Doll of Deserting

はじめにサイトの説明からご覧下さい。日記などのメニューは左下にございますブックマークからどうぞ。

「灰色世界」様より市丸さんお誕生日記念フリー小説を頂きましたv

2005-09-16 19:50:44 | 前サイトでの頂き物





「市丸隊長の、誕生日ですか・・・?」

「ええそうよ、九月十日・・今日があいつの誕生日」

松本さんは、楽しそうに笑いながら僕にそう言った。




 ■ 隊長の誕生日 ■




僕は一人、部屋の隅で体操座りをしながら悩んでいた。
何を悩んでいるのかと言うと、今朝聞いた、隊長の誕生日についてだ。
隊長は僕に、何一つ自分のことを話さない、だから僕は隊長のことを何一つ知らない。
ましてや誕生日など知るよしも無かった。



「ええそうよ、九月十日・・今日があいつの誕生日」



松本さんと隊長は、幼馴染だと聞いた。
親しいのも、妙にお互いを知り合っているのも納得できる。
でもやっぱり。

隊長のことを、一番良く知っている人になりたかったのだ、僕は。
無理なことは分かっている。
所詮、僕と隊長はただの、上官と部下。
それ以上も、それ以下もありはしないのだから。




「どうしよう・・・」

僕は溜息を吐いて、頭を抱え込んだ。
隊長の誕生日・・・。
松本さんも、酷いものだ。
教えてくれるのだったら、当日はいくらなんでも無いだろう。

(おめでとうございます、って言ったほうが良いのかな)

知ってしまったのだから、祝ったほうが良いのだろうが、其れは僕の意見であって、隊長の意見ではない。
もしかしたら隊長は僕に、祝って欲しくないのかもしれない。
だからこそ、僕に自分の誕生日を教えなかったのか。

考えていけば、考えていくほど、悪い方向に考えが進んでいく。
だめだと思っても、もはや癖になってしまったらしく、なかなか立ち直って良い方向へと考えることが出来ない。

「誕生日、か」

(もし言ったら、笑ってくれるだろうか)

本当の笑顔で。
いつもの、ただ繕っている笑顔では無く。


僕は立ち上がって、きっ、と顔を引き締めた。
もし拒絶されたら、その時は、その時だ。

(僕を少しでも見てくれるのなら)

ただ躊躇って終わるよりも、少しでも前に進んでから終わるほうが、よっぽど良いと思ったのだ。




「隊長、あの・・・お話があります」

たぶん、僕の声はかなり震えていたと思う。
声だけじゃない、足も手も、頭は此処からにげだしたい、と言う思いで一杯だった。

「何やの、告白?」

隊長は、いつものようにおどけながらそう言って笑った。
僕が俯きながら、違いますと言うと、ふーんと言ってから周りをちらりと見渡した。

「執務室、行こか」

それだけ言い残して、隊長はさっさと執務室の方へと行ってしまった。
ああそういえば此処は、ふと思い出してちらりと横を向くと、三番隊の死神達が、興味深そうにこちらを見ていた。
僕がこほん、と咳払いをすると一斉に、やり掛けの書類に目を落とした。

これからは、詰寄所で市丸隊長に話しかけるのは止そうと思った。



「遅いで」

執務室に入ると、隊長は自分の机に腰掛けて僕を待っていてくれた。
待っていてくれたことが嬉しくて、すこし目頭が熱くなった。
僕はそんな気持ちを外に出さないように気をつけながら、丁重にお辞儀をして、すみませんと謝った。

「で、何やねん」

僕が頭を上げる前に、隊長はそう切り出した。
顔を上げようと思った、のだけれど、極度の緊張の為か顔が上がらない。
それどころか足も震えてきた、どこまで僕は臆病なんだと自分に嫌気がさした。

「はよ顔上げぇ・・さっさと言わんと、僕帰るで」

たん、と隊長が机から降りる音が聞こえた。
早く言わなければ、本当に此処で終わってしまう、そう思うのに足の震えは止まらなくて。

(くそ、くそ、くそ)

ぎり、と唇をかみ締めた。
何百回も言う練習をしたんだ、大丈夫だ、と頭の中で繰り返す。
隊長の欠伸が聞こえた。
一回目を瞑ってから、覚悟を決めて僕は勢い良く顔を上げ、声を張り上げた。



「お、お誕生日、おめでとうございます!!!」



「・・・・・・・は?」

隊長がぽかーんと、僕を見た。
其れを見て、僕はもうだめだと思った、涙がじわりと浮かぶ。
僕は、泣きたいのを我慢して、また俯いた。

(もうだめだ、死にたい、此処から消え去ってしまいたい)

僕は頭の中で絶叫した。
きっと、何こいつ、とか思われてしまった。
嫌われてしまった、もうだめ、死にたい、今までにこれほど後悔したことが無いというほど僕は後悔した。

僕がどうやって死のう、とか、親にどう顔向けすれば良いんだろうと一人、悶々と悩んでいると、隊長が口を開いた。「・・何や、そんなことかいな」

めっちゃ怯えとるから、死神辞めますとか、言うかと思ったやんと隊長が頭をかいた。

僕は顔をがばっと上げた。

「おおきに、でもよう知っとたなぁ」

隊長はいつもよりも嬉しそうに笑った。
それがあまりにも綺麗で、僕の目から涙が溢れ出した。

「何で泣くねん!ちょ、待って!はあ?」

隊長が舌を噛みながら、僕の傍によって来た。
其れでも僕の涙は止まらなくて、むしろ溢れていくばかりで、まるで涙腺が壊れたかのようだった。

「あーもう・・・良え子やから泣き止んで・・」

背中に大きな腕が回されて、ぐっと引き寄せられる。
一瞬何が起きたのか分からなくて、目を見開いて、顔を上げる。
僕の真上には隊長の綺麗な顔があって、背中には大きな腕があって、そして・・・そして・・・。

(僕・・今だったら死ねる・・)

僕は其処で意識を失った。
何処かで、隊長が僕のことを呼ぶ声が聞こえた気がしたのだけれど、僕は目を開けることが出来なかった。




(隊長、大好きです。)



僕は其の後一週間、恥ずかしさのあまり、隊長と顔を合わせることができませんでした。










2005 9/10

  市丸ギン様 お誕生日 真 おめでとうございます!


 「灰色世界」様より市丸さんお誕生日記念小説を大分前に頂いておりましたが、UPするのが遅くなりまして申し訳ありません。(汗)隊長大好きなイヅルと、それをなだめる隊長の雰囲気が最高ですーv隊長大好きなイヅルに憧れます。(笑)本当にありがとうございました!

最新の画像もっと見る