
「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」(2003)
脚本は、ジェフ・ネイサンソンが書いた。彼は、5年間の年月の出来事を2時間に集約させた。上手い脚本家である。それもそのはずUCLAを卒業後にアメリカ映画協会の脚本プログラムに入学し、「シンドラーのリスト」の脚本家スティーブン・ザイリアンのもとで修業を積んでいる。
また、美術を担当したのがジャニーニ・オッペウォール。ロケ地、セットとも多い作品のためこの方の功績が大きい。過去の作品には、「マディソン郡の橋」やオスカーにノミネートされた「L.A.コンフィデンシャル」「カラー・オブ・ハート」がある。
母は別の男と付き合いはじめ、父は事業の失敗から端を発して両親が離婚。そのショックから家出をする。口先の上手いところを利用して21歳までに400万ドルを稼ぐ詐欺師フランクと彼を追うFBI捜査官カールの実話に基つ゛くコミカルでスリリングな追跡劇。
父母が仲良くなって欲しいがために犯罪を繰り返す主人公の哀しい姿を童顔を利用してディカプリオがうまく演じている。
それ以上に素晴らしいのは、捜査官カールとの友情に近い関係からやがて親子に近い関係になることだ。その背景には、おたがいが孤独な人物であるからだ。カールは、離婚して娘と離れ離れになっている。彼は、そんなこともあってフランクに自分の子供のように接し犯罪をやめさせ更正させようとする。クリスマスの夜、1人仕事を続けるカールにバリー・アレンだと名乗る人物から電話がかかる。実は、フランクである。彼も両親の離婚で心が傷つき寂しい思いをしているのだ。ここは、心の交流が育まれるとてもいいシーンだ。カールが父親的存在として変化してゆく姿に救いを感じる。
また、ディカプリオ以上にこのカール役を演じたトム・ハンクスの演技が素晴らしい。厳しく堅物な捜査官カール、フランクを追い捕まえることに執念を燃やす職業人を「プライベート・ライアン」のように抑えた演技を披露し、そして、しだいにフランクと交わす温かい心の交流を繊細に演じているところは天下一品。
暗い作品が続いたのでこの作品に取り組んだスピルバーグ。それは、ライティングにも現れている。「シンドラーのリスト」を撮ってからずっと暗いライティングの作品ばかりだった。題材がそうさせたのか、スピルバーグの社会を見る目、気持ちが、暗く、冷たく、冷めたものになっていたのかわからないがとにかく10年間ほど以前の作品のように明るいライティグの作品が無く個人的にはどこか希望のある作品を作ってくれてはいるが、心が晴々しない感を強くしていた。しかし、この作品は、フロリダのマイアミをドラマの舞台の一部としていることもあってこのマイアミの南国の夏のシーンに象徴されるように明るいライティングで撮影しているので気持ちも明るくなりわくわくする。
少年を偽造小切手を操る天才詐欺師にしたものは、父、母。自分の居場所を求める少年の心の旅。16歳から21歳までの5年間の経験。この時期は、多感な時期でありスピルバーグの人生とだぶる。ちょうどこの頃の彼は、映画作りに熱中した時期であるが両親の離婚を経験し、夢であった映画監督の第一歩を踏み出す頃。彼の居場所は、もちろん「映画」であった。60年代が舞台のスピルバーグの少年時代と同じ。アバグネイルのベストセラー。早撮りで有名なスピルバーグらしく撮影は、ロス、ニューヨーク、カナダのモントリオール・ケベックなど140箇所以上を56日間で行った。古き良き時代へのノスタルジアがある。
ファースト・タイトルは、ソールバスのようなアニメーションを使ってこれから始まるストーリーをわかりやすく説明している。イキな演出だ。フランクが移動する場所がよくわかりバックにはジョンのジャズ調の曲が流れる。いかにも60年代風の雰囲気が出ていていい。音楽に関しては、その他にも既成曲の効果的な使用が上手い。特に印象的なのは、LAのホテルにフランクが乗り込む場面でかかるボサノヴァの名曲「イパネマの娘」、パンナムのパイロットになりすましてフランクが、マイアミ国際空港から逃げる場面でかかるフランク・シナトラの「カム・フライ・ウィズ・ミー」は、陽気でうきうき気分にさせてくれる。
ディカプリオの着る衣装が素晴らしい。衣装を担当したのは、メアリー・ゾフレス。パイロット、医師、弁護士。私服もオレンジ、ピンクを前面に押し出したものを登場させ活気あふれる時代を表現している。
また、この映画は映画の醍醐味の1つであるいろいろな職業をしている人間の人生、アメリカ各地の景観を猛スピードで見せてくれる魅力がある。パイロット、医師、弁護士の仕事のさわりの部分がわかり、ニューヨーク、マイアミ、ニュージャージー、ハリウッドの景観を楽しみことができる。映画のラストでは、フランクが更生して明るく仕事をしているが、その職業が何なのかは見てのお楽しみだが、おもわず笑ってしまうが拍手を心から送りたくなる。
スピルバーグの少年時代の家族に対する想いをベースにした痛快な詐欺映画。それは、「E.T」と「スティング」をミックスした映画だ。
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