当ブログにも新自由主義反対と徹底した平和主義の立場からたびたびご寄稿をいただいている白井邦彦先生が

ご存じ!青山学院大学の経済学部教授、社会経済学の白井邦彦先生がnoteを始められました!フォローしましょう~!

でもご紹介したように、noteを始めてくださいました。

 それを記念して、お忙しいところをお願いしてまた玉稿を賜りました。

 ただし、ロシアによるウクライナ侵略に関しては白井先生とわたくしとで感覚に差が出てきているので、今回はわたくしからの辛口コメントを随所に入れることをお許しいただく、という寛大なお言葉があり、異例の形での公開となります(笑)。

 では、1万字以上書いていただいた貴重なご意見、とくとご覧あれ!

2019年7月、青山学院大学経済学部の大講義室で白井邦彦先生と私。

『安倍改憲が私たちの基本的人権に与える影響』~人の支配から法の支配へ 青山学院大学特別講義から1

『安倍改憲が私たちの基本的人権に与える影響』~人の支配から法の支配へ 青山学院大学特別講義から2 自衛隊明記の危険性

 

 

ロシア・ウクライナ戦争の即時停戦・和平交渉による解決を強く訴えます。

 -奪われた領土は取り戻せても、失われた命は二度と戻らない-

 

  • はじめに

 最初に以下の見解を紹介したく思います。

「ウクライナの徹底抗戦を`英断`であるかのように称賛する人は多い。だが、待ってほしい。幾多の国民の命と、ロシアに奪われた土地の奪還とを、天秤にかけられるのか。国民の命を守る以上に大切なことなどあるのか」(作曲家三枝成彰氏「日本は民主主義の本道を行け」日刊ゲンダイ1/21付け)

「アクトン氏『ウクライナの大義名分は正しいが核戦争の恐ろしい結果に目をつぶってはならない。たとえ、この戦争を始めた責任がプーチンにあるとしてもだ。ウと支援者の利害は近いが完全には一致していない。合理的に考えるなら、ゼレンスキーはバイデンより領土をめぐる核戦争のリスクを厭わない』」(野口和彦先生ツイート1/20)

 

いずれも、ロシア・ウクライナ戦争についての筆者の意見を代弁してくれています。筆者もこうした認識を常にもっています。

そのうえでロシア・ウクライナ戦争に関する筆者の基本的立場を述べたいと思います。次のような次第です。

「ロシア政権によるウクライナの侵略・併合・数々の蛮行(指摘したらきりがないほど多い)は全く許容できず強く抗議するとともに、人命尊重と軍事支援のもつ問題点から即時停戦・和平交渉による解決を主張します。同時にマイダン政変・ゼレンスキー政権も支持できないという立場です。そしてなによりも戦争には絶対反対です」

 以下、ロシア・ウクライナ戦争について考える点について述べながら、この基本的立場を、特に軍事支援ではなく即時停戦・和平交渉による解決を改めて主張したく思います。

 なおロシア・ウクライナ戦争のこれまでの経緯については下記の横山氏の論考(2022・12・2)にまとめられています(横山氏は元自衛隊幹部、制服組のエリート、軍事的合理性という観点から早期に和平協定による解決を訴えています)。

ウクライナ、新年も戦闘継続 東部でロシア兵63人死亡: 日本経済新聞

攻撃を受けて破壊されたがれき近くに立つ子どもと男性(2023年1月1日、キーウ)=ゲッティ・共同

 

2023年1月19日、ロシアに不法に連行されたウクライナの子ども1万3899人のうち、ウクライナに戻ったのは、たった125人だとウクライナの大統領顧問が主張、真偽は不明。

 

宮武ツッコミ1

ウクライナ戦争の即時停戦を主張する方の多くはロシアの蛮行について最初に触れはしますが、それは橋下徹氏でもすること。言い訳程度に皆ロシアが悪いのは前提といいますが、ロシアの侵略及び戦争犯罪とウクライナの違法行為を比べると違法行為の程度は100対1~3くらいの差があります。

