2024年4月、科学雑誌『サイエンス』の表紙を飾ったのは
微生物「ビゲロイ」に関する驚異的な発見でした
この発見は、窒素を取り込むバクテリアが単なる共生生物ではなく
「ビゲロイ」の細胞の一部として機能していることを示す
決定的な証拠とされました
この発見は、カリフォルニア大学のジョナサン・ゼア名誉教授を
中心とする国際研究チームによるものでしたが
その成功の背後には日本からの重要な貢献者がいました
それが、高知大学客員講師である萩野恭子さんです
萩野恭子さんの貢献と異色の研究スタイル
萩野さんは高知市内に独立した研究室を構え
自らの私財を投じて研究を続けている異色の女性研究者です
大学からの研究費を受けず、家族の理解を得て
自宅に研究環境を整えてきました
彼女が「ビゲロイ」に出会ったのは大学生時代
その後、結婚・出産を経ても研究への情熱は冷めることなく
子育てをしながらも研究を続ける道を選びました。
彼女が特に苦労したのは、「ビゲロイ」を培養して増やすことです
この微生物の培養は非常に難しく
長年の挑戦にもかかわらずなかなか成功しませんでした
しかし、そこで彼女にヒントを与えたのは
高知県の伝統的な食材「ところてん」でした
粘り強い努力の末、この材料を使って
ついに「ビゲロイ」の培養に成功し
その過程は約10年に及びました。この辛抱強さと独創性が
今回の世界的な発見を支えたのです
窒素を取り込む「ビゲロイ」の驚異的な能力
では、「ビゲロイ」の研究が
なぜこれほど注目されているのでしょうか
その鍵は、窒素の取り込みにあります
窒素はタンパク質を構成する重要な元素ですが
ほとんどの動物や植物は空気中の窒素を直接
取り込むことができません
そのため、動物は肉や魚を摂取してアミノ酸を得たり
植物は窒素肥料を使って成長します
現代農業における窒素肥料の多くは工業的に
空気中の窒素をアンモニアに変換するプロセスによって
作られていますが、このプロセスには化石燃料が使われ
環境負荷も大きいのが現状です
ところが、もし「ビゲロイ」のように窒素を効率的に
取り込むことができる生物が実用化されれば
化学肥料に依存せず
環境への負荷を減らしつつ食糧生産を大幅に
向上させることが可能になるかもしれません
地球規模の課題解決に向けて
今回の研究は、将来的に窒素の取り込みを効率化する生物が
食糧問題や環境問題の解決につながる可能性を示唆しています
窒素肥料の代替手段として「ビゲロイ」のような微生物が
活躍すれば、化石燃料に頼ることなく持続可能な農業を
実現できる日が来るかもしれません