フラワーガーデン

ようやく再会したハルナとトオル。
2人の下す決断は?

遺稿のパスワード

2006年02月28日 13時38分37秒 | 第13章 思愛編
前門の狼……後門の虎……
一難去ってまた一難……

古来の賢人は、きっと僕の今の窮地を数百年も前に予見して、警告してくれたのかもしれない。

さり気なく、さりとて重要なプライバシーを告白してくれたトーマスの勇気に背を向けてここを後にする気にもなれず、身の危険を感じつつも僕は彼の部屋へと入った。

良く整理された本棚と、ベッドとコンピュータの乗った机以外、何の生活感もない素っ気無いその部屋を僕は軽く見渡した。

「適当にその辺に座って下さい」
トーマスがベッドではなく床を指差したことにほっとして、僕はラグマットの上に腰を下ろした。

彼は机の上のコンピュータの電源を入れると、くるりと僕の方を振り返った。

「Mr.フジエダ。えっと、……呼び難いから『トール』と呼んでも構わないかな?」

僕は、「どうぞ。トーマスの呼び易いように」と営業スマイルを湛えた。

「そうですか。では、僕のことは良かったらトムと呼んで下さい」
僕は頷き、同意を示した。

「では、トール。実は、父さんは自殺する前日に、リビングでパソコンの前に座って『終わったんだ。これで解放される』と言いながら暫く天井を見つめていたんだ」
と、言いながら親子の共有フォルダをダブルクリックして、僕にそのフォルダの中にあるファイルを見せた。

そこには雑誌にシリーズとして公表されなかった第2回目以後の遺稿と思しきファイル名がずらりと並んでいた。
しかも、ファイルの最終更新日は彼が自殺する前日になっていた。

「これはすごいな……」
僕は唾をゴクリと呑んだ。
「開けて貰ってもいいかな?」
僕は興奮のあまり、知らず知らずの内に彼の肩に手を掛けてしまっていたことに気付き、慌ててその手を離した。

「勿論、見せて上げたい所なんだけど、パスワードが掛かっててね……」
彼はダブルクリックして見せ、
「ほら、開かないんだ」
と、お手上げのポーズをした。

僕は深く溜息を吐くと、「何かパスワードを解除できるヒントはないかな?」とトムに語り掛けた。

「ん~。父さんは良く、自分の好きなモノや大切なモノの名前をファイル名にしていたからなぁ~」
彼はカチャカチャとキーボードに指を躍らせ、思いつくままに聖書の単語や、以前飼っていたペットの名前とかを入力した。

「ヤレヤレ、お手上げだね……」
3時間もするとトムは次第に疲れたのか、「finish」「final」「release」と言った単語を打ち始めた。

僕は腕を組み、じっとパソコンの画面を見つめながら、
「まさか……。いや、案外、そうかもしれない……」
と呟くと、一つだけ試していなかった単語を口にした。

「トム!『Thomas Ketchum』と打って貰えるかな……」

トムは「ははっ。こんな重要な書類に?有り得ないよ、それは……」と笑った。

果たして、ファイルは全て開いた。

トムの頬には、一筋の涙が伝い、彼はじっと画面を見つめると「父さん……」と呟いた。



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