 

 

2、軍事支援について考える

 主張1「イスラエルによるパレスチナへの軍事攻撃・占領・その他数々の蛮行は許容できない。それらに対抗できるようにパレスチナに軍事支援すべきだ。軍事支援に反対することはイスラエルの行為を容認することだ」

 主張2「イスラエルによるパレスチナへの軍事攻撃・占領・その他数々の蛮行は許容できない。しかしそれに対してパレスチナに軍事支援を、では武力の応酬になり軍事紛争はエスカレートするばかり、平和的解決を望む。ましてやパレスチナへの軍事支援に反対することはイスラエルの行為を容認することだ、というのは論理の飛躍である」

 イスラエルのパレスチナへの侵略等を強く非難する人々でも主張1を支持する人は少数で、おそらく多くのひとが主張2を支持すると思います。

 では次の主張3と4についてはどうでしょうか。

 主張3「ロシアによるウクライナへの軍事攻撃、占領・その他数々の蛮行は許容できない。それらに対抗できるようにウクライナに軍事支援をすべきだ。軍事支援に反対することはロシア政権の行為を容認することだ」

 主張4「ロシアによるウクライナへの軍事攻撃、占領・その他数々の蛮行は許容できない。しかしそれに対してウクライナに軍事支援を、では武力の応酬になり軍事紛争はエスカレートするばかり、平和的解決を望む。ましてやウクライナへの軍事支援に反対することはロシアの行為を容認することだ、というのは論理の飛躍である」

 おそらく現在多くの人が主張3を支持し、主張4を支持する人は少数でしょう。主張3、4はイスラエルをロシアに、パレスチナをウクライナに、入れ替えただけです。それなのに判断が違ってくるのはなぜでしょうか?

  実は侵略された国に対する軍事支援には「軍事支援先の選別」ということが必然的に内包されています。その際「選別の基準」とはなんでしょうか。率直にいって「侵略国が西側諸国ないしそのサイドではなく、侵略された国が西側諸国ないしそのサイドにある、か否か」が「軍事支援先の選別の基準」ではないでしょうか。そう考えればウクライナに軍事支援を行いパレスチナには(少なくても公然とは)行わない、ということの説明がつきます。ただこの「軍事支援先の選別の基準」を認めていいのでしょうか?パレスチナ市民もウクライナ市民も人の命として平等のはずです。ウクライナへの軍事支援の背後にこうした「選別の基準」があるとき、ウクライナへの軍事支援を容認していいのか、それを容認することはその「選別の基準」をも容認することになるのではないか、という疑問があります。

 また軍事支援は結局何を目的としてどこまで行われているのでしょうか?

 野口和彦先生のツイートです。

 私もこの点はずっと疑問に感じています。

イスラエル首相「ガザ空爆継続」 米仲介効果乏しく: 日本経済新聞

2021年5月16日、パレスチナ自治区ガザで続くイスラエル軍の空爆=AFP時事

宮武ツッコミ2

パレスチナとウクライナを比べると、ウクライナだけが贔屓されている、これは不公正だと私も思います。しかし、パレスチナに軍事援助しないのならウクライナにもするべきではないというのは論理がシンプルで乱暴過ぎるのではないでしょうか。ウクライナ戦争単独で見た時に軍事支援をするべきか否かを判断すべきで、パレスチナ問題はまた別に真摯に検討すべきでしょう。

 

 

前記の横山氏の論考にあるように、この間ゼレンスキー政権側の目標(勝利のライン)は大きく変わっています。そのすべての達成まで軍事支援を行うのか、その場合求められる軍事支援の質量が高まったときどうするのか、派兵まで求められた場合どうするのか、軍事支援の継続により核戦争・世界大戦のリスクが高まる可能性があることをどう考えるか、といった点についてきちんとした議論なしに軍事支援継続でいいのでしょうか?

