TPP秘密交渉の正体 (竹書房新書) 山田正彦 竹書房
秘密交渉であるTPPは法律的な観点から見ても問題点が多く、各国で反対運動が起きている。基本的人権、生存権、知る権利など、国民の権利を侵害する恐れが大きく、多国籍企業の利益を損なう法律や規制をした国や自治体に対して訴訟をするISD条項によって国の主権が失われるかもしれない。
民主党政権の元農相でTPPに反対し続けている山田正彦氏の渾身の書。
TPP参加表明を花道に玉砕解散する野田佳彦首相はアメリカ・財界・官僚盲従の戦後最悪の総理の一人だった
内閣府の西村康稔副大臣は、2015年5月4日、訪問先のワシントンで開いた記者会見で、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)を巡り
「来週以降、テキストへのアクセスを国会議員に認める方向で少し調整をしたい」
と述べ、交渉内容を記した文書を国会議員が閲覧することを認める方向で、調整する意向を示していました。
ところが、西村副大臣は3日後の7日になって、メキシコからの帰路に経由地のロサンゼルスで改めて記者会見を開き
「真意がしっかり伝わっていなかった。今の時点で何も決まっているわけではないし方向性も決まっていない」
と述べ、ワシントンの記者会見での発言を撤回する考えを示しました。
さらに、アメリカの通商代表部が交渉内容を記した文書の閲覧を議員に認めていることについては
「米国には守秘義務があり(情報を)漏らせば訴追される。日米では制度上の違いがあり、同一の対応は難しい」
「引き続き情報提供の在り方については、どのような工夫ができるのかさらに検討をしていきたい」
と述べました。
言ってることが180度変わってしまったのです。
これを受けてTPP交渉を担当する甘利明TPP担当相も5月8日の会見で、4日の西村内閣府副大臣の発言を早否定し
「野党に懇切丁寧に答えたいという思いから言葉が走り、誤解を与える表現になった」
と説明しています。
米通商代表部(USTR)は議員に協定案の閲覧を認めているので、西村副大臣は
「国会でも色々な形で求められている。できるだけ早くしたい」
と述べていたわけですが、甘利大臣は
「日米で同じことをしようとしても、憲法上の仕組みが全く違い、不可能だ」
とにべもありません。
西村副大臣に圧力がかかったのは明らかです。
2013年3月15日 TPP交渉参加表明 安倍晋三首相は民主党にも劣るアメリカのポチだった
繁栄か衰退か 岐路に立つ日本 プレジデント社
あとで見るように、今回はかなり虎の尾を踏んだので、もう任せてもらえないかもしれない。
甘利氏が憲法上の仕組みと言ったのは、たぶん、日本国憲法の免責特権のことだと思われます。日本では国会議員の活動を最大限保障するために、議院で行った演説・討論・表決について、院外で責任を問われないという特権が保障されているのです(憲法51条)。
日本国憲法第51条 両議院の議員は、議院で行つた演説、討論又は表決について、院外で責任を問はれない。
つまり、TPPの中身を閲覧した国会議員が、甘利大臣への質問の時に
「大臣!TPP協定書にはこう書いてありますよね!」
と質問しても、その発言をたとえば特定秘密保護法で罰することは不可能なのです。
この国政調査権は、立法権を有し内閣総理大臣を選任でき、内閣不信任案を可決でき(衆議院)、国政一般を監督する「国権の最高機関」である両議院に与えられた非常に重要な権能です。
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民主党時代には疑っていたんですが、山田さんは本気で反対しているんですね。
しかし、この大詰めに来て、TPPへの関心が薄すぎます。
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TPP文書閲覧撤回 野党側 国会で追及へ
これに関連して、甘利経済再生担当大臣は8日、ほかの交渉参加国の対応も参考にしながら交渉内容の情報開示の方法を検討する考えを示しました。
これに対し野党側では、民主党の岡田代表が「極めて遺憾で、西村氏がこの間の経緯についてきちんと説明することがまず必要だ」と指摘したほか、維新の党の柿沢政務調査会長も「政府・与党内での意思統一はどうなっているのか」と述べるなど、西村氏や政府の対応を批判する声が相次いでいます。
民主党内では、西村氏から明確な説明がされない場合は、来週、衆議院で審議入りが予定されている農協改革関連法案について委員会での審議には応じられないという声も出ていて、11日に開かれる衆議院農林水産委員会の理事懇談会で、西村氏が委員会で詳しい説明をするよう求めるなど追及する構えです。
また、民主党と維新の党は、TPP交渉の進捗(しんちょく)状況を国会に報告することを政府に義務づける法案を共同で衆議院に提出したことを踏まえ、国会への情報開示を強く求めていく方針です。
西村氏、TPP協定案閲覧方針を撤回 野党は反発、与党は困惑
