道 (真理)

道は須臾も離るべからざるなり 離るべきは道にあらざるなり

観音菩薩伝~第1話 王妃、不思議な夢を見られる

2016-06-21 17:29:43 | 観音菩薩伝・観音様

2015年1月18日

観世音菩薩は西暦紀元前二百五十年頃「興林国」の第三王女「妙善姫」として誕生されました。第一王女は妙音姫(みょうおんひめ)のちに成就して文殊菩薩となられ、そして第二王女は妙元姫(みょうげんひめ)のちに普賢菩薩となられました。

観音菩薩伝をご紹介させていただくにあたって、一般に観音菩薩が実在したことがあまり知られていないことがありました。キリスト意識世界でマリア様の存在と同じように、東洋では観音様が女性意識に深く根付いていてその神聖が発揮されています。観音意識(思いやり)・文殊意識(智慧)・普賢意識(勇気)の女性性を引き立てる姉妹愛はやがて相互に感応して聖なる世界の中心的役割をなしてゆきます。

ご承知のようにサンジェルマンとクワンイン(Kuan Yin:観音)は東西を越えて世界の金融経済や統治を見守っています。また後に詳しくお伝えしますが、釈迦3000年(釈迦生誕の紀元前1092年~紀元1900年位まで)の治世のように世界の平和と「一なるもの」の実現については弥勒菩薩と観音菩薩が正・副でその盟主を担っています。

PAOの Kuan Yin 像

観音菩薩伝

第1話 王妃、不思議な夢を見られる

 西暦紀元前二百五十年頃、西域諸国の東南に興林国という いたって泰平な国がありました。この国は峡谷と絶壁によって周囲を閉ざされた高原地帯にあり、この地層は数千里も延々と続いていました。気候は比較的温暖で、国の東南には遠く須弥山の諸峰が峨々と聳え、その頂は年中雪に覆われていました。この連峰の東側は、現在の中国に連なっています。

 当時の中国は周王朝の末期で、秦・斉・魏・燕・楚・衛・韓・趙の列国が覇を競う戦国時代でした。また遙か東北の彼方では、匈奴(きょうど)が虎視眈々と中央進出の機を窺っていました。

 西南に位置する天竺(てんじく。今のインド)はマウリア王朝の時代で、周辺地域の侵略と征服に暴威を振るっていたアショカ王が、自分が冒してきた諸悪業の非を悔い、仏陀の教えに帰依し始めたころのことです。

 また遠く西の彼方では、アレキサンダー王朝が崩壊して、シリア、トラキア、エジプト、マケドニア、ギリシャが互いに勢力を争い、更に西方ではローマ王朝の勃興期に当たっていました。したがって当時は天下を挙げて兵荒・戦禍が絶えることなく、あらゆる地域で争奪と横暴が繰り広げられ、世風・倫理は極度に頽廃し、道徳はすっかり地に落ちてしまいました。その上至る所で旱魃・洪水・疫病が猛威を振るい、世人は塗炭の苦しみに喘いでいました。

 興林国は霊山幽谷に守られていたため諸外国の侵略を受けることもなく、あまつさえ歴史は古く、開化も早かったこともあって、周辺諸国の中では最も文化が進み、群邦の領袖として慕われていました。

 国王の姓はバキヤですが名号は「妙荘王」と称し、賢明な高徳者でした。三万六千里の国土を持ち、数十万人の忠実な良民を領していました。土地は肥沃で気候は温暖、比較的人口は少なく、外敵の憂いが全くなく、しかも穀物は豊かで果実は至る所によく実っていて国は富み栄えていました。男は耕作、女は織物を主としてみな勤勉に職を営み、慈愛深い王と共に日々の生活を楽しんでいました。

 王妃の名はパイヤ、宝徳妃と称し、才色兼備で貞淑、そのうえ聡明で謙譲の徳が高く婦道の模範とされていました。常に夫君妙荘王の良き相談相手であり、内助の功に厚かったので、妙荘王は王妃を心から敬愛していました。

 王夫妻の間には二方の姫宮がおられましたが、惜しいことに太子には恵まれませんでした。姉姫は妙音姫、妹姫は妙元姫と呼ばれました。しかし妙荘王は太子を欲しがられ、王妃と二人きりになると、いつも寂しがっていました。その王の心中を察すると王妃はいつも辛い気持ちで一杯になるため、髪には白いものが目立つようになりました。既に壮年を過ぎていた妙荘王は、後嗣のことを考えると政治も手に付かず、朝な夕なに嘆息する日々が続きました。

