Doll of Deserting

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狂気の白。(ギンイヅ+???)

2005-12-23 21:23:24 | 過去作品(BLEACH)
*オリキャラ視点で、イヅルに激しく夢を見ております。設定も捏造が著しいので、大丈夫と言って下さる方のみご覧下さい。





 その白い花が欲しいと鵺に問えば、鵺は馬鹿にしたように笑った。



 この世で意識を取り戻した時と同じ、柔らかい光が頬を差す。
 死んだ時には何が起こったのかよく分からなかったが、快い人に引き取られたお陰でこの頃世の中のことがようやっと見えてきた。どうやらこの世界では、霊力のある人間が優遇されるらしい。その人々は霊力を持たぬ人間には毛嫌いされているが、良い暮らしをしたいのならともかく真央霊術院というところに入学せよと、引き取ってくれた親は言った。
 ならば、と、特にやることもなかった俺は勉学に励んだ。元より微弱ながら霊力を授かっていたこともあり、頭だけでなく身体にもそれはよく身に付いたようで、学び始めた時の不安は確かな自信へと変貌していった。
 そうしてある程度体躯が成長してから、統学院へと試験を受けるべく向かったのだった。あまり裕福な家庭ではなかったので、落ちることは許されぬと、深く心に刻みながら。



 蕗のとうが土から芽吹き出した翌年、そろそろ摘み取るかと庭を見ていると、どうやら合格したらしいとの報告を受け、胸を撫で下ろす。しかしながら、改めて通知を受けた時にはやはり驚いた。成績を見れば首席とのことだったが、あまり霊力が高くはないことを自覚していたので、余計に目を見開いたのだ。
「今までありがとうございました。」
「良かったねえ、あんた。たまの休みには帰っておいでよ。」
「…はい。」
 正直、帰るつもりなんて俺にはなかった。けれども育ての親にそう言われては、頷くしかない。決して帰るのが嫌というわけではないが、ここに帰る度懐かしい気持ちに浸ってしまうのは駄目だ。それでは自立など出来ない。そう思った。



 入学式当日は、雨が降った。まるで俺の前途を暗示しているみたいじゃないか、と卑屈に思ったが、今日入学式を迎える者は皆同じことを考えているに違いない。どちらにしろ入学式は屋内なのだし、そんなことは気にするべきでないと自分に言い聞かせた。
「なあ、あの先輩可愛いと思わないか?」
「…そうか?俺は別に…。」
 今日の昼に声をかけられ、早速出来た友人はどうやら勉学よりも色恋に興じているようだった。彼が指を差していたのは柔らかい黒髪を二つに束ねている女子学生で、どうやら一つ上の学年のようだ。雰囲気は幼いが、確かに華奢で可愛らしい。
「何だよ。ほんとに勉強のことしか考えらんねえ奴だなあ。」
 呆れたように言われたが、それに怒気や蔑みは感じられなかった。どちらかといえば茶化すような物言いをされたので、こちらからも曖昧に微笑みかけてやった。可愛いとは思うけどね、ともう一度先輩の集団に視線をやると、一瞬だけ、一人の先輩と目が合った。本当にたった一瞬のことだったので男子か女子かも分からなかったけれども、多分あれは男子だ。制服の水色が微かに見えた。
「―…。」
「何だ何だ、好みの先輩でもいたのか?」
「いや…。」
 ほんの僅かな逢瀬だったが、確かに彼はこちらに向かって微笑んでいた。もしかすると俺を知っているのだろうか、と思ってみるが、そんなわけはない。会った経験はないし、まして俺が有名であるはずがないのだから。
 もやもやとした衝動を抑えつつも再度あちらを見るが、もう先輩方は行ってしまった後で、何故だかほっと胸を撫で下ろしてしまった。ただ、俺がどこを見ていたのか友人には気付かれたらしい。本当にこんな時だけ聡い男だ。
「ああ―…吉良先輩か。なかなか綺麗な人だけどありゃあ男だ。」
「分かってるさ…知ってるのか?」
「そりゃあ知ってるだろ。何たって二年の首席だ。入学してずっと首席護り続けてるって人だろ。」
「吉良…イヅルか?」
「何だ、お前も知ってるんじゃねえか。」
 当然だ。俺は入学してから、歴代の首席入学者と首席卒業者を調べ上げたことがあった。単なる興味本位というのもある。霊力がさして高くない俺が何故首席とされたのか、それが気になっただけのことだった。文献はやたら詳しく記されており、実技、学科それぞれの配点まで如実に表されていた。助かったといえば助かったが、来年同じところに自分の名が載るのかと思うと、気が気ではない。


