origenesの日記

読書感想文を淡々と書いていきます。

藤田勝久『項羽と劉邦の時代 秦漢帝国興亡史』(講談社選書メチエ)

2008-03-02 18:28:31 | Weblog
横山光輝のマンガなどで日本でもお馴染みの項羽と劉邦の物語は、司馬遷の『史記』に端を発する。秦は陳渉・呉広の乱で弱体化し、楚の項羽によって滅ぼされる。劉邦は農民出身でありながらも、その類まれなる才能で楚漢戦争に勝利し、古代帝国である漢を築き上げることになる。しかし現代の歴史学者から見ると2つの不思議な点がある。
1なぜ秦帝国は早く滅亡してしまったか
2なぜ農民出身の劉邦は項羽に勝つことができたのか
1に関しては、始皇帝が法家を採用して厳格すぎる政治を行ったということと、人身を犠牲にして万里の長城を建築したことで人々の信頼を失ったということが理由としてはまず挙げられる。著者はもう一つの理由として、秦のシステムと楚のシステムの齟齬というものを挙げる。秦の西方的統治制度と楚の東方的統治制度。秦帝国は楚を制定し、この西方的統治制度を東側にも敷いたが、しかし楚の東方的統治制度を完全に押さえきることはできなかった。楚はやがて復興し、秦を滅亡させることとなる。
楚漢戦争における漢は、秦がかつて持っていた西方的統治制度を復権させようとはした。しかし、漢は秦のように武力で強引に制定するのではなく、各地の地方社会を統合し、長安を中心に纏め上げることを狙った。郡県制と儒教的な封建制を組み合わせた郡国制を高祖劉邦は開始したが、東方の者にも寛容な態度を持ち、褒賞を与えるなどしてうまく懐柔していったという。地方出身の者を宥めたのだ。ここに漢の劉邦の政治的な才能を見て取ることができる。

『始皇帝暗殺』

2008-03-02 18:07:39 | Weblog
チェン・カイコー監督の1998年の映画。
暗殺者として生き、悩んだ末に始皇帝暗殺を計画する燕の荊軻。
始皇帝の正妻でありつつも荊軻に惹かれる趙姫。
中国統一のために趙を惨たらしく征服していく秦の政。
この3人を中心とした映画である。
全体的に京劇を想起させるような華やかで艶やかな舞台が設置されており、ハリウッドの歴史映画とは一味違った幻想性が魅力的だった。チェン・カイコーは赤の使い方が実に上手いと思う。
配役に関してだが、コン・リーが趙姫を演じている。チャン・イーモウの『赤いコーリャン』や『秋菊の物語』でお馴染みの女優だが、今回の役どころが一番美しいなと感じた。荊軻を演じるのは『覇王別姫』のチャン・フォンイー。なお、秦の宰相である呂不韋を演じているのはチェン・カイコー本人である。