limited express NANKI-1号の独り言

折々の話題や国内外の出来事・自身の過去について、語り綴ります。
たまに、写真も掲載中。本日、天気晴朗ナレドモ波高シ

life 人生雑記帳 - 71

2019年12月05日 15時43分10秒 | 日記
月曜日、返しの作業室には、トーチカの如く製品の山が積上げられており、立錐の余地すら無かった。炉の前にも地板の壁が敷設されていて、“馬防柵”さながらの様相を呈していた。「言葉通りだな。こうで無くては困るんだ!」僕は思わず薄笑いを浮かべた。子細に調べて行くと、TIとRCAの金、銀、ノーマルのベースにキャップが主体である事が読み取れた。GEやその他の急ぎのロットは、まだ出て来て居ない。週末に休んだ分を取り返すべく、朝礼は省かれた。僕は、早速セッティングにかかった。「さあ、このトーチカをどう突破する?簡単に崩れはせん!」今村さんが陰から見て呟いた。「今度ばかりは、“信玄”も簡単に突き崩せはせん!白旗だろうな!」橋元さんもしてやったりの表情を浮かべて居る。だが、意外にも“安さん”は「橋元、下山田に“火曜日の夕方、川内行の便を手配しろ”と伝えろ!“信玄”は、既に見切った!水曜日の午前中、それもかなり早い時間帯に、総突撃で襲いかかって来るだろう!自陣に“信玄”を突撃させたく無ければ、“手を回せ”とな!」「まさか、2日半であのトーチカを突破すると?」橋元さんがあ然として言うと、「ヤツなら容易くやりおるだろうよ!確かに、数量はあるが急ぎのロットは皆無だ。これから“日追い”で繋ぐ予定だが、恐らくその前に“防衛ライン”を蹴散らすつもりだろう!ヤツの力を持ってすれば、如何に堅固な“要塞”でも弱点を突いて必ずや攻め落すだろう!俺からも、川内に煽りは入れて置くが、夢々油断するな!それと、これを見ろ!」“安さん”は1枚の紙を橋元、今村両名に見せた。「品証の“試験合格通知”ですか。これが何か?」「検査の女子陣も“信玄”の“騎馬隊”に組み入れられた!今週からは、誰が何を検査しても問題が無くなったのだ!検査にブツが溜まる事さえ無い!覚悟して置くんだな!検査からも矢や鉄砲が飛んで来るぞ!」「えっ!では、検査もフル回転が可能に?!」橋元さんが蒼白になる。「“信玄”めが!後工程の総力を結集して、追い込んで来るぞ!敵は“信玄”だけにあらず!“女武者”までもが、煽りに攻めて来るぞ!」「ゲッ!それでは、検査が切れるのも時間の問題ではありませんか!」今村さんも青ざめる。「ヤツは、完全に迎え撃つ体制を整えた!これからは、1ロット単位での攻防戦になるのだ!とにかく、急げ!下山田を煽れ!ここで蹂躪されたら、体制を立て直すのは困難になる!繋いで凌いで、次の大口が来るまで支え切れ!俺も徳永も“信玄”を止める手立ては持っておらんのだ!全体的には、先行して今月は進んでおる。“遅らせろ”などとは口が裂けても言えないのだ!」“安さん”も半ば青ざめていた。「ヤツは化け物か?!いつの間に、こんな体制を築き上げたんだ?」橋元さんが呆然と言うと「全ては+αを狙っての事。前月比30%の上乗せなど物ともせずに、前へ前へと進撃しておる。このまま京へ上洛されれば、我々の威信に関わる大事となろう!炉を挟んで後ろは、既に“信玄”の領国と化した。残るは、前だけなのだ。モタモタしておると、“武田の騎馬軍団”に縦横無尽に蹂躙されてしまう!お前達も“信玄”の軍門に下るか?」「いえ、我々は屈しません!」「最後の1兵となろうとも、戦い続けます!」薩摩隼人である橋元、今村の両名は戦う意思を示した。「ならば、どんな手を用いても構わん!“信玄”の進撃を食い止めろ!後、1週間持ち堪えれば、勝機はある!不眠不休で押し返せ!」「はい!」橋元・今村の両名は持ち場へ急いだ。「徳永、全体の進捗は?」「週末に休ませた分、追い付かれてますが、本日の状況に寄っては、再び先行に転じるかと」「小賢しいヤツめが!この調子だと“貯金”まで積んで来るだろう。ヤツの事だ、そのくらいの小細工は容易くやってのけるだろう。問題は、遅れているGE関係の製品だが、川内に“1ロットでもいいから寄越せ”と釘を刺して置け!