 鵺は尚も笑う。お前に覚悟があるのかと。その花のために、命を棄てる覚悟があるのか、と。


 次にその人を見たのは、初めて実習を行った次の日のことだ。見た、というより、声をかけられた。当然別の者に声をかけたのだろうと一度目は振り返らなかったが、二度目、肩を叩かれてようやく自分が名を呼ばれていることに気付く。
「…何故、お…いえ、僕の名を知っていらっしゃるのですか?吉良先輩。」
「分かるさ。今年の首席入学生は君だろう?君こそ、何故僕の名を知っているんだい?」
「分かりますよ。昨年の首席入学生は貴方でしょう?」
「ほら、お互い様だ。」
 そう微笑みながらも、そんなに畏まらなくていいと親しげに話すその人は、ひどく物腰が落ち着いていた。白皙の美貌は遠目に見れば青白いが、近場で見ればさも艶かしい。しかしながら、頼りなげな体躯はやはり華奢であった。そして俺より随分と小さい。そこまで考えて、何を思っているのだろうと自分を叱責する。
「あの…それで、何用ですか?」
「いや、君達のところは昨日魂葬の実習だったんじゃないかと思って。」
「そうですけど。」
「無事に済んだかい?」
「ええ、まあ…。」
「そう…それは良かった。」
 何か思うところがあったような気はしたけれども、俺は尋ねることをしなかった。本当は。数ある学院の文献を読み漁ったことで、昨年の実習の一部始終は知っていたのに、だ。当然檜佐木先輩の名も存じ上げている。しかし、あれは痛ましい事件であったと、真相はそこまでしか知らない。そして、吉良先輩の所属していた組がその実習に参加していたことも。
「あの、昨年の実習のことなら存じております。ですから、今年は昨年のような出来事は…。」
「ああ、いや、気を揉ませてしまって済まない。しかし、君もよく知っていたね?」
「この学院のことなら、先輩方の名前まで存じております。」
 首席の、とは、あえて言わなかった。首席の名だけ調べたとあっては、どうも印象が悪いような気がしたのだ。何故か、どこかでこの人に良く思われようと思っている自分がいるのかもしれなかった。
「っははは…!」
 突然笑い声が上がり、どうしたのかと訝しげにそちらを見れば、吉良先輩が朗らかに笑っている。あまりそういう笑い方をする人ではないと思っていたので少し驚いたが、すぐに見開いていた眼を戻した。
「どうされたんですか?」
「いや、昔の僕によく似てるなあと思って。」
「貴方に?」
「うん。僕も去年のはじめは我武者羅に勉強したり、学院のことまで貪るように調べたりしたものだよ。それこそ、歴代の首席である先輩方の名前まで―…ね。この頃は死神の学だけに専念してるけど。」
 最後に発された言葉にはっとして、ふと恥ずかしく思う。首席の名のみ調べていたということは見破られていたのか、と。自分と似ている、ということであるから、分かりやすかったのかもしれないが。
「…なぜ、無差別に学ぶことをお止めになられたのですか。」
 俺が問うと、彼はやんわりと微笑んで、口を開いた。その表情はまるで哀れんでいるようにも見える。
「目標が定まったから…かな。」
「目標…。」
 うん、と彼は髪を揺らしながら言う。短く切り揃えられた髪は、淡い光を浴びて豊かな蜜色を放っている。青い眼すら光に塗れて燐光を差しており、美しいと、ただ美しいと思った。
「この生を賭けて仕えたいと願えるお方が見つかったんだ。その人のことは名前だけ知っていたんだ。随分昔の首席卒院生として名簿に名前が載っていたからね。」
「…その方の名は。」
 俺が尋ねてみても、先輩は頑として表情を崩さずこちらを見つめている。その口から他者の名が紡がれることは終ぞなかった。ただそれは俺に答えられないというよりも、その名を発することは恐れ多く、恥らうべきことだと思っているように見えた。
「…すみません。」
「いや、いいんだ。」
 そう言うと、彼は「ありがとう」と残してその場を去って行った。一体何のことに対して礼を受けているのか分からなかったが、強いて言うならばはじめの問いに対する答えか、と思うことにした。