環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉を担当する西村康稔内閣府副大臣は7日、米ロサンゼルスで記者会見し、国会議員に認めるとしていた極秘扱いの協定案の閲覧方針について「真意が伝わっていなかった」と述べ、撤回する考えを示した。突然の撤回には民主党など野党が激しく反発しており、後半国会の法案審議への影響も懸念される。
西村氏は4日のワシントンでの記者会見で、米通商代表部(USTR)が議員に協定案の閲覧を認めていることに関連し、日本でも「できるだけ多くの議員が閲覧できるようにしたい」などと発言。しかし、7日の記者会見では「米国には守秘義務があり(情報を)漏らせば訴追される。日米では制度上の違いがあり、同一の対応は難しい」と釈明した。今後の情報開示には「どのような対応ができるか引き続き検討したい」と述べるにとどめた。
西村氏の方針撤回をめぐり、8日の民主党農林水産部門会議では批判が相次いだ。福田昭夫元総務政務官は「西村氏には副大臣を辞めてもらわねばならない。安倍晋三首相の任命責任も追及できる」と強調。衆院農林水産委員会の玉木雄一郎筆頭理事は記者団に「納得できる説明がないと、農協法や閣法の議論はできない」と反発した。
TPP交渉に関し、情報開示を義務付ける法案を民主党と共同提出した維新の党の柿沢未途政調会長は、記者会見で「政府与党内の意思統一はどうなっているのか。経緯の検証が必要だ」と指摘した。
一方、政府は問題の沈静化に躍起だ。甘利明TPP担当相は記者会見で「各国とも秘密保持と情報開示要求のはざまに悩んでいる。丁寧に説明したいとの思いから誤解を与えた表現になったのでは」と西村氏を擁護。平成26年12月施行の特定秘密保護法で秘密を漏らした議員に罰則を科されるが、事前に特定秘密に指定されていなければ議員が本会議などで漏らしても免責となる。これを念頭に菅義偉官房長官も「日米では議員の守秘義務など制度が大きく違う。米国と同一の対応は困難だ」と説明した。
ただ、与党内からは今後の国会審議を見越して困惑の声も漏れる。ある自民党幹部は「安保法案も含めて重要法案が控える中、本来はハリネズミのように武装して臨まなくてはいけないのに残念だ」とつぶやいた。(ロサンゼルス 中村将、沢田大典)
2015年5月8日 産経新聞
【ロサンゼルス=共同】環太平洋連携協定(TPP)交渉を担当する西村康稔(やすとし)内閣府副大臣は七日、米ロサンゼルスで記者会見し、極秘扱いの協定案を国会議員に開示するとの方針を撤回する意向を示した。
米通商代表部(USTR)は議員への協定案閲覧を認めている。西村氏は「日本と米国では議員の守秘義務に大きな違いがあり同一の対応は困難だ」と釈明。今後の情報開示については「どのような工夫ができるか引き続き検討していきたい」と語るにとどめた。
甘利(あまり)明TPP担当相も八日の閣議後の記者会見で「米国では情報漏えいに対し刑事罰があり、議員資格の剥奪ということもある。日本ではそういうことはできない」と指摘。国会議員への協定案開示は検討していないと述べた。
西村氏は、四日のワシントンでの記者会見で協定案の閲覧を与野党の議員にも認める方針を述べたとの報道に関し「真意が伝わってなかった」と説明。四日の会見でも日米の議員の守秘義務が違う点に触れたが、この日の会見では「(協定案の)テキストそのものの閲覧は基本的に難しく、できない」と述べた。
TPPの協定案には交渉分野ごとに、おおむね合意済みの事項や各国の主張などが書かれているとされる。だが、情報管理が厳しい参加十二カ国のルールに従い、日本では安倍晋三首相や甘利TPP担当相、鶴岡公二首席交渉官ら一部の閣僚と官僚しか見ることができず、国会議員から開示を求める声が上がっていた。
<環太平洋連携協定(TPP)交渉の情報管理> TPP交渉では、横やりが入らないよう関係者以外への情報漏れを防ぐ厳しいルールがある。交渉が妥結し、参加国の国内手続きを経て協定が発効した後も、4年間は交渉過程や内容を記した内部文書を公開できない。交渉がまとまらずに協定が発効しない場合でも、最後の交渉会合から4年間は非公表とされている。 (共同)
必読 マガジン9 山田正彦氏インタビュー
“反TPP”は、
私たちの暮らしを守る闘いなんだ
FRANCE10 日仏共同テレビ局
TPPは憲法違反だ!山田正彦・元農水相が「TPP差し止め」求め提訴へ
「TPPはまさに憲法違反の問題じゃないか」
元農林水産大臣で弁護士、長崎県の五島で牧場経営をしていたこともある山田正彦さんは現在TPPに反対する弁護士達と共にTPPの法的な問題点を検証し、TPPは憲法違反だという切り口から「TPP差し止め訴訟」を起こす準備を進めている。
この夏に準備を終えたらTPP差し止め訴訟の会を発足し、多くの国民に原告になってもらい原告団をつくる予定。弁護士達はボランティアなので、原告1人につき二千円ずつ出してもらい裁判費用を工面する予定。
