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弁護士・元ロースクール教授宮武嶺の社会派リベラルブログです。

関税だけではないTPPのリスクは全く審議されていない。ISDS条項。国民皆保険・薬価への影響。野党は徹底抗戦すべきだ。

2016年11月09日 | TPP参加反対

 

 マスコミは、コメの問題など、TPP交渉の報道でも関税に焦点を合わせがちですが、TPPは圏内の自由貿易を推進するものですから、加盟国同士で輸入する製品にかける税金(関税)を原則として撤廃するだけでなく、貿易を活発化させるために、さまざまな

「貿易障壁」

を撤廃していきます。

 たとえば、日本が輸入する食品に独自に行っている安全審査が、相手国にとって輸出の妨げになるとして撤廃される可能性があります。

 日本独自に使用を制限・禁止している様々な化学薬品も、相手国が自由に使えないと輸出しにくくなるので、制限できなくなるかもしれません。

 食品に表示させている合成保存料や着色料などの安全表示さえ、日本の消費者が加盟国の輸出品を買ってくれにくくなるなどとして、なくされるのです。

 そもそも、国産品を買いたいと思っても産地の表示は輸出国にとっては邪魔ですから、許されなくなるのです。

 これらは、食品だけでなく、医薬品や化粧品や子どものおもちゃなどなど、ありとあらゆる品目で起こりうることです。

 

 また、貿易障壁とされうるのは、こういった物品の安全面の基準だけではありません。

 たとえば、今、日本では国民皆保険と言って、世界がどこも達成していない国民全員が公的健康保険に加入し、医療を安全に安く受けられる制度が完備していますが、TPPでは、外国の保険会社が医療保険という商品を日本に輸出するときに、この国民皆保険が貿易障壁だとされる可能性があります。

 そうすると、日本の健康保険制度が抜本的に見直され、健康保険を使えない自由診療や、自由診療と保険診療を組み合わせた混合診療が主流になってしまい、今までのように安心して診察を受けられなくなるかもしれないのです。

TPP参加でアメリカの医療保険会社が我が国の医療に乱入し、国民皆保険制度と日本人の健康が崩壊する

 

 

 聞きなれない言葉かもしれませんが、これは、ISDS=「Investor(投資家) State(国家)  Dispute(紛争) Settlement(解決)」、「国家と投資家の間の紛争解決条項」と呼ばれるものです。

 この条項は、ある国家が自国の公共の利益のために制定した政策によって、海外の投資家が不利益を被った場合には、世界銀行傘下の「国際投資紛争解決センター」という第三者機関に訴えることができる制度です。

TPP閣僚会議開始 日本の主権を侵害するISDS条項を積極的に仲介しろ、と社説で主張する日本経済新聞

 

 すでに多くの自由貿易協定(FTA)に盛り込まれているのですが、たとえば脱原発をしようとしたドイツがスウェーデンの原発輸出会社に訴えられて多額の損害賠償を支払うなど、国の政策まで制限されてしまうので、世界中で「主権を侵害しかねない」と大問題になっていて、毒素条項などと言われています。

TPP協定案文書の開示閲覧方針は撤回 TPPの守秘義務は憲法の国勢調査権・知る権利の侵害で違憲だ

TPPの「毒まんじゅう」ISDS毒素条項で日本の脱原発を潰す方法

 

 

 もう一つの有名な毒素条項、ラチェット規定のラチェットとは、一方にしか動かない爪歯車を指します。そこから転じてラチェット規定とはすなわち、いったん進展した自由化よりも後退を許さないという規定です。締約国が、後で何らかの事情により、市場開放をし過ぎたと思っても、規制を強化することが許されない規定なのです。

 日本が参加する前にすでに決められていた自由化を丸呑みしなくてはならず、しかも元には戻せないのですから、こんな危険な賭けはありません。

 また、NVC条項(Non-Violation Complaint条項)=非違反提訴という条項もあります。これは、米国企業が日本で期待した利益を得られなかった場合に、日本がTPPに違反していなくても、アメリカ政府が米国企業の代わって国際機関に対して日本を提訴できるというトンデモない条項です。

 日本に違反が無くても、米国企業が日本で期待した利益を得られなかった場合にも提訴できるというのですから、例えば、アメリカの保険会社が公的な健康保険分野などで参入などがうまくいかないと、日本が提訴されて、国民健康保険などの公的保険制度が不適切として改変を求められるということもありうるのです。

TPPの毒素条項=ISD条項 ラチェット規定 NVC条項 スナップバック条項。なのに安倍首相が3月13日に参加表明

 