どうやら、水曜日まで支え切るのは無理だろう。Yの頭の中では、既にプランが練り上がっているはず。1名やそこら欠けても、遮二無二進んで来るのは明らか!検査もフル回転で出荷に繋げるだろうし、徳田と田尾もその辺は読んでいるだろう。手綱は緩めんでもいいが、適当に見計らって引き締めてくれ!検査を切らせたらアウトだ!今週は、進捗から目を離すな!俺は、下山田と“対策”を練る。鍵はアイツの采配にかかっておる。しばらくは、整列に貼り付いているから、宜しく頼んだぞ!」「はい、しかし、凄まじい破壊力ですな。総突撃されたらそれまでの事。Yに“バランスを崩すな!”と言い含めて置きます」「多分、聞く耳は持たんだろうな。ヤツにとっては格好の餌に過ぎん!ある程度は、自由にやらせてやれ!次月以降の力試しにはなるだろう!」“安さん”も徳永さんもお手上げのポーズを取って、それぞれに歩き出した。僕は、セッティングを終えると作業に取り掛かった。「さて、やっと本気で突撃できるな!全軍が揃ったら総突撃開始だ!」出荷予定の早いロットからトレーへ返して行った。

「うわ!何よこれ!」「壁が出来てる!」午前8時を回ると“おばちゃん達”が三々五々に出勤して来ると驚きの声を上げた。「本日は、朝礼無しで直ぐに作業にかかって下さい!」僕が言うと「さて、本気出していいの?」「これだけを押し返すとしたら、大変だけどやっと“本来の力”を出してもいいよね?」と口々に聞いて来る。「基本Bシフト、金・銀ベース、キャップ優先。出力は各自の判断で!疲れたら、後続と交代して構いませんよ!」と言うと「はいな!ほんなら、全開で飛ぶよ!」と西田・国吉のご両名が先陣を切った。今日は、牧野さんがお休みなので、牧野隊は僕が指揮した。「やっと、本来の月曜日の感覚になって来たね」「見てなさいよ!前を煽ってあげるから!」嬉々として“おばちゃん達”が作業を開始する。“無敵の騎馬軍団”は臆す事無く前へ進んで行く。パワー全開で。先週末の鬱憤を晴らすかのように、地板の山に群がっては返して行く。トーチカに穴が開いた。これで、突き崩す足掛かりは掴んだも同然。後は、流れに任せて持って行けばいい!「Y、ノーマルベースにも手を入れてくれ!水曜日に出す分が足りねぇんだよ!」田尾が注文を入れに来た。「了解。切りの良いところで手を付ける。朝、確認した状況では、GE関係が全く無い。完全に“飛び込み”になるが、いつ来てもいい様に検査も開けて置けよ」「分かってるぜ!頭は、木曜日になってる。それまでにトーチカを突き崩せよ!」「明日の夕方には、目途が付く。水曜日になれば余裕で受けられる状態に持って行くさ!」「前が泣くだろうな。だが、遅らせる訳には行かねぇ。今日中には、先行させる方向へ持って行くぜ!」田尾が自信タップリに言って行く。「Y先輩、スポットの金ベースもお願いします。実習も兼ねて目通ししたいので」永田ちゃんも注文を付けに来た。「もう直ぐ、銀ベースが終わるから、そこへ入れるよ。頭は、午後でもいいかな?」「OKです!では、銀を処理して待ってます!ついでに申し訳ありませんが、空きトレーを置いて行きますよ」白い空きトレーが一山積み上がった。どうやら、正常な軌道に乗った様だ。しばらくは心配する事も無いだろう。切りの良いところで手を止めると、僕は炉の前を確認した。築かれた壁は全て炉に飲み込まれており、順調に推移している事が確認された。「どんなに堅固な堤でも蟻の穴から崩れるものだ。風穴は開けた。後は、追い込むだけだ!」“武田の騎馬軍団”を止められる者は居なかった。

