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好きな画家 その2~ディエゴ・ベラスケス

2008年08月04日 | Monolog
まだ本物を目にしたことはないけれど、いつかは必ず見たいと思っている絵画はいくつもあり、その中でも筆頭に近い存在が、ディエゴ・ベラスケスの「ラス・メニーナス」。
言わずと知れた世界三大名画のひとつですね。

ベラスケスは大好きな画家です。
いかにもバロックというドラマチックな写実性も、ため息が出るほど見事ですが、やはり最大の魅力は、あの魔法のようなタッチでしょう。
小さな画集ではよくわからなかったのですが、実物大で印刷した美術本で見た時に、はっきりとわかりました。

目の前30cmばかりで見ると、それは具象画というより抽象画に近いものです。大きな画面に飛び散った絵の具のシミ。輪郭線もなく、素早い筆の動きが生のまま残されています。
ところが本を壁際に置いて徐々に遠ざかっていくと、ある距離に達したとたん、単なる絵の具のシミが一瞬にしてリアルな質感を持ち、ひとつの像となり、この上ない具象画として胸に飛び込んで来ます。
ハッとするほど魔術的で鮮やかな感動。
それはニ百年後に現れる印象派の筆触分割をはるかに超えたものです。たとえば偏執的な計算をして色をキャンバスに配置していったスーラも、結局は表面的な色彩の世界で右往左往していたに過ぎませんが、ベラスケスの深さは、その卓越したタッチを、絵を描き上げるための単なる手段としか考えていなかったところにあります。
言い換えれば、ベラスケスの独特なタッチは対象を深く描写し作品の芸術性を高めるために有効なものですが、それ以上に自己を主張することはないのです。

その証拠に一瞬にして網膜上に結ばれた像からは、それが人物ならその背景に、その性格・趣向、さらには人生までもが浮かび上がってきますが、同時にタッチの異様さは画面からきれいさっぱり消え去っています。

絵画とは、たとえば写真とは全く違うもの。
絵の具や筆やキャンバスなどという物質と画家の卓越した技術と精神性が融合した創作芸術です。
写真は写真家が目の前にある光の情報を切り取ったり味付けしたりしながら作品を創り上げるものですが、絵画は画家が視覚イメージをもとにゼロから創り上げるもの。
現実を素材にして彫りこんでいく彫像と、幻想を素材に創り上げる塑像ぐらいの違いがあります。
ベラスケスの作品を見ると、そんなことを思ってしまいます。
だからベラスケスは「画家の中の画家」と呼ばれるのでしょう。

光の扱いが得意な画家、フォルムを捉えるのが上手い画家、色彩感覚の優れた画家、構成力が群を抜いた画家、細密描写に長けた画家など、それぞれの分野を見れば名人的画家は数多くいますが、それらすべてを兼ね備えた上に高い精神性を感じさせ、なおかつ誰も真似できない独特のタッチを持つ画家といえば、まず第一にベラスケス。
そのぶっ飛び方は尋常ではなく、まさに天才としか言いようがありません。(初期の作品は伝統的なタッチで描かれていますが、それでも作品の迫真性は飛びぬけています…)

スペイン美術を特徴とする長崎県美術館は、プラド美術館と特別な提携関係にあり、日本ではここでしか買えないというプラド美術館のミュージアムグッズなども売っているのですが、その縁でぜひとも「ラス・メニーナス」の特別展示をやってくれないかな…と夢想したりしますが、サッカーのワールドカップで日本代表がスペイン代表に勝って優勝する方が簡単かも。

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