著者はポーランド出身、フランスの歴史学者。これは「ヨーロッパ」という概念に纏わる歴史を描いた本である。この本で描かれているのは、ヨーロッパの3度の統合と、2度の分裂である。
著者によると、12世紀ごろにヨーロッパは統合され、一つの地域としての纏まりができてきたという。このときヨーロッパというのはラテン・キリスト教世界と同義であった。ラテン・キリスト教世界たるヨーロッパは、イスラム勢力に対して一つとなることが求められ、宗教的な統一が形成されていったのである。このラテン・カトリック文化を基盤とした統一は16世紀まで続いていく。
このヨーロッパの最初の統一はなぜ崩れたか。著者はその答えを宗教改革に求める。17・18世紀には宗教改革が進み、ヨーロッパの地域の中でもカトリックを信奉するところとプロテスタントを信奉するところに分裂した。これまではイスラムに敵対しつつ、カトリックとして纏まりのあったヨーロッパに分裂の時期が訪れたのである。
しかし、ヨーロッパは分裂したままでは終わらなかった。当時のヨーロッパの知識人は依然として「スコラ」と「人文主義」の柱のもとに立っていたのである。著者は「文芸共和国」という概念を用い、17世紀・18世紀のヨーロッパにおいてもパリを中心とした文芸的に統一されたヨーロッパが存在していたということを明らかにしようとする。ガリレオとラプラスの間、知的な交流はこれまでの歴史にはなかったほどに活発となり、ヨーロッパを学問的な面で統一した。
この第2の統一は、近代ナショナリズムによって崩壊する、というのが著者の論である。イギリス・フランスといった先進国が先頭に立ち、近代国家が台頭してくると、ヨーロッパ単位で物事を考える習慣が薄れ、国家が一つ一つ独立的に存在するようになってきた。国家単位の民主主義、国家単位の産業が、ヨーロッパの分裂を加速させた。もはや、カトリック的なヨーロッパも、文芸的なヨーロッパも存在しえなくなっていったのである。
著者は第3の統合の可能性として、EC・EUを挙げている。この本は1990年に書かれた。著者はソ連を含めた統一的なヨーロッパを想像していたようだ。近年になって付加されたあとがきでは、著者がソ連崩壊後、EU内部に存在する分裂を指摘しつつ、EUの可能性を冷静に叙述している。著者はEUに期待をしているようだが、無批判にEUを信奉しているわけではない。単なる国際機構以上のEU.そのEUが今後どのような統合をもたらすのだろうか。