火曜日の午後になると、先が見えて来た。“おばちゃん達”がパワー全開で挑んでくれた事もあり、進捗は順調に推移した。出荷も来週の月曜日分まで先行して計上され、検査も含めて“左団扇”の余裕が生まれつつあった。懸念されるのは、“飛び込み”だったが、磁器生産の遅れもあり、動きは全く見えなかった。さて、次の1手はどう打つべきか?僕は千絵に“矢文”を打ち込ませた。「“信玄”が進撃を止めた?何故だ?ヤツは何をしておる?」下山田さんは、“矢文”を見て自らを問い詰める。同僚からの報告が来た。「治工具の手入れを始めました。本日中の前進は見送る模様です!」「どうしたと言うのだ?“信玄”が追撃の手を緩めるなど、ありえん事だ!こっちは、明日からの猛攻に備えて着々と弾を用意しているのに!何を企んでおる?」彼は、こちらの真意を計りかねた。「下山田、“信玄”は手を緩めた訳では無いぞ!今晩、様子を伺い、明日の朝から一気に攻める算段を取ったに過ぎん!恐らく、GEを待っているのだろう。これは、即日出荷しなくてはならん代物。検査や出荷の体制を整えて、一気呵成に落としに来るぞ!」“安さん”はそう読んだ。「なるほど、それで治工具のメンテナンスか。GEに続くロットに対しての立て直しか!だが、これで一息付ける。おい!この隙を逃すな!半自動整列機も動かせ!立て直しを急ぐんだ!」下山田さんは、部下に次々と指示を出して作業を急がせた。「下山田、頭はいつ出る?“信玄”が止まった今こそ好機!こちらも馬防柵を立てねばならん!」橋元さんが、“矢文”を持って必死の形相で聞きに現れた。「夜勤の初め頃には出せます!しかし、“本隊”はどれだけ急いでも明日の早暁にズレ込みますよ。一旦は切れるのは覚悟して下さい!」下山田さんは釘を打つ。「むむ、手持ちと合わせてもギリギリだな。場合に寄っては、手が止まる。時間短縮は無理か?」「橋さん、GEを最優先で回して下さい!散発的にはなりますが、順次送り込みますから、出荷が絡んでいるヤツをお願いしますよ!そうしないと、“信玄”に蹂躪されます!向こうは、それが狙いなんですから!」「そうか!“信玄”が陣立てを整えているのは、GE以降を見据えた策か!」「橋元、手持ちを一気に片付けろ!GEは、是が非でも明日の午前中には、検査に回さなくてはならん!それと、後続の“本隊”の頭を如何に素早く回すか?これ如何によって“信玄”の動きも変わる!ヤツは狡猾にも、我々を“試して”おるのだ!小賢しいヤツめが!“本隊”の磁器を1日前倒しした事も読み切って、口を開けて待ち構えておるのだ!このままでは、多勢に無勢、“武田の騎馬軍団”の思うがままにされてしまう!下山田!一部の磁器を中ピン部門の整列工程に回せ!あっちの応援を受ける!橋元、今村に繋ぎを付けろ!今晩は、“フル回転で炉へ送り込め”とな!」“安さん”は薄笑いを浮かべて言い放った。「“信玄”めが、我々をここまで追い詰めるとは、いい根性だ!だが、こうでなくては、“見た事も無い景色”は見られはせん!我らも薩摩隼人!簡単には軍門には屈せんぞ!」言葉は激しいが、“安さん”の表情は和らいでいた。「半期で黒字化に持って行くには、こうでもせんと達成出来ん!」磁器を積んだ台車を押して“安さん”も手を打ちに動いた。

「中ピン部門の整列工程に磁器を持ち込んだ?」「ああ、どうやら、前を煽る手を打ちに動き出した様だぜ!」田尾の報告は、僕にしてみれば予想外だった。「半日は前倒すつもりか。そうなると、木曜日にはある程度の溜まりが来るな!」「Y先輩、前は“安さん”が指揮を執ってます!意地でも切らせないつもりですよ!」千絵が不安げに言う。「もう少し、様子を見よう!千絵、検査は通常通りで構わん。田尾、徳さんとGEを素早く回す算段を付けてくれ!このまま一気に押し切りたい!」「おっしゃー!最速でブンまわしてやるぜ!」勇んで田尾は準備に向かった。「治工具の整備完了しましたよ」エンジニアが言いに来た。「ありがとございます。これで、今月はノンストップで突っ走れる!問題は、どれだけの戦力を前が整備して来るか?だな。全力で飛ばせば蹴散らすのは容易だが、切らせない様にコントロールしなきゃならない。“急戦”から“持久戦”へ駒組を変えるしか無さそうだな!」「それって、“ペースダウン”するって事?」千絵の隣に神崎先輩が並んだ。「ええ、炉からの出具合、炉への入り具合を見定めて、午前中は飛ばしても、午後は検査が切れない程度に緩めるしかありませんよ。一気に攻め落とすのはいつでも出来ますから、ジワジワと包囲の網を絞る。向こうの補給路の具合を見てやらねば、今度こそ立て直し不可能に陥りますよ。実績としては先行してますから、“飛び込み”だけを上手くさばけば、実績は確定するでしょう。