田部京子「シューベルト 4つの即興曲 作品90/作品142」


 シューベルトの音楽は癒しの音楽です。先日亡くなった名指揮者ジュリーニも「シューベルトにやさしさを見出す。現代において我々はシューベルトを必要としている」と言っていたようです。
 未完成交響曲や歌曲で親しんでいたシューベルトもソナタがいいなあと思えるようになりました。よく言われるように、ベートーベンのような構成力に欠けるところはありますが、それを補って余りあるとても叙情的で、清々しい音楽に惹かれます。

 シューベルトのピアノ音楽だと後期のソナタ18番から21番がいいです。それに加えて、ご紹介する2つの即興曲集がとてもメロディが美しくやさしい音楽です。

 世評の高いピリス、ルプーも勿論いいです。こういうヨーロッパ系のピアノの天才の音楽を聴くと、タッチの上手さは当然なのですが、歌があるよなあとシミジミ思います。楽譜から音楽を再生させる際に歌わせることができるかどうか、特にシューベルトでは歌のあるなしが聴いていてはっきりと分かってしまうような気がします。

 日本人のピアニスト、田部京子もとてもいい音楽を鳴らしていると思います。浜離宮朝日コンサートホールで聴いたシューベルトの18番も良かったですし、ディスクの19番もいいです。同年代なので応援しているところもありますが、瑞々しいタッチのシューベルトには共感できます。日本人アーティスト特有の音の暗さ、重さがなく、高水準の音楽だと思います。得意としているシューベルトやフランス音楽もいいのですが、迫力のあるベートーベンに加えてブラームスなんかもこれから聴かせてほしいです。

 愛好家の立場では、どうしても本場ヨーロッパ勢のアーティストによるディスクを買うことが圧倒的に多く、日本人によるものはほんの一部しかないのが実態です。これは競争の世界なので仕方ないのですが、水準の高い演奏を国内で直に聴けて、それをきっかけにディスクを買うという好循環がもっと多くのアーティストと愛好家の間で起こればよいと思います。
 もうじきデビュー盤が発売される五島みどりの弟のヴァイオリニスト五島龍などは一度テレビで聴いただけですが、歌心のある天才だと思います(ヒラリー・ハーンなどを聴くとこんなに若いのに…欧米の水準は高いなあと思ってしまいますが)。海外で認められるだけではなく、日本でも海外でも認められる本当の芸術家兼スターが誕生するのを期待したいです。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« スカイダイビ... アート・スピ... »