日本の多くのメディアはTPPは農業の問題というふうに矮小化して報じているが、医療、教育、労働、インターネットの自由など、TPPは生活の様々な側面に影響を与える問題だ。
秘密交渉なので各国で反対運動が多発
秘密交渉であるTPPは法律的な観点から見ても問題点が多く、各国で反対運動が起きている。基本的人権、生存権、知る権利など、国民の権利を侵害する恐れが大きく、多国籍企業の利益を損なう法律や規制をした国や自治体に対して訴訟をするISD条項によって国の主権が失われるかもしれない。TPPは憲法違反であると考える山田さんは「我々の憲法を守る、国の主権を守る、基本的人権を守るっていう訴訟をやりたい」と言う。
保険や医療や教育や農業など、様々な分野が弱肉強食の競争経済にさらされているアメリカでは、既に裕福でない人々にとって、医療や教育を受けるための負担がとても大きくなってしまっている。中小企業が営業できなくなる中、政府が多国籍企業や富裕層に対してとった減税政策も大きな反感を買った。
TPPに経済的メリットは皆無だというこれだけの理由
TPPによる経済的なメリットとは何だろうか?山田さんは、TPPによる経済的なメリットは何もないではないかと主張する。
NAFTAはアメリカ合衆国とメキシコとカナダの、TPPよりも控え目な自由貿易だが、批准された後、人と物とお金の移動が自由になった結果、アメリカの巨大農業ビジネスを相手に弱肉強食の経済競争にさらされたメキシコの中小規模の農業は破壊され、多くのメキシコ人達が仕事を失った。仕事を失ったメキシコ人達は仕事を求めて「安い労働力」としてアメリカに渡り、「安い労働力」が流入した結果としてアメリカでは500万人のアメリカ人が失業し、「安い労働力」の影響でアメリカ人の給料も下がった。アメリカ国内にあった工場はメキシコに移りアメリカの工業の25%は空洞化した。そして「1%」と呼ばれる人々が莫大な利益を得た。
これだけあるTPPの違憲性
TPPの違憲性はどのあたりなのだろうか?
「知る権利」
TPPは今年の11月頃に基本合意される可能性が高いと山田さんは言う。内容は、秘密保持義務によって4年間隠されることになるが、国会議員が交渉の内容を知らされないまま、TPPを国会で議決することは、立法府の最高機関である国会に対しての侵害行為ではないのか?「知る権利」の侵害ではないのかと山田さんは言う。
現在日本では遺伝子組み換え食品の表示がされているが、TPPは遺伝子組み換え食品や、食べ物の製造の過程で成長ホルモンなどが使われている場合に、成分表示することを禁止する。企業は都合の悪いことを隠すことができるようになり、消費者は安全な食品を選ぶことができなくなる。現在ある「知る権利」を剥奪されることになる。
「生存権」
国民の健康を守るためにあった国民保険の分野を市場に解放し多国籍企業に参入させることで、アメリカのように裕福な人間しか健康保険に入れない状況がつくられる。既に病気や怪我をしている人の保険料は高額になり、例え病気になっても「適用外」とされて保険料が降りないことがアメリカでは頻発し多くの悲劇を生んだ。医療品の高騰でタミフルが1本7万円するような状況をつくるTPPは、「生存権」を脅かすのではないか。
「教育を受ける権利」
教育をビジネルとして捉え、公立学校が減り私立学校が増えれば、高い教育費を払わざるを得なくなる家庭が増える。アメリカではオバマ大統領が就任して4年間で、4000の公立学校が閉鎖され、30万人の教職員が解雇された。
「国の主権」
TPP参加国は、TPPのビジネスのルールに合わせて国内法を改正することになる。TPPのルールに違反した場合、ISD条項で、企業が「期待した利益」を得られなかったとして、企業が国や自治体を訴え、非公開の裁判で莫大な損害賠償を請求できる。これは国庫の略奪であり、国の主権そのものを奪う行為ではないのか?
このように、TPPの違憲性は様々な観点から垣間見ることができると山田さんは言う。
1%の富裕層にのみ利益をもたらす
TPPのような自由貿易は、多国籍企業など「1%」と呼ばれるような一部の富裕層に利益をもたらす反面、格差社会の元凶となると認識されてきている為、アメリカの与党である民主党の議員209名のうちTPPに賛成しているのはわずか7名で、アメリカの国民も77%が反対している。
「自由貿易で豊かになるっていうのは幻想にすぎない」山田さんは言う。
「TPP差し止め訴訟」の原告団になった場合、全員は無理だとしても裁判所で原告としての陳述を裁判所で述べることができる。参加することによってより深くTPPが単なる農業の問題ではないということがわかってゆく、学習会を皆でやりながら訴訟運動を広げてゆくということにも大きな意義があると山田さんは考えている。
山田さんは2013年に書き下ろした『TPP秘密交渉の正体』(竹書房新書)でTPPの問題点に言及している。
Reported by 蜂谷翔子・8bitnews記者
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