 二度目に逢瀬を交わしたのは、冬のはじめの図書館であった。もう陽もとっくりと暮れてしまっていたが、本を返却するのを忘れてしまっていたのだ。幸い図書館は遅くまで開いている。司書の係はいないが、貴重な文献などは別の場所にあるため、大した額にもならない本などが置いてある場所は施錠が成されていないことが多いのだ。大体からして、施錠されていなくとも入る者を選ぶ高等結界が成されているこの学院において、そのような気苦労は無用ということか。
この学院は、こと期限というものにうるさい。返却日が遅れたとあっては、司書の係から叱責を食らうのは確実だろうと思い、暗い廊下をそろそろと駆けていくと、ふと入り口に差し掛かったところで人影を見受けた。
「全くいつになったら僕の課題を返してくれるんだい?」
「ちょっと待て!もうすぐ終わる。」
「何もこんなところでやらなくたって部屋に戻ってから写せばいいのに…別に本を役立てるわけでもあるまいし。」
「ダメだ!部屋じゃ寝る!!」
 遅くに何をしているのかと思えば、吉良先輩と共にあるのはどうやら阿散井先輩のようだ。阿散井先輩の前方にある机上には、二人分の用紙が置かれている。阿散井先輩が必死に眺めている方がおそらく吉良先輩の課題用紙だろう。用紙が黒く見えるほどに、文字がびっしりと書き込まれている。
「大体君って奴は毎回毎回ぎりぎりにならないと始めないんだから…。実習はあんなにはりきるくせに。」
「うるせえ。お前ももうちょっと手ぇ抜いてやれよ。写すのが面倒だろうが。」
「あ…の…。」
「「え?」」
 こちらへ向かう声が、一重なりになった。阿散井先輩は訝しげに俺の方を見たが、吉良先輩の方は一度笑って気まずそうに顔を背ける。それが可笑しく思えて吹き出すと、今度は阿散井先輩が一層深く眉をひそめた。



 思えば、あの日からだった。吉良先輩や阿散井先輩が、廊下などで擦れ違うと親しげに挨拶を交わしてくれるようになったのは。言ってみればただそれだけの関係なのだが、俺は本当に、心底嬉しかった。
 しかしながら、まともに会話を交わしたことは数えるほどにしかない。先輩方が卒業するまでに、ほんの数回だ。それでも俺は、彼の卒業の日のことをありありと記憶している。
死神の候補生が統学院を出て帰趨するところといえば一つしかないので、翌年に俺が後を追えばいいだけの話なのだが、もし話をするならばその時が最後であると思った。何故だか、一つ年を重ねた時、もう既に彼は遠くへ行ってしまっているような気がして、穏やかな気持ちにはなれなかった。
「…吉良先輩?」
「ああ…君か。」
 出会った頃と同じく、やんわりと彼は微笑む。飴色の髪は心なしか長くなったようで、話の繋ぎにまだ伸ばすんですかと問うとどうしようかな、と疑問符が浮かぶ。艶かしい肌の色は尚もそのままだ。けれども、初めて会った時のような情動は沸いてこない。あの時の俺ときたら、この肌に喰らいつきたいような邪念を抱いていたのだから。
 そうして黙り込むと、彼は「どうしたんだい?」と問うてから俺の頭を撫でた。最初に出会った時既に彼の背丈は追い越していたが、時折彼はこうして見上げながら頭を軽く叩く。しかしそれが心地良く思え、俺はまた罪を犯してしまったような気持ちになるのだった。
「あの…ご卒業、おめでとうございます。」
 暫く話してからようやっとそう口にすると、彼は「ありがとう」と呟いて笑みが一層深くなった。
「卒業されたら、どちらの隊に配属なさるんですか?」
 もし入隊試験に合格しなかった場合、帰る家などないと話していたのを思い出す。どうやら彼はこちら出身のようで、両親は早くに亡くしているらしい。
「うーん…まだ結果は分からないけど、五番隊、かな。」
「それでは貴方が仕えたかったのは、藍染隊長なんですか?」
「いや、違うね。僕が仕えたいと思っている人は、今五番隊にはいらっしゃらない。」
「今、は―…?」
 俺が入学するとほぼ同時に、五番隊の市丸副隊長が三番隊の市丸隊長へと呼び名を変えた。思えば、吉良先輩達が一年時に虚に襲われた際、救援に訪れたのは誰であっただろうか。他でもない、藍染隊長と市丸副隊長―…いや、市丸隊長だった。成る程、と思う。この人が渇望していた男は、あの人か、と。
「すみません、喋り過ぎました。」
「いや、君も頑張って。」
 そう言葉を交わして別れた。やはり、それきりだった。



 ***



 昔の話を思い出していた。ひどく、昔の話を。手足の感覚は既にない。数十年前彼の後を追って護廷へ入隊したはいいが、五番隊へと配属されることは叶わなかった。ただ、俺が入隊したのは九番隊で、副隊長である檜佐木さんは吉良先輩と仲睦まじかったので、もしかすると逢瀬が叶うのではないかと、そう思っていた。しかし実際には着々と出世し、気が付けば三番隊の副隊長として刀を振るっていた彼と、席はあっても下級であった俺が話をすることなどなかった。
 一度隊舎の前で顔を合わせたことならあった。彼は一瞬はっとしたようだったが、気のせいかと思ったようで、すぐに顔を背けた。俺を覚えていたわけでなく、ただ他の誰かと間違えただけかもしれなかったが。