上積みの程度も我々が決める事では無く、徳永さんと“安さん”の判断待ち。我々としては、来たモノを確実に計上すればいいんです」「月末の殺伐とした空気は大分薄まるわね!」「しかし、予想外の事態は常に想定しなきゃなりません。GEの来月分が飛んで来たら、一気に火が付く恐れはあり得ますよ!そこをどう読むか?“安さん”の隠し玉が無ければいいんですが・・・」「大丈夫よ!あたし達は揺るがない!何があっても“信玄公”が居るのだから!」神崎先輩は“心配無用”と言いたげだった。「最終週を待たずして、この余裕なんだから、最後くらいバタバタしなきゃ“月末”って感じがしないじゃないですか!」千絵も“心配しなくていいよ”と言いたげだ。「今日は、もう閉めるが、明日からは、再び追撃開始だ!戦場になる!2人共覚悟して!」「任せといて!跳ね返してみせるわ!」神崎先輩は余裕で言った。

定時で寮に引き上げると、鎌倉がヘバって顎を出していた。「よお!2週連続のフル回転なのに、定時上がりとはどう言う事だよ?」「フル回転してるのは、前の連中さ!ブツが出て来なきゃ仕事にならんさ!」と返すと「“武田の騎馬隊”を率いて、縦横無尽に暴れてるらしいな!“万年お荷物扱い”の“小ピン部門”を黒字化させるとは、お前さんもやるねー!」「やけに耳が早いな!最も、経管で数字を追えば、直ぐに丸見えか?」「ああ、6月に継いで7月も順調なんだろう?4月と5月の赤字を埋めて、マスターに追い付くとはな。経管も驚いてるぜ!“信玄無くして、サーディプの再建無し!”だそうだよ。もう、総務中の噂になってやがる!」と鎌倉が言う。「だが、まだ先は、暗雲が垂れ込めてる。前工程の改善無くして、サーディプの再建はあり得ない。後、2ヶ月持ち堪えれば話は別だがな。半期でどれだけの黒字化へ持って行けるか?大きな鍵になるだろうよ!」「半期と言えば、第1次隊の“任期満了期限”だ。盆休み明けになれば、否応無しに“帰す・帰さない”の駆け引きに巻き込まれるぜ!今のところ、3分の1の“残留”はありそうだ。妻帯者は帰すだろうが、1人者は“引き留め工作”の対象になるだろうよ。当面、年内一杯は戻れないだろう」「俺達も含めてか?」「ああ、O工場の方が芳しく無いのと、本部長の力量が違い過ぎる。他の事業本部長は、大抵“常務”クラス以上。“平取”の光学とじゃあ差があり過ぎだよ。開発に遅れが生じれば、それだけ派遣期間も延長せざるを得ない。第4次隊が、任期満了を迎える来年1月までに、答えが出ないとなると“固定化”も現実味を帯びて来るぜ!」「そうなればこっちのモノだが、第1次・2次に対して3次・4次隊の連中は、これから職責も重くなる。9月からの“帰還事業”が順調に進まないとなると、少なく見積もっても50名前後は、“当面釘付け”になる訳か?」「もう少しは増えるだろうな。約80名は帰れずに“釘付け”さ。その内、俺とYと“緑のスッポン”は、“いつ帰れるか分らない状態”になるだろうよ。人事に探りを入れてみたんだが、俺達3人は、“事業部の意向”が既に働いてて、“無期限延長”の申請が出されてるらしい。各本部長も前向きで、O工場としても“早急に帰せ”リストから外してる状態だ。9月から順次帰れるのは、実質3分の2に留まるだろうな!Yだって仕事を“途中で投げ出して帰る主義”じゃあないだろう?」「ああ、まだ先が控えてるからな。やっと軌道に乗り始めた矢先に“帰って来い”じゃあ納得出ると思うか?」僕は鎌倉に問いかけた。「こっちも同じくだよ!地下水貯水タンクにコンプレッサーの更新工事が控えてる。大規模な設備更新工事を手掛けられる絶好の機会を逃してたまるものか!」鎌倉も引くに引けない理由があった。「目下、情報戦では、こっちが有利だ!まず、年内での“引き上げ”は阻止出来るだろうよ!事業部に加えて、国分総務と工場長も味方に付いてる。“出来る限り長く”留められる様に手は回ってるよ!」「ならば、安心して暴れられるな。今日はどうしたんだよ?」「受電設備の点検さ。そっちが起きる前から、仕事してるんだぜ!そろそろ、眠気に襲われるそうだよ!」「それはご苦労様。少し寝たらどうだ?」「夕飯の時間になったら起こしてくれ!俺は寝るぞ!」鎌倉はベッドに潜り込むと寝息を立て始めた。「O工場がドジを踏み続ける限り、僕等は帰れなくなる。目論見は当たり、転属になれば文句は付けようが無いんだが、先は分からんな・・・。せめて、もう半年、ここに居られれば世界は変わるんだがな・・・。まあ、取り敢えずは、明日の算段をするか!」寝息を立てている鎌倉を残して、談話室へと降りて行った。コーヒーが無性に飲みたかった。