 今回のTPP交渉では、聖域だから死守するとしてきたコメの関税でさえ、アメリカに関税ゼロの特別枠を与えることになってしまいました。

 これでは、安倍政権がTPPを妥結するために、他の様々な制度についてどんな譲歩をしてしまったか知れたものではありません。

 商品の中身もわからないまま、物を買う人がどこにいるでしょうか。

 このままTPPを受け入れるのは危険すぎます。

日米がTPP交渉で合意する コメさえ守れない安倍政権は日本の食糧安保と健康と安全と労働者の生活を破壊する

20151006161837po@o.jpg

 

 

TPPの審議と言ってもこれらの懸念に対する回答は何一つ得られていません。

オバマ大統領の任期に合わせて日本の審議をするだなんていう本末転倒なことではなく、

真にTPPが日本の利益になるのかどうかをとことん究明すべきです。

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「岩盤規制」の大義: 医・食・農=国民生活を土台から壊す“規制緩和”とTPP (農文協ブックレット)
 
農山漁村文化協会

TPP批判本、最新刊。政府・財界の「岩盤規制」攻撃は、格差を広げ国民生活の安全を脅かす凶器のドリル!農協「改革」は、食と農と国民の距離を広げるTPP推進の一環。TPPで国産が食べられなくなってからでは手遅れの消費者の健康リスク。食べてはいけない!米国産牛肉、乳製品、遺伝子組換え食品などの恐ろしい実態。TPP推進と地方創生は両立しない!


TPPで暮らしはどうなる? (岩波ブックレット)
鈴木宣弘、色平哲郎ほか
岩波書店

日本の参加が現実的になってきたTPP(環太平洋経済連携協定)。多国籍企業の利潤確保を最優先するアメリカン・スタンダードが生活のすみずみにまで持ち込まれたとき、私たちの暮らしはどうなるのか。農業、医療、食の安全など、TPP参加による生活への影響を、第一線の研究者とジャーナリストが検証する。

 

TPP 黒い条約 (集英社新書)
中野剛志 著
集英社

衰退するアメリカ。そのアメリカ依存から抜けられない日本。この構図のなかで、いま、アメリカが日本を徹底的に搾取しようとしている。それがTPPの正体だ。TPPが日本の成長を助ける自由貿易協定だというのは真っ赤な嘘。99%のわれわれ国民に対して、1%のグローバル企業・超富裕層が仕掛けた罠なのだ。その内実を国民に知らせぬまま条約批准に向かって突き進む政府。黒い条約・TPP締結後の日本はどうなるのか?『TPP亡国論』の中野剛志とこの問題を早くから掘り下げてきた気鋭の論客たちが、TPP参加に最後の警鐘を鳴らす!

 

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山田正彦(自民党元農相)
竹書房

TPP(環太平洋経済連携協定)とは何なのか。加盟国間の関税を撤廃し、自由貿易を促進するという通り一遍の説明の裏側で、グローバリズムは世界各地で深刻な状況を引き起こしている。
日本のみならず、米国の国会議員ですら内容を知ることができないまま、参加国は妥結に向かって不気味に邁進させられてきた。
今後、日本はどうなっていくのか。民主党政権時のTPP参加表明の舞台裏から最新の交渉状況まで、元農林水産大臣である著者が、世界各国の関係者と連携して暴く秘密交渉の正体。リークした知的財産権の章(抄訳)も収録!

 

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9 コメント

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Unknown ()
2016-11-09 16:50:25
トランプ勝利みたいですね
TPPの事だけ考えたら+で良かったですね
勿論差別主義者は断固正さなければならないですがね
なにせ安倍さんはアメリカ様の為にTPP推進した訳でそのアメリカ様がTPP反対ならTPP推進しないでしょうからね
返信する
Unknown (Unknown)
2016-11-09 17:07:51
トランプ候補勝利ほぼ確実、ということで「これでTPPはぽしゃった」と喜んでいる方々がいらっしゃいますが、
トランプもクリントンも「現状ではアメリカに利益がないから反対」なのであって、逆に言えば利益があれば
推進することは十分に考えられるわけですよね。

で、その利益(アメリカの一般市民に対してはどうかはともかく)を提供するのは……と考えると、誰が勝っても
そりゃああのお人はひたすら推進方向に動くよね、と頭を抱えざるをえません。
返信する
何此れ! (リベラ・メ(本物の))
2016-11-09 17:14:46
此れって、“完全にAmerica企業の為だけの”TPPじゃない!!“壊国処か“滅亡する”(ノストラダムスの予言みたいに)!!!ヽ(;゚;Д;゚;; )ギャァァァ
返信する
取り敢えず一安心 (一国民)
2016-11-09 17:41:30
トランプが大統領選挙に勝利したので、少なくとも数年以内のTPP施行が無くなり、一安心です。だからと言って、
日本はTPPを批准しても大丈夫、と油断してはいけない。多くの日本国民は、TPPは単に関税撤廃する程度の
国際協定としか認識していないからです。つまり、TPPが日本にとって如何に不合理なもので、庶民生活を破壊
し兼ねない危険なものかを、国会審議を通じてもっと知らしめるべき。

