スワンの足

友だちの亜美チャン（仮名）は、2児の母である。
彼女の旦那さんは、今、求職中で常に家にいるらしい。
最近、亜美ちゃんのイライラの種は、
旦那さんのことに終始している。
仕事が見つからないから…という理由ではないようだ。

旦那さんが些細なことで怒鳴り散らすし、
大したことでもないのに、すぐイジケる。
「男の子だから、パパと一緒にお風呂入りなさい。」
そう言って、子供を託すと、あからさまにイヤな顔する。
むやみに子供を叱りつける。
亜美ちゃんの旦那さんの人柄、詳しく解らないが…
思うようにならなくて、彼は苛ついているのだろう。
やれやれ…。すべての男がそうとは言えないけど、
男ってさ、なかなか父親になれないんだなあ～きっと。
お腹痛めて産んでないからね。まあ、仕方ないわなあ～。
亜美ちゃんが、そんな男を夫に選んでしまったんだもの。
亜美ちゃんも、男を見る目が無かったのよな。
なんて、彼女の愚痴を訊きながらも、そう思っていた。

「うちの息子、知能発達の障害があるから、
ちょっと他所んちの子よりは、スローテンポなのね。
でも、ゆっくりやれば、自分のことはなんでもできるし
それに素直だし、とてもいい子なんだよ。
…なのに、うちの旦那ときたら短気だから、
息子がモタモタしてると叱りつけるんだよ。
ホントもう～嫌になっちゃう。」

ハッとした。アタシってば、知らなかった、そんなコト。
息子君には何回か会ってるけど、
障害のことなんて、全く気がつかなかったよ。
それに、今まで、彼女の口から語られることもなかったし。

亜美ちゃんは、ただただ愚痴ってばかりいる主婦ではなかったのだ。

独身のころ、バレエを習っていたという彼女。
長身で、手足は長く、色白で指先までも白い。
しっかり者のママ。時々見せるお茶目な笑顔。
勝ち気だけど、チョッピリ涙もろいところ。
彼女とはエアロビレッスンで知り合ってから、3年ほど。
なんとなく気が合って、仲良くさせてもらっている。
けど、アタシは、ホントの彼女を
見ていなかったかのかもしれないな。

優雅に水面に浮かぶ白鳥や水鳥は、
水面下の足の激しい動きを連想させない。
きっと亜美ちゃんは、あの長い足で
一生懸命に水をかいていたのだ。白鳥のように。