僕等が夕食を社食で摂っている頃、“安さん”と橋元さんと徳永さんが打ち合わせに追われていた。「橋元、これだけ積み上げれば、馬防柵の代わりになるだろう!ベースだけだが・・・、キャップはこれから“中ピン”で流してやる!下山田も間も無く外注で積み上げたブツを寄越すはず。お前たちの奮戦に期待するぞ!徳永、進捗状況は?」「はい、完全に先行に転じました。GEとその他の小ロットを除けば、ブツは使用高に入ってます。週末には、月次予定の達成が見えて来そうです!残るは、どの程度の積み上げをするか?の判断です」「勿論、“貯金”は付くんだろうな?」「はい、それは間違いありません。来月の磁器も引っ張ってありますから、次月の頭も安泰になるかと」「ふん!“信玄”の策に乗るのは気に食わんが、製造・営業会議で堂々と前を見て居られる理由にはなるな!今月は乗り切れる算段が付いたが、問題は9月だ!更に増産するには、前を強化する以外に無い。後ろは“信玄”配下の“騎馬軍団”に任せて置けばいいが、整列と塗布をどうやって回すか?この問題をクリアしなくては、“信玄”の総突撃を喰らって全滅してしまう!今月の様な“無様な有給”は出せんのだ!橋元、4直を組めるか?」“安さん”は、橋元さんに問うた。「組んで組めない事はありませんが、問題は整列です!地板が来なければ、全て空振りですよ!」「それは分かっておる!」“安さん”は苛立たし気に言った。「外注も4直に移行させるし、川内の生産も前倒しさせる!下山田も“中ピン”の整列に依頼を持ちかけている!会議では、“元サーディプ”の社員を数名引き抜かせる方向で、増員を持ちかける!ともかく、前を強化しなくては、後ろに煽られる構図は変えられん!“信玄”が座っている今、構造改革をしなくては、通期での黒字化は無理だし、増産にも答えられない!営業は、“まだ取れる”と強気だし、この機を逃す事は出来んのだよ!塗布に2名、整列に4名、合計6名を増員する方向で進める。この手の増員計画は、大抵採算を問われるが、ここ2ヶ月の数字は好転している。今がチャンスなのだ!それをやってのけたのは、“信玄”率いる“騎馬軍団”だ。我々も島津の侍の端くれだろう?!“信玄”如きに負けてはおられん!徳永、橋元、大至急“信玄”の“騎馬軍団”を撃破する方策を考えろ!俺も、可能な限りの手を尽くして見せる!島津が武田に敗れるなどあってはならんのだ!8月中に実験を重ねてから、9月に一気に逆転へ持って行く!島津の底力を見せてくれ!」「はっ!」2人は“安さん”の勢いに飲まれて頭を垂れるのが精一杯だった。「ふふふふふ、“誰も見た事も無い景色”が見えて来たわい!“信玄”は起爆剤に過ぎんと思っていたが、核分裂を誘発する“大爆弾”に化けおったな。9月が愉しみだ!これで、ヤツを“帰す”理由は消滅した!本部長には、“刺し違えてももぎ取って”もらわなくてはならんな!」管理室へ戻る“安さん”の表情は明るかった。

明けて水曜日。トーチカまでは行かないものの、作業室の内外には、製品の山が築かれていた。「やってくれるねー!GEまでご用意とは。フルパワーで追い込むか!」今日も朝礼抜きのスタートである。僕は、GE向けの山を選び出して、セッティングを開始した。「“信玄”ちっとツラを貸せ!」“安さん”がフラリと現れる。「何でしょう?」「貴様、O工場に未練はあるか?」珍しく“安さん”が前振り無しに言う。「いいえ!出来ればこのまま国分に置いて欲しいぐらいです!何しろ“やりがい”があるし、“見た事も無い景色”をまだ見てませんから!」と即答すると「良く言った小僧!そのセリフ忘れるなよ!8月は、“中抜け”があるから、今月並みを維持するが、9月は倍に生産高を上げる予定だ!