ドイツが現在直面している戦車供給問題は考えさせられます。

『ドイツ、戦車供与渋る 「せめて他国の供与認めよ」の声も 新国防相は地方政界から起用』(産経新聞2023・1・18)

ゼレンスキー政権が求める戦車の供給に対しドイツ市民の間では反対論が強く首相も慎重、しかしそれに対し他国から圧力がかかっている、という状態です。軍事支援が義務化され、さらにその義務も高度化し、支援国の世論より優先、遂行しないと他国から圧力がかかる、という事態です。たとえ軍事支援を容認したとしてもこれはさすがに行き過ぎではないでしょうか。ウクライナへの軍事支援はこうしたレベルにまで入ってしまっています。

軍事支援にはさまざまな問題が内包されている、と指摘したく思います。

国連ウィキメディア・コモンズに対するイスラエルの攻撃 ガザ地区 OCHA

宮武ツッコミ3

アメリカの産軍複合体はウクライナという新たな「市場」を見つけた。第二次大戦後、世界中で戦争をしまくり、イスラエルによる武力行使を放置するアメリカに、ロシアによるウクライナ侵略を非難する資格はない。

に私も書いたように、ウクライナ戦争で欧米の産軍複合体が大儲けしていて、むしろウクライナ戦争が終わらない方が都合がいいくらいの状況になっているのは大問題です。しかし、いまウクライナへの兵器援助をいきなりやめて、ロシアがウクライナ全土を蹂躙する状態になったら、戦争以上にウクライナ市民の犠牲が出るかもしれません。そこが悩ましいところなのです。

 

 

3、シリア・パレスチナの視点から考える

 新年早々武力攻撃がありました。といってもここで述べるのはロシア軍によるウクライナ攻撃のことではなく、イスラエル軍によるシリア攻撃のことです。

青山弘之先生(東京外国語大学教授)の論考です。

『イスラエルの「爆撃初め」を黙認する欧米諸国:シリアのダマスカス国際空港を攻撃し、一時利用不能に』

  日本ではほとんど報道されませんが、イスラエルはシリア領内に昨年だけで41回の武力攻撃を行っています。もちろん違法です。アメリカも行っています。ただそれらに対してはウクライナに軍事支援を行う米欧日は基本的に「黙認」です。

 下記の論考の表にあるようにシリアは現在、アメリカ・イスラエル・トルコにより領土の一部を占領されています。

 https://news.yahoo.co.jp/byline/aoyamahiroyuki/20221007-00318507(22、10/7)

 私はシリアのアサド政権は全く支持しませんが、これらは完全に違法で主権侵害です。しかし抗議の声どころか、こうしたことが伝えられることもほとんどありません。

(ただしトルコとシリアとの間ではロシア!!の仲介で和平への動きがあるようです。

https://news.yahoo.co.jp/byline/aoyamahiroyuki/20221229-00330556(22、12/29))

 シリアという視点からみると、ロシア・ウクライナ戦争の主要アクターがかなり異なった役割を果たしている情景がみえます。

パレスチナ・ガザ:一刻も早い停戦を求め日本のNGO等6団体が外務省に声明提出 日本政府として停戦に向けた外交的努力を

宮武ツッコミ4

軍事援助をする相手の選択には確かに理由があります。シリアのアサド政権はかつてのイラクのフセイン政権と同じく独裁政権で、これまた同じく自らに反抗する自国民に対して化学兵器を使って殺戮するような酷い国家です。ウクライナとは比べ物にならないほど人権蹂躙をしているシリアに援助しないならウクライナにもするなというのは説得力がありません。

 

 

 こうした点はパレスチナの視点からみるとより鮮明になります。

 昨年末国連でイスラエルによるパレスチナ占領地問題に関する決議が上がりました。提案したのはアラブ諸国です。下記の記事の表には加盟国の投票行動が示されています。

国連総会 パレスチナ占領で国際司法裁判所に意見要請決議採択(NHK2022/12/31)

  ウクライナの軍事支援に最も熱心な米英は反対(いうまでもなく両国は常任理事国です)、その他西側諸国はほとんどが反対か棄権です。日本も残念ながら棄権です。逆にロシアは賛成です。