 ある年の四月のある暖かい日のことです。御苑内の池の蓮華が一斉に開花して芳しい香りを辺り一面に漂わせ、小鳥は美曲を囀り、百花は今を盛りと咲き誇っていました。妙荘王が悶々の心を晴らすため花園へ散歩に出て石台に座り見事な万朶の睡蓮を眺めていると、自然と気も軽快となり、心のもやもやも消え去りいつの間にか時の経つのも忘れていました。このとき人の気配を察して後を振り向くと、宮女を従えた妃パイヤ・宝徳后が微笑を湛えて立っていました。
「何時の間に来られたのか」

そう言いながら妙荘王は、静かに立ち上がりました。
「王様が余りうっとりと花に見とれておられたので、声を掛けるのを遠慮しました」
 王妃は妙荘王を見て、にこやかに笑いながら「お疲れでございましょう」
 王は王妃の顔を気遣わしそうに見て

「いや、蓮の花を眺めていたら、急に気分が爽快になった」
 妙荘王がそう言って裾に掛かった花弁を軽く払ってゆっくり歩き出したとき、宝徳后は突然
「王様に占っていただきたい事がございますが…」
「如何なる事か」
 妙荘王は、訝しそうに踵を返しました。
「昨夜、私は不思議な夢を見ました。いくら考えても、私には判断出来ません」
 王妃は、ちょっと首を傾げて話し掛けました。
「向こうの涼亭の椅子に腰を掛けて、ゆっくり話を聞こう」
 そう言いながら妙荘王は、先になって歩き出しました。
 涼亭に入ると、暖かい風が肌身を撫でて心地よい気分に打たれました。王妃は言葉を続け、
「私が夢の中で一面茫々とした果てしない海原に立っていたとき、突然海底から轟音が響き、瞬く間に海水が真っ二つに割れたかと思うと、その間から一枝の白い蓮華が忽然と湧き上がってきました」
 王妃は、瞬きもせず妙荘王の顔を見つめたまま話し続けました。
「初め海面に現れたときは普通の蓮華でしたが、水面から出た蓮華は見る見るうちに大きく伸びて、急に金色の光に変わりました」
 妙荘王は、興味深く大きく頷いて、眼で先を促しました。
「あまり眩いので、とても目を開けておられません。暫くして目を開けてみますと、どこにも蓮華は見当たりません」
 王妃は、一息吐いてから、想い出すようにして話し続けました。
「すると前方にいつの間にか一座の神山が聳え立っており、山の上は縹渺として沢山の楼閣が見えました。頂上には鬱蒼と繁茂した樹木、空には珍鳥が飛び交い、天竜、白鶴が静かに妙なる楽の音に聞き入っていました。また、南の方角には一座の七宝の塔があり、塔の上には一個の明珠が安置されていました」
「全く不思議な話だ」
と妙荘王は、王妃の話にすっかり魅了されてしまいました。
「その明珠は、千万条の色とりどりの光を放っていました。私はその荘厳さに打たれ、身じろぎもせずその光を見つめ、自分の身も心もすっかり忘れてしまったほどです。やがて明珠は、ゆっくりと空に舞い上がったかと思うと瞬く間に転じて太陽と変わり、上へ上へと上って行きます。暫くすると、それが私の頭の真上に懸かって参りました」
 熱心に話される王妃のお顔に、一瞬恐怖の色が過ぎりました。
「するとその太陽は、一声大きく鳴り響き、私の懐中目掛けて落ちて参りました。私は驚き慌てて急ぎ逃げようとしましたが、両足が根の生えたように動きません。必死になって藻掻いているとき、パッと目が覚めました」
 王妃は、冷や汗を流しながら、怯えた表情で語りました。
「不思議な夢だ」
 妙荘王は、もう一度同じような言葉を繰り返し、腕を組んで考え込んでしまいました。
「普通の夢ではない」
 と呟きましたが、何か思い当たることがあるのか、心から喜びが湧いてきた様子でした。
「この夢はどんな兆しを示しているか、ご判断が付きましたか」
 王妃は座り直して、真一文字に結んだ妙荘王の口許を見つめました。
「これは正夢で、大吉の兆しと思う。御身の見た景色は、仏国の極楽に違いあるまい。凡人では、とても見られるものではない。あの明珠を仏門では舎利と言い、智慧・聡明の象徴であり、太陽と変わったのは「陽」すなわち「男」を表す。懐中に落ちたことは、懐胎したことを意味する。御身は、この夢を何の意味と思われるか。余の信ずるところ、これは当に懐胎の知らせで、太子が生まれるに相違あるまい。真に喜ばしい吉兆の夢だ」
 妙荘王は喜びを抑えきれない様子で立ち上がり、石卓の周囲を何回かゆっくりと廻られました。王妃はこの判断を聞いて、限りない幸福感に包まれました。


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