origenesの日記

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岡野宏文・豊崎由美『百年の誤読』(ぴあ)

2008-12-19 18:46:45 | Weblog
徳冨蘆花『不如帰』以降の近代日本のベストセラーについて2人の批評家が語ったもの。『不如帰』、風景描写で有名な国木田独歩『武蔵野』、近松的な悲劇である尾崎紅葉『金色夜叉』、女学生小説の走りである小杉天外『魔風恋風』、神秘主義的な奇書・岩野泡鳴『神秘的半獣主義』、SF小説の草分けである押川春浪『東洋武侠団』(彼は東北学院の創立者・押川方義の息子である)、漱石の門下である長塚節の『土』、一人の女性の悲劇を描く藤森成吉のプロレタリア戯曲『何が彼女をさうさせたか』と明治期以降のベストセラーについて、縦横無尽に語っていく。森鴎外や志賀直哉といった大御所の作品に対しても批判をしている。
当時のベストセラー『魔風恋風』は女学校を描いた作品として、石坂洋二郎の『青い山脈』の先駆ともなる小説であったと言える。明治期も戦後の昭和期も意外と日本の大衆のフィクションに関する好みは変わらなかったのかもしれない。
『何が彼女をさうさせたか』は一人の女性の数奇な運命を描いた戯曲であり、筋書きだけ読むと野島伸司の『家なき子』に近いような印象を受ける。著者は小林多喜二と同世代のプロレタリアの文学者であり、女性差別・労働者差別に対する紛糾が作品創造の原動にはあったのかもしれないが、しかし作品の外面だけ見ると、『家なき子』や『嫌われ松子の一生』のような日本人好みのメロドラマである。
当時の社会状況をかんがみながらベストセラーについて語っていくスタイルをとっているので、明治~昭和初期までの話は面白かったが、1950年代以降になると目新しさがなくて退屈に感じた。『チーズはどこへ消えた?』や『セカチュウ』などを語られてもなあ……。石原慎太郎・曽野綾子・三浦綾子に対する厳しい批判も個人的にはそれほど面白いとは思わなかった。
本書でユーモア小説の傑作として、ジェローム・K・ジェロームの『ボートの3人男』、ケストナーの『消え失せた密画』、『雪の中の三人男』などが挙げられていた。この辺は読んでみたいと思う。特にケストナーは高校時代好きだったので。

1 コメント

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2人の著者タイトル類似で (Unknown)
2011-11-30 09:34:15
ケストナー 3人 ボートの ジェローム---で検索中、感謝。
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