ORGANIC STONE

私達は地球を構成する生命を持った石に過ぎないのですから。

僕たちのアメリカ、僕たちの家族の町ニューヨーク:MIKAエッセイ (April.2013)

2013-04-19 20:52:45 | 音楽:MIKA
僕の母方の祖父は15歳の時、持ち物を背に乗せたロバと共にダマスカスを後にし、エリス島の移民検疫所に辿り着きアメリカで新しい人生とビジネスを築きあげた。父方の祖父はアメリカ外交官として中東で革新的な交渉を成立させるべく、出身地アトランタとアイビーリーグを後にした。20年後いくつかの国々を経て、僕の両親は5thアヴェニューの道を渡ろうと待っている時に出会い、その一週間後に婚約したんだ。一番上の姉が生まれるとすぐ彼らはフランスへ越し、その後僕の出生地となるレバノンへ移ることになる。

最初から僕の母は僕たちをアメリカで育てないことを決めていた。彼女はアメリカが、彼女が育った頃の好きだったアメリカから変わってしまったと感じていた。強調される競争と富、どちらも彼女にはどうでもよいことだったんだ。でもアメリカに暮らすことが無かったにも関わらず、いつもアメリカは僕たち兄弟姉妹の自意識の一角を占めていた。僕たちのアメリカ、僕たちの家族の町ニューヨーク。それはクラスメートの誰とも共有されることのない感覚。僕が育った頃のヨーロッパはアメリカ人に対する「太っていて馬鹿」「金持ちだけど卑しい」みたいな偏見が根強かったんだ。今や状況は変わり、反米感情は穏やかになってきている。なぜ昔あれほどアメリカを馬鹿にしていたクラスメートが今、大挙してアメリカへのビザ発行を待ってるのだろう、アメリカはあの頃より好かれる国になったってこと?

アメリカは控えめになった。2つの国での11年にもわたる軍事活動はアメリカの自信を打ち砕き、自らの「自由世界を守る番人」という立ち位置を再確認することを強要された。同じ頃、内政的には最大の経済危機が起こり、人々は家や仕事を失った。それとは正反対に急成長を遂げる中国。アメリカは世界を引っ掻き回しただけのように見えた、それがアメリカを気落ちした控えめな態度へ変貌させたのだろう。傲慢さが失われた結果、ヨーロッパの人々はアメリカの良い部分に目を向けるようになったと言える。世界が中国と言う新たなターゲットを見つけたということかもしれない。

アメリカは回復しつつあるように見える。失業率は改善され、経済は成長回復の兆しがうかがえる。それはヨーロッパと比べれば確かで信頼できる状況だろう。2030年にはアメリカのエネルギー自給率は100%になると計算されている。それはアメリカ外交上大きな分岐点となるはすだ、特に中東との関係において。

アメリカはもう完全無欠のチームじゃない。かつては自由のためにソビエトと戦う国、911以降でさえジョージ・ブッシュ曰く悪の枢軸と戦うという良いイメージがあった。こういったイメージは多くの人々にとって如何にも単純過ぎて見え、アメリカを無条件に肯定する人々は無知なカウボーイと揶揄された。今では相手と同等に自尊心を保ち、自らを不完全に見せることは流行といっていい。テレビや映画を見ると、チームアメリカからファミリーガイに至るまでアメリカは自分自身を物笑いのネタにすることも厭わないように見える。80年代のテレビではそんな事考えられなかった。オバマのスピーチにあったのかそれともHOMELANDのエピソードの一つにあったのか、国の失敗を潔く認め、それを補うために努力する新しいアメリカというイメージ。控えめな、しかし結果としてより賢くなった改心した道楽者のこの国は再び世界に受け入れられるようになった。しかし新たにブランディングし直されたアメリカは昔の価値を取り戻したに過ぎない・・・柔軟性と自己向上力はアメリカンドリームの核なんだ。2~30年後アメリカは全く違った国になっていると僕は確信している。たとえば僕の生きている間にヒスパニックの大統領を見ることが出来るんじゃないかとか。再び傲慢な信念を振り回す国に戻らないで、人々を魅了し続ける国であり続けて欲しい。1930年代、遠くシリアからその岸辺へ祖父を惹きつけたように。

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