 不当な侵略と占領を受け最もパレスチナと連帯しうると思われるウクライナは無印、つまり無投票でした。ウクライナとしては最大の軍事支援国のアメリカの意向に完全に反する行動はとれない、ということです。軍事支援には、軍事支援国がたとえどのような不当な行動を行ったとしても、その国の意向に反する行動は絶対とれない、黙認せざるをえなくなる、という問題があることを示しています。

 この決議の前になされたパレスチナのアッバス議長へのインタビューです。

『ウクライナ侵攻とパレスチナ占領 「二重基準やめて」アッバス氏訴え』(朝日新聞2022・12・25)

 こうした必死の訴えにもかかわらず、残念ながら「二重基準」はまかりとおりました。

 シリア・パレスチナという視点からみると、ウクライナに軍事支援する国々の侵略行為・侵略肯定行為という側面が鮮明になります。

 なお「二重基準」の問題は実は人道支援にもみられます。

『ウクライナ支援称賛、他の紛争でも同様の対応を HRW』

残念ながら紛争に苦しむ人々に対する人道支援もこの記事にあるように、ウクライナとそれ以外の国々対するものでは大きく異なっています。

イスラエルに攻撃されるパレスチナ自治区の様子。
 
宮武ツッコミ5
イスラエルに侵攻されているパレスチナについては、そもそもイスラエルという国自体が欧米の都合でいきなり人工的に作られ、パレスチナの民が追い出された=侵略されたも同然という歴史的経緯があります。二重基準を解消するには、ウクライナと同様の援助をパレスチナにも、という解決策もあります。
 

 

 再び野口先生のツイートです。

 私たちは「国際社会」ということで、ここで野口先生の示している世界のごく一部の地域のことを指して考えているのではないでしょうか?

  「ロシア政権によるウクライナ侵略は許されない、国際秩序に反する」ということはよく言われそれ自体は全く正しいです。しかしその「国際秩序」が下記のようなものであったらどうでしょうか。

 「ロシア政権によるウクライナ侵略は許されない、しかしイスラエルやアメリカによるシリア攻撃・占領、イスラエルにパレスチナ占領は黙認する」

 「国際秩序」ということでそうした内容が含意されていたら、たとえ最初の「ロシア政権によるウクライナ侵略は許されない」ということが全く正しいとしても、上記内容の「国際秩序」をそのまま認めることはできません。そしてそのように感じている人々や国々は上記野口先生の示した地図からはずれている世界には少なからず存在し、米欧日の軍事支援を冷ややかにみている、という現実もある、ということも考慮に入れるべき、と思います。

宮武ツッコミ6

ロシアへの制裁決議について反対する国の多くがロシアからのエネルギーや食糧に頼っている中東やアフリカ諸国であるという現実もあります。アメリカの都合のいいように国連決議が作られる問題だけが国連の問題ではなく、中国やロシアの顔色を見る国々もあるという側面もあります。ロシア非難の国連決議への賛成国の数ではその決議の正当性は必ずしも推し量れません。それに、パレスチナ、シリア、ウクライナという全く違う状況の紛争を一直線に並べて、すべて同じ扱いをしないとダブルスタンダードだというのは乱暴すぎて説得力がないと思います。

 

 

4、イラク戦争から考える

 今年はイラク戦争開戦から20年です。イラク戦争のとき少なくない人たちがアメリカの侵略を批判しました(ただしロシア・ウクライナ戦争と異なり、アメリカの侵略容認論もすくなくなかった。日本政府とともにアメリカの侵略を正当化する人々も少なくなかった。アメリカの侵略容認、ロシアの侵略批判、の人々はそのふたつをどう整合させているのだろうか?)

