Doll of Deserting

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聖櫃の森(ギンイヅ死ネタ)

2005-07-26 12:20:39 | 過去作品(BLEACH)
この話はギンイヅ死ネタです。ご注意下さい。
聖櫃の森
 黒猫が、通り過ぎていく。まるで彼の魂を乗せていくかのように丁寧に、静かに駆けて行った。悲愴というものが自分に存在していることすら信じられなかったが、確かにギンは泣いていた。いつもは閉じたように細められているその瞳から涙が落ち、次々に下へと流れていった。何度涙が流れても、そのまま感情まで流すことは出来ずに忌々しかった。
 事の起こりは今日の朝、三席が荒々しく戸を開けたことから始まった。日頃の彼からは想像もつかないような粗暴さだったので何事かと思いつつ、いつものようにギンは返事をしたのだった。
「何やの、騒々しいなあ。」
「申し訳ありません。市丸副隊長、巨大虚が出現致しました。」
「…ボクに出撃命令出すほどのモンなん?」
「いえ。今朝方、吉良副隊長が任務をお受けになりまして、早々に片付けに行かれましたが…。」
「そんなら、ええやないの。」
 イヅルも副隊長なのだ。巨大虚ぐらいならば、余程強大でない限りは問題ないだろう。ギンはそう思いながら机に目を向けた。朝からイヅルがいないことは知っていた。お陰で自分の机に、これだけ書類がたまっているのだから。
「そうではないのです、市丸隊長。副隊長の行方が解らないのです。」
 ギンは、何かに後ろから押されるような妙に筋張った寒気を感じた。いつも自分の二歩後ろから付き従っていた副官を失うような妄想に襲われ、酷く恐ろしかった。いつもの自分とは違う感情の変化に、どんどん気が削がれていく。
「…何やと?まさか一人で行かせた言うんやないやろうな。」
「いいえ。確か一部隊従えて行かれたはずなのですが、その部隊ごと行方知れずになっております。もしかすると、いつぞやの十三番隊のように…。」
「もうええ!聞きたないわ。」
 十三番隊の三席だった女性と、その女性率いる部隊が全滅した時があった。彼女は十三番隊の副官だった男の、妻だった。ギンも、その時のことは覚えている。しかしギンという男にとって、それは全くの他人事だったのだ。それが、今は違う。
「イヅルは死んでへん。ボクより先に死ぬやなんて許さへんからな。」
 自分に言い聞かせるように、ギンは呟く。ギンはいつも自分がイヅルを殺すのだと言ってきかなかった。あの紅い血に触れていいのも、死に際の顔を見ていいのも自分だけだと、そう思っていた。
「ボク行くわ。イヅル探しに。」
 そう言って、ギンは席を立つ。何かをしきりに振り切るように、事実を泡と化すように。疑念となって残る数々の面影を、掻き消すように。そうして彼を見つけた時には、どこへも行かないようにと閉じ込めてしまおう。吉良イヅルという男は、そう思わせるに値する人間だった。妙に人の心を突き動かすような美しさがあり、愛を知らない昔のギンにとっては煩わしかったものだ。
 

 虚の住処と言われる場所に赴いてみたが、そこにイヅルの姿も、虚の姿さえもなかった。おそらく虚は粉砕されているようで、イヅルの生存率が上がったように思えて僅かにほっとする。
「どこにおるんや、イヅル…。」
 空に向かって呼びかけてみても、決して返事が返ってくることはない。しかし人間はどうしようもなくなった時、命を持たないものに縋りたくなるものなのだ。それは空のような形を持たない広大なものであったり、金や食事だったりもする。
 ここでそこいらから「隊長。」という声が聞こえてくればしめたものなのだが、そう上手くはいかない。早くあの金糸を思わせる髪に触れたいなどと思いつつ、ギンは足を進めた。暫くすると、洞窟のようなものが見えてきた。もしかしたらそこで休憩しているのかもしれない。彼の人柄からすれば任務を終えた後早々に帰って来て報告をするのが常なのだが、ギンはそんな可能性にも縋らずにはいられなかった。
 洞窟に入ってみたが中は暗く、よく見えない。ギンは一応持ってきていた灯を灯すと、歩みを速めていった。
 

