作文小論文講座

苦手な作文を得意に。小学生から受験生まで、文章上達のコツを項目別に解説。作文検定試験にも対応。

五感と自己確立

2005-03-03 | コラム
 五感とは、目、耳、舌、鼻、皮膚を通して生じる五つの感覚のことです。つまり、視覚・聴覚・味覚・嗅覚・触覚の五つの感覚です。これらの感覚は、いつも外界と自分とをつなぐ役割をしています。私たちは、五感によって、外の世界を内へと取り入れ、自分なりに消化しているのです。五感こそが自分というものを認識し、確立する基盤になっていると言っても過言ではないかもしれません。というのは、私たちの心は、何かを感じ取ることによって反応するからです。もし、五つの感覚が何の役割も果たさなくなったら、私は私でなくなってしまいます。つまり、五感がなかったら、自分は無になってしまうということです。逆に考えると、自分の五感をより強く意識することによって、より確かな自分を築き上げることができるということになります。

 今、目に映っているものは何か、どんな音が聞こえてくるか、そんなことを一つ一つ意識し、五感を研ぎ澄ませることによって、自分の内側の世界も変わってくるはずです。それは、ありのままの現実を素直に取り入れる作業でもあります。一つ一つの感覚をフル活用してみると、私たちがいかに先入観にとらわれたものの見方をしていたかに気づくかもしれません。また、いかにおおざっぱなものの見方をしていたかに驚くかもしれません。そして、普段、五感をほとんど活用していなかったということを認めざるを得なくなるのではないでしょうか。今、あなたの目、耳、舌、鼻、皮膚が何を感じているか少しだけ意識してみてください。道端に咲く可憐な花の色、夕方の町の喧騒、ツツジの花の蜜の味、雨上がりの公園に漂う木の葉の香り、吹き抜けていった風の冷たさ、そんな感覚を一度じっくりと味わってみてください。

 自分で感じたことを自分の言葉で表現する、それが作文を書くということで、自分で感じていないことを言葉にしても読む人の心に響くような作文にはなりません。自分の五感で得たことを精一杯表現しようとした作文からは、その生きた感覚が伝わってきて、読む人は心を動かされます。もちろん、年齢によって表現力や語彙力には差がありますが、幼い言葉で書かれていても、それが書き手の実感なのだということがありありとわかる文章に人は心を打たれるものです。感想文に体験実例(似た話)を入れるのも、長文の内容をいったん自分の問題として自分の内に取り込み、自分自身の生の体験を書くことで、自分の感じ方を直接表現したインパクトのある作品に仕上げることができるからです。

 そして、五感を大切にしながら作文を繰り返し書くことは、自己を確立していくことでもあります。先にも書いたように、人は何も感じなければその存在すら意味のないものになってしまいます。外とのつながりによって初めて自分の存在を確認していくものなのです。外の世界を知り、それを受け入れ、自分の内で考えることにより、人は、自分というものを少しずつ確立していくのです。感じ取ることが多ければ多いほど、私たちは心豊かに自己を充実させていくことができます。確かに、いつも何かを感じ取ろうとぴりぴりしていてはとても疲れてしまいます。でも、そんなときは、五感の喜ぶ環境に身を置くこともできるわけです。好きな絵を見たり、好きな音楽を聴いたり、おいしいお料理を味わったり……。そんなふうに五感をうまく活用しながら、自己を確立していくことができたら幸せではないかと思いますし、それこそが生きている意味なのではないかと思います。自己とは、内側に自然に備わっているものではなく、外側の世界との接触によって生まれてくるものなのです。だから、外側の世界にもっと敏感に、積極的に関わっていくことが大切なのではないでしょうか。もっと五感を活用して外側の世界とのつながりを強めればきっと自分の内の何かが変わってくると思います。

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