着いて来れるな?!」「望むところです!」「ふん!貴様は、俺がそう言うのを読んで体制を強化しおったな!いいだろう!存分に腕を振るって見ろ!過去最高益を叩き出して見せろ!そうすれば、誰も文句を言わずに“残留”を認めざるを得なくなる!己の道は自ら切り開け。俺は、手助けをするに過ぎない。Yよ、貴様こそ“小ピン”部門の要。“万年お荷物”の悪名を一掃する人物に他ならん。まずは、今月を大勝利に導け!そうすれば、製造・営業会議で、多少デカイ顔をしても文句は出ない。全ては貴様の采配にかかっておる!切らす事無く、繋いで凌いでくれ。前は、俺が責任を持って支える。後は貴様に託す。分かったな!」「はい!」僕の返事を聞いた“安さん”は、薄笑いを浮かべて去って行った。「Y先輩、GEからお願いします!」千絵が言いに来た。「おう、分かってるよ。これから頭を出して行く」「“安さん”何を企んでいるんです?」「聞いてたのか?」「ええ、今更何を確認してるんでしょう?」「本部長の尻に火を点けるためさ。“通期で黒字化するには・・・”って言うんだろうよ」「分かり切ってるくせに!」「まあ、そう言うなよ。それより、今日はリミッターを外してぶっ飛ばすぞ!覚悟はいいな?」「ええ、神崎先輩に言って置きますよ!」千絵は誰も居ないのを確認すると、頬に唇を当てた。「急げよ!GEを一気に仕上げるぞ!」「はい!」千絵は引き戸の向こうへトレーを持って行った。午前8時を過ぎると“おばちゃん達”も駆け付けて順次作業に入った。「反転攻勢、エネルギー増幅、フルパワー噴射で!」僕が指示を出すまでも無く、「はいな!」「今日こそ日干しにしてあげるわ!」と西田・国吉・吉永・牧野の部隊長が躍動する。千絵や神崎先輩も様子を見て、ペースを上げ始める。こうなると、徳さんと田尾は“キリキリ舞い”にならざるを得ない。「Y、無謀だ!ちっとは手加減しろ!」田尾が悲鳴を上げるが、手抜きなどはしない。見る間に製品の山は駆逐されて行く。これに焦ったのは、橋元さんだった。炉の前に積んであった“貯金”も底を着いてしまい、下山田さんに急を告げに走った。「クソ!もう目の前か!」下山田さんは、外注に電話を入れて、入庫を前倒しにした。そして、自分の行程にある地板を全て、塗布へ投げ込んだ。「“信玄”は目の前に迫った!地板1枚でもいい!次工程へ送り込め!」炉の前は、風雲急を告げていた。徳さんと田尾も懸命に出荷を手立てして行く。「明日で追い抜くぞ!どこまで計上するか?徳永さんに聞いて置け!」徳さんは、田尾に言う。「もう、溢れ返っちまう!GE以外は、午後に決めますよ!」封印処理をしながら、田尾は言った。僕が「追撃中止」を宣言したのは、丁度昼だった。既に炉から出て来る製品も切れていた。

その日の午後、安さんと徳永さんが管理室で協議を始めた。「徳永、GEはどうなっとる?」「後、4ロットで完了します。日追いですので、入荷次第の回しにならざるを得ません。来週、の水曜日が最終ロットになります」「他は?」「来月分まで、出荷に積み上げは完了してます!どの程度の上乗せで行きますか?」「相変わらず“信玄”は素早い攻撃を仕掛けおるな!20%の上乗せで行くとすると、末日にどれだけ先行させられる?」「そうですね、25%は一気に計上出来ます。8月の“中抜け”を考えれば、妥当な線ではありますが、Yが手を緩める筈がありませんから、更に5%程度は載せられると推察してます!」「ははははは、やってくれるな!徳永、GEの来月分を一部、水曜日に引っ張るとしたらどうなる?」「先行し過ぎて、前が火の車になりますよ!“信玄”の事です。手加減などする筈がありません!今月中に用意するでしょう!」「月初に約半分の先行か!その程度の“貯金”が無くては、来月は苦しくなる!下山田や橋元達も休ませなくてはならん。このところ過剰に負荷がかかっておるし、流石に休日を挟まなくてはマズイ!よし!今月は20%の上乗せで絞めて“貯金”を盛大に積むとするか!」“安さん”はそう言って7月のケリを決めた。「ところで、徳永よ、総務からの情報によれば、光学の本部長が替わるらしいぞ!下期からは、田納取締役が就任する模様だ。