川上未映子『夏物語』




 川上未映子による快心作です。日本人作家の純文学系長編をこんなに楽しく読み終えたのはいつ以来なのかよく思い出せません。エンターテイメントであれば長いのもありますが、シリアスな内容なのに関西弁調の文体でテンポよく読ませ、庶民の貧しさ泣き笑いも挟んで飽きさせません。

 第一部は芥川賞をとった『乳と卵』のほぼ再掲らしく200ページ、第二部がその8〜9年後の後日談450ページでこの物語のメインになっています。生きること、生まれてくること、精子提供などをテーマに迷いながら精一杯生きる主人公とユニークな脇役らが織りなす真面目だけど時に笑ってしまう切ない人生。読み手によっていろんな感情が溢れ出す作品だと思います。世界の多くの国で翻訳されているのも納得です。

 個人的には、ニルヴァーナのカム・アズ・ユー・アーやビーチボーイズの素敵じゃないかが挿入されていたのは泣けました。先日読んだ桐野夏生の抱く女もそうでした。村上春樹の専売特許ではないので同時代で聴いている音楽をBGMでもっと文中に使って欲しいです。

 読んでおいてよかった。川上未映子いいです。

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