最近、マイクロソフトは盛んにエンタープライズシステム(基幹システム)に関しての発表を行っている。これまでマイクロソフトはワードやエクセルに代表される、いわゆるエンドユーザー、つまりPC周りの分野を中心に事業を展開してきた。ところがここにきて、盛んにエンタープライズシステム、すなわちサーバー周りの事業について積極的取り組みを強めようとしている。例えば、今話題の企業の内部統制についても本格的にサポートすることを表明したばかりだ。また、インテルと共同して仮想化技術の開発、BMCソフトと共同でITILを提供、ストレージ大手のEMCとの提携強化、同志社大学とHPC(クラスターシステム)を共同開発する。さらに、CRMやERPについても自社製品を市場に提供していく。CRMはまだしもERP市場にこれから新規参入するということは、エンタープライズシステムについての並々ならぬ決意が感じられる。ERPは先行するSAPやオラクルが既に市場を握り、これから参入する余地があるのだろうかと考えてしまうが、SAPやオラクルはあくまで大手企業向けERPに強いのであって、中堅・中小企業向けとなるとこれから本格的に市場を開拓しようとしているわけで、これならば、マイクロソフトがこれから参入しても勝機は十分にある。あるどころか戦略いかんでは、ワードやエクセルに迫るようなヒット商品を打ち出せるかもしれない。
日本市場を除き、世界的に見ればエンタープライズシステムは、IBMがそのほとんどを握り、その周りにユニシス、HP、サンなどが存在しているのが現在の平均的姿である。つまり、メインフレームとUNIXがエンタープライズシステムを支えているといっていいだろう。IBMがエンタープライズシステムにに強いのは、メインフレームのお陰である。ユーザーはいったんIBM機を導入すると、その後もIBM機を使い続けなければならない。もし、メインフレームを捨てようとすると、それまで、築いてきたソフト資産をどぶに捨てなければならなくなるからだ。しかし、この圧倒的強さを誇っていたメインフレームも先行きに暗雲が垂れ込め始めてきた。その一つがユニシスの業績悪化だ。ユニシスはNECに助けを求め、現在、業績の建て直しに取り組んでいる。しかし、業績の建て直しは、極めて難しいとみられる。それはメインフレームが徐々に市場から姿を消しつつあり、このことがユニシスを直撃したことが原因だからだ。
それではIBMはどうかというと、最近IBMのサミュエル・パルミサール会長兼CEOは、盛んに05年の粗利益率が04年に比べ4ポイント上昇したことを強調する。ところが、05年の売上高は逆に04年に比べダウンしているという事実がある。経営者の責任は株主に対し、いかに利益を還元できるかに重点が置かれる米国では、利益に注目が行きがちである。短期的利益はいろいろな経営手法で実現できる。ところが売上高はそうは行かない。IBMの売上げが落ちたのは、日本IBMの業績不振も影響しているだろう。しかしもっと深刻なことはメインフレームが全世界的に減少していく中で、IBMの売上げがダウンしたことだ。今後この傾向が続くと、IBMの売上げも徐々に下降線を辿ることになる(一時的な業績回復は見込めるにしても)。時を同じくしてマイクロソフトがエンタープライズを強調し始めたのは、単なる偶然の一致だけであろうか。私は戦略家のビル・ゲイツが、メインフレームの消滅=IBMのメインフレーム事業の消滅ととらえて、この時とばかりIBMに挑戦状をたたきつけたと見ている。その裏づけとなる現象が最近日本市場で起きた。
あまり、マスコミでは取り上げられていないが、日本のマイクロソフトが最近ある発表を行った。それは、マイクロソフトとCSKグループのSI企業のANTが、エンタープライズシステム市場の需要拡大に対処するために協業関係を大幅に強化し、これに対応してANTの社名を「CSK Winテクノロジ」に変更するというものだ。そして、2年後には技術者500人体制を整え、売上高100億円を目指すという。CSKといえばIBMとの関係が深く、長年にわたりエンタープライズシステムのノウハウを蓄積してきた。そのCSKのグループ企業がマイクロソフトと手を結び、今度はWindowsでエンタープライズシステムを構築しようというのである。マイクロソフトは居ながらにしてノウハウを手に入れることができるわけで、なんだかビル・ゲイツの高笑いが聞こえてきそうだ。今後、マイクロソフトは、サーバーメーカーと組み、IBMの牙城のメインフレーム市場になだれを打って攻め入るであろう。その時IBMはメインフレームとともに敗れ去るかもしれない。ユニシスのように・・・。そして、WindowsとUNIXの後継OSのLinux(OSS)との間で、最後の決戦が繰り広げられることになろう。
(ossdata)