厄介なことになるぞ!」「田納さんですか、“会長の秘蔵っ子”ではありますが、未だに“平取”です。半導体事業本部の本部長は“副社長”。バランス的にはまだ優位なのでは?」「来年の株主総会後に、“常務”の椅子にでも座られてみろ!背後には会長も付いているのだ!発言力は3倍か4倍になってしまう。どうやら、Y達の“奪取計画”を前倒しで進めなくては、“強制帰還”へ持ち込まれるぞ!」「うーむ、そんな手を取られるとなると、来月の製造営業会議の場で“正式に通告”しなくてはなりませんね。“Y達を抜かれたら通期での黒字化と増産は無理だ!”と。他所はどうか知りませんが、少なからず増産対応にO工場からの人員を充てている事業部も多々あります。“任期満了”を持って引き上げられたら、全ての目論見が狂って来ますよ!」「総務としても、その辺を危惧しているのだ!O工場からの派遣人員で“持っている事業部”が大半なだけに、9月末から始まる“帰還事業”を引き延ばす工作をどうするか?来週の工場責任者会議でも、主要な議題になるだろう。他所はどうあれ、ウチとしては、Y達を帰す事は“死活問題”だ!Yが担っている業務を他人に置き換える事すら難しいのだ!“余人をもってYの責務を果たせる”と思うか?」「まず、無理でしょうね。ヤツのレパートリーと言うか、カバーエリアは広大です!普通なら、3人でやるところを1騎の“総大将”で統率してしまっています。これは、Yだから可能な術。ヤツを失えば、また“暗黒時代”へ真っ逆さまに落ちますね!」「そうだ!それだけは避けなくてはならん!徳永、以前に女性陣から上がってきた“嘆願書”を貸せ!“事業部の総意”として、Y以下の派遣隊員の“派遣期間延長”を工場側と本部長に申請する!早急に手を打たねば、対象として“漏れなく”引き上げさせられてしまう!先手必勝!9月中には結論を出させなくては、我々は“優秀な指揮官”を失うだけでなく、“マスタープランの達成”すら危うくなる!徳永、事業部内でも、密かに根回しを始めろ!派遣隊員の全員の“残留”を勝ち取るには、総力を挙げるしか無い!各部署へ至急、“帰還阻止作戦”への協力と具体的な阻止計画の立案を指示して置け。然るべき時期が来たら、全員で阻止に動くぞ!」「分かりました。水面下での活動を指示して置きます!最も、Yに関しては、既に手が回っておりますので、更なる強化を命じて置きます!」徳永さんはそう答えた。「急げ!取り返しが付かなくなる前に手を繰り出せ!これは、我々の生き残り作戦でもあるのだ!上は俺が前面に立つ!下は、お前達に任せるぞ!俺は、“嘆願書”を工場長と事業所長に示して、内諾と援護を取り付けて来る。簡単には白旗は挙げんぞ!」“安さん”は早速、総務建屋へ乗り込んでいった。

「光学の本部長が替わる?鎌倉、マジか?」僕も寝耳に水の話だった。「ああ、10月1日付で人事異動が出るらしい。田納取締役になるぞ!」鎌倉の表情も硬い。「“会長の秘蔵っ子”が来るとなると、厄介だな。国分側の反応は?」「どこも困惑してるよ!“俺達ありき”で各事業部は、目算を組んでるんだ!“期限が来たから帰して下さい”って言われたら、大混乱に陥るのは目に見えてるぜ!」「まだ、2ヶ月の猶予期間はあるから、“阻止運動・工作”はやるだろうが、バックに会長が付いてるのがどう影響するかな?」「分からんよ!俺達もやれる事はやらないと、強引に“連れ去られる”事にも繋がり兼ねんぞ!」鎌倉の言葉は“地獄からの招待状”の様に聞こえた。「とすればだ、こっちは、“代わりの利かない人材”になって盤石な足場を組むしかあるまい。実績と力で生き残るしかあるまいよ」「俺とYはまず間違いなく“引き留め工作”の対象になるだろうが、自分達でも“生き残る道”を探さなきゃならんな!お互いに、これまで積み上げた実績はあるが、それをも吹き飛ばしかねない相手だからな!」不気味な津波が迫りつつある様に見えた。実際、この先は紆余曲折を経る事になる。

life 人生雑記帳 - 70

2019年12月02日 18時05分54秒 | 日記