 イラク戦争のときのアメリカ侵略批判の最大公約数は以下のようなものでした。

 「アメリカの侵略を非難する、ただしそれはフセイン政権を支持することは意味しない」

このことには下記の3つのことが含意されていると思います。

  • いかにその国の政権に問題があろうとも、それはその国を侵略することの免責理由にはならない。
  • 侵略がいかに不当なものであっても、その国の政権の問題性が免責されるわけではない。
  • 侵略批判と侵略された国の政権支持は直結しない。

筆者はロシア政権によるウクライナ侵略その他蛮行行為は強く非難する立場です。同時

に「マイダン政変」(「オレンジ政変」も、)やゼレンスキー政権には従来から疑問をもっておりどうしても支持できません。理由は下記の次第です(ただしそれはロシア政権による侵略行為を免責する理由とはならないことは明白)

・マイダン政変で追放されたヤヌコヴッチ元大統領が大変問題のあったことも事実だが、同時に正規の手続きで選出された大統領でもあった。

・ヤヌコヴッチ氏追放にあたってはアメリカの圧力もあったことも明白にされている。

・マイダン政変にアメリカの関与がなされていたことも今では明らかになっている。

・マイダン政変の主要アクターの中に過激な民族主義者がいたことも否定できない(公平のために付け加えれば、アメリカの関与だけでマイダン政変がなされたわけではなく、同時にアメリカは過激な民族主義者への支援は行っていなかった、とされている)

・マイダン政変後のロシア語禁止策(少なくないロシア語を母語とする人々にとっては日常生活も困難となるほど)、中立化政策からNATO加盟との政策の転換。

・マイダン政変後の共産党非合法化・かなり包括的な共産主義プロパガンダ禁止法の制定。禁止された時点で共産党は非社会主義国で有数の国会議席占有率(つまりそれだけ支持が多かった)であった(なお共産党は合法性について争ったが、戦時中の昨年7月、ウクライナでの恒久的な禁止が決定され財産はすべて国家に没収された)。

・マイダン政変ののち大統領となったポロシェンコ氏はゼレンスキー政権では国家反逆罪で起訴されている。マイダン政変を民主革命ととらえた場合これをどうみるか(筆者は率直にいってマイダン政変は権力争いにすぎないのでは、と考える)

・ゼレンスキー政権のもとでの在イスラエル大使館のエルサレム移転表明

・ゼレンスキー氏によるミンスク合意2の不履行宣言。

・昨年3月の野党第一党を含めほぼすべての野党の親ロ政党としての禁止措置、

親ロ政党がこれほど多いとは考えられずゼレンスキー政権による政敵つぶしとみる。なお親ロ政党とレッテルを張られた以上戦後それらの政党が合法性を確保することは困難ではないか、と懸念する。

・ゼレンスキー氏のタックスヘイブン疑惑、これは世界の独裁者・大富豪とともに国際的に報じられている。

毎日新聞大阪社会事業団「モルドバ報告 離散」より

宮武ツッコミ7

イラクのフセイン政権はクウェートを侵略したり、イランと戦争して化学兵器を使ったり、自国民に対しても化学兵器を使って独裁政権を維持しようとしました。どれだけゼレンスキー政権の批判をしてもフセイン政権と比べたらその悪事は子供と大人くらいの差があります。フセイン政権やアサド政権を支持しないのにゼレンスキー政権を支持しるのはおかしいというのは、双方の行為の違法性を正確に評価しないとできないことですが、プーチン・アサド・フセイン対ゼレンスキーの行為の違法性には100対1~3くらいの絶対的な差があると思うので、ダブルスタンダード説には説得力を感じません。

 

 

 繰り返しますがゼレンスキー政権(およびマイダン政変)にどれほど問題があろうと、ロシア政権による侵略を免責する理由にはなりません。同時に政権と市民は違います。

 ただロシア・ウクライナ戦争が「全体主義と民主主義の戦い」と位置付けられ、ロシアの侵略批判がゼレンスキー政権支持と結び付けられる傾向があることには強い違和感があります。

自由民主主義指標によれば現在のウクライナは権威主義的に位置づけられています。

 少なくとも「全体主義と民主主義の戦い」ととらえるべきではないでしょう。

 同時にロシア・ウクライナ戦争についても「ロシアの侵略を非難する、しかしそれはゼレンスキー政権を支持することは意味しない」ないしは、「ロシアの侵略を非難する」だけにとどめるべきではないか、と思います。