―…吉良副隊長、あなたはあの時のことを、果たして覚えていらっしゃるでしょうか。


 聞こえていないことを知りながら、心の中で、静かに呼びかける。


―…ここで俺が死んでも、あなたの人生に影響することはないでしょう。ただあなたを残して死ぬ人間が、一人増えただけのことです。


 上空を見上げる。二度目の逢瀬を果たした時と同じ、暗い、暗い空だ。


―…これから幾度となく、あなたの前から男も女も、姿を消していくことでしょう。ただ、あの方だけはあなたを置いて行くことのないようにと、そう願っています。


 上空でまた鵺が笑う。馬鹿め、と。お前が命を賭したとしても、花はお前の命など望まぬ、と。


―…分かっているとも。しかし―…


「やはりあなたは、私を殺すんですね。」
「…そんだけのことしたんや。当たり前やろ?」
「…市丸隊長。」
「何や。」
 こちらへ向かう双眸は、闇に紛れて深紅とも翡翠とも取れぬ色をしている。
 この人の寝首を掻こうとしたのはつい先程のことだ。何故そのようなことを思い立ったのか俺にも分からない。ただ、過去の夢を見ていた。この人のことを凄艶な表情で語った彼のことを思い出していると、ふとした瞬間にただならぬ戦慄が走る。すると衝動的に、消さなくてはと思った。この人は―…いや、この男は、俺にとって唯一の汚濁の象徴だった。
 吉良副隊長に対して、歪んだ感情があったことは否定しない。根底から歪曲させ、その歪みに入り込んで俺のものにしたいと、そう思ったことは確かだ。しかし、それを実行に移そうとしたことはなかった。彼はこの男のものだと割り切っていた。が、何か自分の中で煮え切らぬものがあったのだろう。
 死神は首を刈られぬ限り死ぬことはない。そう聞き知っていたので一気に首を狙ったが、ましてこの男がそれに気付かぬはずはなかった。ただ、一突きで殺してくれなかったのはこの男の情けか。それとも非情か。
「市丸隊長。」
「せやから何や。」
「このことは、吉良副隊長にも報告されるのですか。」
「せえへんよ。自分を好きなようにしたい思うてボクの寝首掻く男の話やなんて、あの子の耳に良うない。」
「…はっ。」
 気付いていたか。俺が彼に懸想していることを。否、常に彼の傍にいながら、この男が気付いていないわけもなかった。遠目に吉良先輩―・・・いや、吉良副隊長のことを、どうにか話が出来ないものかと思い時折見ていた男の存在を、この男が知らぬわけもないのだ。
「…市丸隊長。」
「まだ何ぞあるんか。ボク早う寝直したいんやけど。」
「…吉良副隊長のことを、お大事になさって下さい。」
「…言われんでも大事にしとるわ。」
 今更そんなことを言うのか、と、さも煩わしそうに答えられたので、「はい」とだけ返した。市丸隊長は神鎗を構え直すと、冷めた声で一言残す。
「もうええな。」
「…どうぞ。」
 呟いたのと同時に、腹に強烈な痛みが襲う。始解をするのも愚かしいと思ったのか、その神鎗は短刀の形成を保ったままだ。意識が絶たれる瞬間、市丸隊長は確かに寝間着であったのに、その背に白い羽織が見えたような気がした。


―…ただ、あなたが孤独でなきよう。せめてこのように愚かな男がいたことを、記憶の端にでも留めて下さるようにと。


 やはり鵺が笑う。花はとうに儂が喰ろうてしもうたと、笑う。






■あとがき■
 何だか御免なさい…としか言いようが。orz
 ガードマン市丸。番犬市丸。ぶっちゃけイヅルの安全に人生費やしてる市丸。(お前んトコの市丸さん全部そんなんだよ)
 白い花はイヅルで、鵺は市丸さんです…。イヅルに夢見すぎな感じですみません。(涙)
 オリキャラ君の名前はあえて伏せてあります。ネタを考えた時にはもっといい子だったのにどこから道を踏み外したのか…アレ?(汗)
 本当はイヅルを侮辱した男をオリキャラ君が間違えて殺しちゃって、それがお偉いさんだったために処刑されることになって、最後にああいう風に呼びかける感じで終了、というはずだったのです。ここまでギンイヅ要素が濃くなるはずじゃなかったんですよ。(笑)…orz

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