 手足が、凍りつく。そこいら中に散乱する、三番隊員の死体。身体から血を流す者、首を噛まれた者、飛ばされた衝撃で死んだのだと思われる者。様々な死に様があるが、共通して凄惨なものだった。ギンはそこでやっと気付いた。洞窟が二つあったことを。
 今見てきた虚の住処も、こことよく似ていた。おそらく自分は虚の住処を間違えたのだろう。さっき見てきた住処だと思っていた場所は間違いで、実際はここが住処だったのだ。ここにも虚はいない。しかしギンの心に、何か冷たいものが走った。
「イヅルー!返事せえ!イヅルー!」
 必死になって、ギンはイヅルの名を呼んだ。しかし返事はない。嫌な予感は肥大していくばかりで止まることを知らない。そんな時、背後から何者かの声が聞こえた。
「お前も死神か?」
 そこには虚の姿があった。確かにこれは手こずるであろうと言いたくなるように巨大で、そして戦闘に慣れているようだった。副官クラスでも殺されるかもしれない。隊長クラスでも暇がかかるだろう。並の隊員などひとたまりもない。
「…そうやけど、お前は何や?」
「見て解らんのか。」
「せやない。聞かんでも解るけどな、コイツら殺したん自分か?」
「そうだ。お前も後でゆっくり喰ろうてやるから、そこをどけ。まだ一人一番上等なのが残っているんだ。」
 その言葉に、ギンは狼狽した。しかし残っているということは殺されていないのかもしれない。そう思いつつも、一応尋ねてみた。
「…上等のんか。どない死神や?」
「お前のように珍しい毛色だ。金髪に青い目の、大層美しい。」
 それを聞いて、ギンは確信した。イヅルの特徴と全く一緒だったからだ。
「その男が最も霊力が高く旨そうだった。お前には劣るようだがな。」
 ギンは鬱陶しく思いつつも神鎗を引き抜いた。一刻も早く始末してしまおうという気持ちからだろう。
「ごちゃごちゃ言うとらんと、死ねや。射殺せ、神鎗。」
 神鎗が、虚の身体を貫く。元々油断していた虚は、あっけなく倒れた。本来ならばもっと時間のかかる相手だったはずなのだが、相手に隙がありすぎた。

  
 走りながら洞窟を進んでいくと、やっとイヅルを見つけた。声は出せないようだったが、とりあえずは生きていたので安心する。
「たい…ちょう?」
 息をする速度が速い。必死に言葉を吐き出すイヅルに「もうええ。」と声をかけながら、ギンはそれを制した。しかしイヅルは、話すことをやめようとしない。
「聞いて下さい、市丸隊長。僕は帰ることが出来ません。ここで死んでしまうと思います。」
 息は荒くとも、巧みに話している。ギンはイヅルを一目見てそんなことは解っていたが、気付かないフリをして連れ帰ろうと思っていた。しかし、いかんせん傷が深すぎる。
「僕は…あなたにであ…えて良かった。あなたを守れて…良かった…。」
 なぜだかギンは泣いていた。とにかく自分に涙腺というものがあったことに驚愕しつつも、ギンはイヅルをしっかりと見つめている。
「僕がまだ…学院生だった頃、あなたに助けて頂いて…あの時…から…あなたに憧れていて…。」
「短い間に…色々な、ことを、あなた、から…教わりました…。」
 人に愛してもらうこと、それでいて人を信じてはいけないこと。裏切られたことも、何度もあった。しかしその度に、イヅルはますますギンにしっかりと連れ添って離れなかった。
「阿呆やないの。お前、こんななって…。」
「ボクの傍におる、言うたやん…。」
 イヅルの身体にぼとぼとと落ちていく、透明な液体。それがまさか自分から流れることがあるとは、ギンにとって信じられないことだった。
「すみま…せ…。」
 イヅルはたった一言、彼の口癖の一つだった「すみません」という言葉を言い終わらないうちに、息絶えた。ギンの涙は止め処なく流れ落ち、ギンはイヅルを抱えて帰路についた。
「堪忍な。」
 たった一言、彼に伝えられなかった言葉を繰り返し、繰り返し言い続けた。
「イヅル、ほんまに、堪忍…。」
 最後に呟いた「愛しとる」という言葉が、空気に紛れてふわりと消えた。 

 
 護廷十三隊の三番隊副隊長の席は、その後埋まることがなかった。ギンも他の隊から取ろうとは思わなかったし、三番隊の中にも成り代わろうとする者はいなかった。ギンはそのうちイヅルのことを忘れたフリをしながら職務を続け、それでいて毎年三月二十七日になると非番を取って墓参りに行くらしい。その手には彼の斬魂刀と同じ名前の椿が抱えられている。そして墓前で何度も謝罪の言葉を繰り返すのだ。イヅルに向かったものでもあるが、大半はイヅルの両親に向けた言葉だった。
「こない早う逝かしてもうて、すんません…。」
 普段から誰にも心を許さず、誰にも本気の謝罪などしたことがない男が、その日だけはうつむいて許しを請うように何度も謝り続けていると、誰かがどこかで言った話だ。そして密かに、男の知らないところで答えが返ってきていることも。


『ありがとうございます、市丸隊長…。』


 修イヅとか言ってたくせに今このタイミングで死ネタを出すか自分。そして市丸さんのキャラを激しく間違えてる!私の夢の中の住人だろこの人!!とにかくとりあえず修イヅを書こうと思いワードを開けてみたらフロッピーのファイルの中に無駄に長いギンイヅ死ネタがあるのを見つけ、UPしようと頑張ってみる。ていうか最初から読んで頑張って加筆修正を繰り返してみました。最後もうやむやになっていたので精一杯ギンイヅしてみる。他のサイト様でギンイヅの死ネタなんて見てきているのに。しかも比べ物にならないほど素敵なのを幾つも…!!(救いようがない)すみませんホント。ここまで読んで下さった方がいらっしゃいましたら幸いです。ありがとうございました。

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