宮武ツッコミ8

マイダン政変なるものの問題性への評価はまだ確たるものではないでしょうし、白井先生も認められている通り、その国の政権の正統性に問題があるからと言って侵略していいという事にはなりません。それでは北朝鮮に対しては戦争を仕掛けていいという事になってしまいます。だから、私もアメリカによるイラク戦争には絶対的に反対してきましたが、もちろん、アメリカの侵略は非難する、そのことはフセイン政権を支持することは意味しないのは当然です。そして、ウクライナへの欧米からの軍事援助を認める立場は、ロシアによる侵略を否定することから出てきていますが、ウクライナ政権を手放しで賞賛したり、ロシアに対するウクライナの戦争を全体主義に対する民主主義の戦いと評価することとは違います。ウクライナの戦争は侵略に対する防衛戦争だというだけです。

 

 

5、戦争で利益を得る層と犠牲になる層

 少し前の記事ですが、この後半部分には不自然さを感じました。

キーウにまたドローン攻撃 東・南部で露軍拠点破壊(産経新聞2022・12・14)

 前半部分のロシア軍によるキーウ攻撃は言語道断です。強く抗議します。そのうえで後半部分ですが、ウクライナ軍の戦果・ロシアの死傷者数が記載されていますが、その過程でのウクライナ軍側の死傷者数の記載はありません。まさか0ではないでしょう。またロシア軍の死傷者数は把握できてウクライナ軍側の死傷者数は把握できない、ということはないでしょう。

そう考えて記事をみていくと、ウクライナ軍の領土奪還などの戦果、ロシア軍の死傷者数は記載されていてもその過程でのウクライナ軍の死傷者数は記載がありません。ウクライナ軍側の死傷者数も記載されていたら、あるいは記事の最後に「なおウクライナ軍側の死傷者数については発表されていない」との記載があったらどうでしょうか?領土奪還などの戦果はどのように見えるでしょうか。

 領土は一度奪われてもその後の政治力学、交渉などで奪還できる可能性があります。ただ領土を武力奪還してもその過程で一度失われた命は絶対に戻りません。領土が武力奪還されても決して戻りません。この現実をリアルにみるべきではないでしょうか。

 戦場で死傷しているのはその国の経済的社会的にみてどのような層なのか、という点も気になります。

『ロシア戦死者、少数民族地域が突出…「激戦地への投入」差別的と反発の動き』(読売新聞2022・8・13)

『ウクライナで徴兵逃れ横行 「富裕層にあっせん」』(共同通信2022・12・9)

 戦場での死傷という犠牲についても「平等」ではなく、その国の経済的社会的な格差を反映し、その弱い層に集中しているのではないか、と推測できます。死傷者数はそれぞれどれほどか、とともに、どのような層に死傷者が集中するのか、という面も考えるべきではないでしょうか?

 半面に戦争によって得をしている層もいます。

ウクライナ戦争特需で笑いが止まらない米軍事企業 増産に次ぐ増産、雇用増に加え、待望の法案まで通過』(JBプレス2022・12・31))

  なんとも不愉快な現実です。しかし残念ながら事実です。この最後にあるように軍事企業は「停戦などするな、とことんいつまでも続けてくれ」が本音でしょう。また米国軍事株を進める記事もあります(あまりに不愉快なので引用はしません)。

 戦争でみなが不幸になる、ではなく、得をする層もいる、犠牲も「平等」ではなく、経済的社会的な位置によって異なる、という現実をどう考えるのでしょうか。筆者はそこにこそ戦争の本質がある、と考えています。

宮武ツッコミ9

前の方にも書きましたが、アメリカなどの軍産複合体がアメリカ人自体は死なないウクライナ戦争で大儲けするという構造に味を占めているのは間違いないと思います。だからウクライナへの軍事援助を認めるのも苦渋の選択ですが、だからと言って今ウクライナへの兵器供給を止めても、ロシアはウクライナの人々を殺さないと白井先生は確信できるのでしょうか。チェチェンのような恐ろしい状態になると考えるのが自然だと思います。