TPPはグローバル企業という、実体のよく分からないものが儲けて、現実の人間の生活が破壊されるものだ。
こんなもの、理不尽の一言に尽きる。
返信する
産経みたいな世論調査をすれば面白い (一国民)
2016-11-10 22:56:40
ニュース番組でも、ワイドショーでも、新聞でも関税以外の事を大して解説しないTPPについて、誤報や捏造が御得意
の産経のような手法で世論調査を行ってみれば面白いと思う。つまり

「TPPは原則関税を撤廃する事で輸入品をこれまでよりも安く購入できるようになる一方、ISDS条項等により
国民皆保険制度が崩壊する危険があり、医療費がこれまでより格段に高騰する恐れがあります。TPPに賛成で
すか反対ですか」

といった文章で問いかけるのだ。このような問いかけでTPPに賛成する中低所得者層など圧倒的に少ないだろう。

下手をすれば、こんな感じの質問文でTPPが国民皆保険制度を崩壊させる危険性のあるとんでもないシロモノ
で有る事を初めて知る人が大多数かも知れない。
国民皆保険制度は、憲法9条とはまた違う位置付けで、良い意味で日本が世界に誇れるものだと思う。自分の「命」
と引き換えに物を安く買う事を望む人間など皆無に等しいはずだ。

TPPに関して、日本の従来メディア(テレビ、新聞)は、このような一般国民にとって明らかに負担になる事を意図的に
報道する事を控えており、極めて悪質をと言わざるを得ない。
返信する
Unknown (愛国者)
2016-11-10 23:44:39
日本はいまだにTPPがわかってない人が多すぎますからね
これだけ自民党が強行して野党が反対しても
無関心なのですから異常です
返信する
Unknown (C.K)
2016-11-12 11:18:18
管理人さんが日本の健康保険制度について懸念を述べていますが、私もその辺りが気になる1人です。

しかし、ここに簡単ではありますが基本的なTPPにおける解説があります。
http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/sp/700/229557.html
そこには、TPP交渉の合意発表後の政府の説明ではありますが、日本の医療制度へのあり方についても、変更を求めるような規定はないとしています。

実際のところどうなのでしょう?
返信する
CK様へ ()
2016-11-12 23:15:20
医療制度を変更する規定なんて必要有りません
国民皆保険制度を外資系保険企業が貿易障壁だと見なせば国民皆保険制度を消滅させることができるのです
そもそもTPPは貿易障壁を無くす条約ですから細かい規定など無く国民皆保険制度を消滅させられるのですよ
だから危険で絶対反対せねばならないんですよ
返信する
安倍が言う自由貿易という言葉に騙されるな (一国民)
2016-11-22 17:51:30
トランプが改めてTPPの離脱を予告した事で、TPPの実質的な漂流は確定した。にも関わらず、安倍は自由な貿易に
よって経済成長が見込め、あたかも薔薇色の未来が有るかの如く一般国民を騙し続ける。

安倍は、トランプの意向を保護主義的などと暗に批判しているが、トランプの意向は一国の行政トップとして、ある意味、
至極真っ当な事を言っている。

貿易に行うに当たり、確かに規制が少ない方が貿易量は増えるだろう。関わる企業や業者、行政だって楽だろう。
しかし、関税は単に税収を得る為だけに存在している訳では無いし、様々な規制も利害関係だけを勘案したもの
でも無い。一般国民が望む自由貿易とは、皆に恩恵が行きわたり、皆に不利益が生じない事が前提である。
だから、文字通り何もかも規制を取り払った自由な貿易を望んでいる訳では無い。つまり、一定の、最低限の保
護が有ってこその自由貿易を容認しているに過ぎない。

しかし、安倍の言う自由貿易は、最低限の保護をも捨て去り、一般国民や中小企業の利益を大手企業に上積み
させるだけのものだ。決して一般国民の利益になるようなものでは無い。

安倍という裕福な家庭に育った世間知らずな馬鹿が経済に首を突っ込む日本に未来は無い。
安倍は、一般国民が望む自由貿易という言葉の意味を完全に履き違えている。
返信する

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