Doll of Deserting

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ドラマティックサイレンス(修イヅ現代パラレル)

2005-10-10 21:11:03 | 過去作品(BLEACH)
*現代パラレルです。苦手な方はご注意下さい。多分見ようによってはギンイヅ前提に見えるかと思いますので、ご了承下さい。
*直接的な表現はありませんが、やや裏ギリギリの表現がございますのでご注意下さい。



 女が踊り狂っていた。こうも近付かれると目の前に存在しているかのような錯覚を覚えるが、実際には女達は薄い膜を張った向こう側で踊っている。つまりそれは映画のワンシーンだった。本来ならば劇場での私語は許されるものではないが、生憎やたら古い映画のリバイバルだったので自分達以外に観客はいない。
 修兵は両腕を椅子にもたれかけ、やや仰向けに座っていた。呆然とスクリーンを眺めていると、女達は消え、突如として二人の男女が現れる。その様子を黙って見ていた。傍らに座る華奢な男も、何も感じていないというかのような無表情でスクリーンを眺めていた。女にも見えるが、着ている服からして男だということが分かる。
「全く分からねえな。今更こんな映画見に来るなんてよ。」
「込み入ったところに入るのが嫌だったんです。」
「だからってこんな無声映画と変わらねえようなもん見なくても。」
「映画を見るのが目的じゃないんだろうと思って。」
 ふと目を合わせると、イヅルが凶悪に笑う。それすらも色香を感じさせる辺りがどうも性質の悪い男だと思うが、修兵は何も言わない。その笑みに侮蔑したような表情を浮かべてから、濃い色のジャケットを羽織り直した。
「それで、何ですか。何か言いたいことがあったんじゃありません?」
「そりゃこっちの科白だな。お前こそ何か言いたいことがあるんじゃねえのか。」
「「何を?」」
 二人同時に声を発してから、顔を見合わせてまたとても気持ちの良いとは思えない笑みを浮かべ合う。無駄な行為だ、と共に思った。
「どうでもいいことですけど、先輩その刺青セクハラですよね。」
「うるせえな、そういう意味で彫ったんじゃねえんだよ。知らねえ奴には言わせておけばいい。」
「そういう潔いところは好きなんですけど。」
「恥知らずなところは嫌いってか。」
 くっと一度笑ってから、修兵は煙草を一本取り出す。いかにもと言った風貌の黄金色のライターで火を付けると、イヅルがそれを見ながら嫌な顔をした。
「先輩、映画館は喫煙禁止ですよ。」
「分かってやってんだよ。どうせ他の奴の迷惑にはならねえだろ。」
「やっぱりそういうところは嫌いです。」
「あの人がやることなら何でも許したくせに?」
 イヅルはあ、と口を開きかけて、きゅっと閉じた。今年の四月に海外へ飛び立った奔放な男はもういない。行き先は海外というだけで、詳細な場所は一切誰にも教えなかった。
「…市丸教授のことを言っているなら…。」
 修兵とイヅルは、同じ大学の同じ学科生だった。修兵は既に卒業しているが、イヅルにはまだ二年大学生活が残されている。ああ、こういう話はしたくないなあと心の中で思うままに、唇で言葉を紡ぐ。
「先輩、分かって言ってるでしょ。僕がこういう話はしたくないってこと。」
「分かってなきゃこんな話ふらねえよ。」
「…言っておきますが、あの人は僕が嫌がることなんてしませんでしたよ。」
 あなたと違って、とはあえて言ってやらなかった。修兵は、こういったことでは自分の意のままに行動するが、それ以外のことではとても優しい。イヅルの望まないことは何一つ行わず、イヅルが望むことは最大限与えてくれる。
「ああそう。」
 一言言って、修兵は深く煙を吸い、吐き出す。学生時代から変わらず美しい仕草で煙草を吸う男だ。細く骨ばった精巧なフォルムの指から紡がれる煙は、まるで霧のように鮮やかだった。
「何にしろ、お前が何でもかんでも引き摺ってちゃ何も出来ねえだろ。」
「分かってますよ。…この映画、まだ終わらないんですか?」
「下らねえ映画だが、きっちり三時間はあるぜ。まだ半分もいってねえな。」
「こんなほとんど無声の映画なのに、三時間もあるんですか。そのくせ同じ長さでもタイタニックみたいなドラマもなく?」
「ああ。でもこの映画、カップル向きだって大学時代先輩から聞いたことあんだけどな。」
「いつカップルになったんですか。いつ。」
 修兵が悪戯っぽく笑って、僅かに紅潮したイヅルの頬に手を当てた。そのまま顔を近付け、軽く口唇を啄ばむ。イヅルは抵抗などしなかった。修兵は、イヅルが今現在ほぼ無心とも言える状態になっていることを知っている。それにつけ込んだと言われれば、否定する言葉は自分にはない、と思った。
「成る程確かに。カップル向けと言っちゃカップル向けだな。」
 黒く濃い色をしたジャケットを落とすと、イヅルの顔が訝しく歪む。
「ほぼ無声なんだから、声が響くじゃありませんか。」
「こんなだだっ広い場所じゃ聞こえねえだろ。…足開けよ。」
 やや不本意な思いを抱えながらも、イヅルは素直に従った。全く強引な男だと思いながらも、それを拒絶しない自分も確かに存在している。やはり強引ではあるが、抱く腕は淡く優しい。イヅルは人形のように白い顔を仰向けにして、目だけを伏せた。

 
 ただただ静寂が辺りを包んでいる。身体は酷く高揚しながらも、心は酷く冷えている。あの人の帰りを待ちつつも、ここでこの人に甘えている。まるで自尊心の欠片もない獣みたいじゃないかと思いつつも、イヅルは抱く腕を強めた。


 画面ではまた女が踊っている。そしてまた二人の男女が現れ、軽く接吻を交わした。あとはしんとしている。二人の間で世界が終わったかのようにしんとしている。


【完】


あとがき
 こういう現代パラレルが書いてみたくて、本当は市丸教授(笑)も登場させたかったのですが無理でした。修兵がやたら勝手な男になりましたが、彼が本当は世話焼きのイイ男だということは重々承知致しております。(涙)
 というかコレ裏に置くべきじゃないかな。もし表に置いておかれるのに抵抗のある方は拍手などでお知らせ下さい。裏に移動させて頂きます。

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