 

 

6、おわりに

 以上、ロシア・ウクライナ戦争について考える点について述べてきました。こうした考えと視角から、特に軍事支援がかかえる様々な問題点、および人命尊重の観点から「即時停戦、和平交渉による解決」を改めて主張したく思います。和平案としては、1、ウクライナのNATO非加盟・中立化とともに多国間枠組みでの安全保障体制、2、東部には高度な自治を認める、3、クリミア以外からのロシア軍の撤兵とそれらの地域のウクライナへの返還、4、クリミア帰属に関しては時間をかけて交渉する、5、戦後復興のための資金を米ロ・国際機関が供与する、というものではないかと思います。

 最後になりますがこうした情報もあります。

 https://news.yahoo.co.jp/articles/32a94e97c7f89b767e968102111944c151973064(1/18)

  双方情報戦をおこなっていますが、その中に広告代理店の働きでウクライナへの軍事支援を引き出している面もある、ただ記事の末尾にあるようにそれには警戒が必要、というものです。

 こうしたことを鑑みてやはり即時停戦・和平交渉による解決、を改めて強く訴えます。武力で領土は取り返せても、その過程で失われた命は決して戻らない、そして命ほど大切なものはない。戦争絶対反対、です。

 最後まで読んでくださりありがとうございました。

宮武ツッコミ10

即時停戦・平和的交渉が望ましい、これは地球上の誰もが認めるところです。しかし、トルコのエルドアン大統領も提案したように一方だけで停戦できるのは侵略しているロシアです。停戦に至っていない主な責任はロシアにあります。白井先生の和平案の2も3もロシアが明確に拒否している以上、停戦は不可能です。停戦は不可能だとしたら、ウクライナへの欧米からの軍事援助だけを止めていいのか、そのとき、ウクライナ人民の命を守れる保証はあるのかが即時停戦・軍事援助停止論に対して問われています。

 

 

白井邦彦のnoteより

ロシア・ウクライナ戦争について1

ロシア・ウクライナ戦争について2ーイラク戦争から考える-

ロシア・ウクライナ戦争について考える3-シリア・パレスチナの視点から-

ロシア・ウクライナ戦争について考える4ーウクライナ軍の死傷者はなぜ報道されないか?-

ロシア・ウクライナ戦争について考える5-戦争で得をする人々と犠牲になる人々-

ロシア・ウクライナ戦争について考える6-ウクライナへの武器供与は「国際的」な義務なのか?-

ロシア・ウクライナ戦争について考える7-ドイツの戦車供与問題と緑の党-

9条自衛隊明記憲法改定案に対する札幌弁護士会会長声明

 

 

白井先生、大変な力作、ありがとうございました!

ご紹介してツッコミするだけで何時間もかかり、先生のこの問題にかける膨大なエネルギーと時間が想像できました。

関西人ならではのわたくしのツッコミに懲りず(笑)、またぜひよろしくお願いいたしますm(__)m。

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1 コメント

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Unknown (秋風亭遊穂)
2023-01-22 22:11:06
 白井先生は、この戦争の特異性に対する認識が希薄ではないか。

https://twitter.com/nexta_tv/status/1616726136485994496

 Alexey Milchakov で検索すると様々な情報がある。ロシアのネオナチは他にも複数いる。

ロシアは対ウクライナ戦争に「ネオナチ」を参戦させている=独誌
https://www.ukrinform.jp/rubric-ato/3489693-roshiaha-duiukuraina-zhan-zhengnineonachiwo-can-zhansaseteirudu-zhi.html

 ジェノサイドの1つと見て良い。万一、停戦が成立したとしても、ロシア占領下のウクライナ国民の安全は保障できない。PKOが入るわけでもない。停戦中は犯罪を止める手段が全くない(民間人を標的にしたロシア当局には全く期待できない)のだ。
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