さて、不意に休みとなった金曜日。今日は、永田ちゃんと恭子の予約が入ってる。まずは、永田ちゃんとの“リベンジ”に望まなくてはならない。待ち合わせ時刻は、午前6時。始業時間に合わせたのは、リズムを崩したくない事と、恭子との時間を勘案した結果、はじき出された時間帯だった。“ブルドッグ”は、女子寮側にズレて待機していた。早番の出勤者が途切れるのを見計らって、車に向かう。「Y先輩、おはようございます。なーんか妙な気分ですね?」永田ちゃんは朝から元気一杯だった。「ああ、金曜日なのに“有給”とはね。本当に休んでいいのかな?後から“安さん”の雷を喰らったらどうする?」「でも、言い出した当の本人が“何を休んでやがる!”って咆えたら変ですよ。実際問題、Y先輩の活躍で掴んだ休みなんですし、気にしていても仕方ないか!さて、まずは、前回の“リベンジ”から行きますよ!」永田ちゃんは“ブルドッグ”を発進させた。快晴の空の下、城山公園へ車は突っ込んだ。「A勤が出るまでは、派手な真似は出来ませんから、ここで1試合しましょうか?」彼女は臆面も無く小首を傾げた。白いノースリーブに古着感のあるデニムのミニスカート。下着が際どく見えるのが、今日のポイントだ。「この前、千絵先輩とのチラ見せ勝負。あたしの勝ちですね?」「そりゃそうだ。今日も際どく決めて来たところを見ると、有無を言わさず一戦交えるつもりだろう?」「はい、邪魔なスカートは脱いじゃいますね」レースをあしらったピンクのパンティを曝け出すと、彼女は僕を後部席へ引きずり込む。膝に乗ってから、ブラを先に剥ぎ取った。「準備完了しました。ねえ、早くしましょうよ!」職場1の元気印にして、若手の素肌はピチピチで眩しい。唇を重ねると、素早くパンティの中へ手を滑り込ませた。「かき回して!もっと!」愛液でびしょびしょに濡れたホール。後は成り行きに任せて激しく求め合った。

後始末を終えて、永田ちゃんも下着を交換すると僕等は公園を出た。午前9時を少し回った頃だ。「今度はどこへ?」「神崎先輩のお宅です。“サシ”で聞きたいお話があるそうですよ!」「うーん、何だろう?“サシ”でって言うのが気になるなー」「まあ、あたしも立ち会いますから、フランクに聞いてあげて下さいよ!」神崎先輩のアパートは、隣町の隼人町にあった。洒落た作りのアパートの1階の東側の隅が、神崎先輩の部屋だった。「休みの日なのに悪いわね。さあ、上がって頂戴」先輩は、笑顔で出迎えてくれた。「緑ちゃんから聞いたけど、アールグレイでいい?」「はい、余りお気遣い無く」ポットとカップが運ばれて来て、リビングテーブルに乗せられる。「紅茶三昧の高校時代だったんですって?意外だったわ」「何しろ、茶葉は豊富にありましたからね。夏休み期間も鍵を借りて、夏季講習や生徒会活動の後にティータイムを愉しんでましたよ」僕が返すといよいよ本題に入った。「あなたの基本的な思考パターン、“策を用いて要所を突く”、“人に任せて自由にし、責任は負う”この考え方の原点は何なの?」先輩はズバリと聞いて来た。「鋭いですね。元を辿れば、1人の同級生に行き着く事になります。わずか13歳で散った男ですが、彼の存在無くして、今の僕はありません」「13歳で散ったとは?」「循環器系に爆弾を抱えてました。激しい運動や山登りはNG!でも、観察眼と分析力は抜群でした。彼が良く言ってましたよ。“運動が苦手でクラスマッチに出られないなら、別の形で参加しろ!相手を分析して、作戦を考える。頭でクラスに貢献したらどうだ?”って。それからですよ。2人で組んで色々と作戦を練ったり、弱点を見抜いたりしはじめたのは。中一の秋のクラスマッチの前、最終確認をしている最中に発作を起こして倒れ、還らぬ人になってしまいました。でも、墓前で僕は“お前の後は俺が継いでやる”と誓ったんです。クラスマッチは大勝利に終わり、僕も面目を保ちました。それからですよ。あらゆる文献や古典、歴史や戦史を読み漁り、“作戦参謀”と呼ばれるようになっていったのは。ですから、彼が居なくなったのを契機として、僕は後を継いで“頭脳戦担当”として、クラスに貢献し始めた。そして、現在の思考パターンに辿り着いた。そう言う訳です」「悲しい事があったのね。でも、彼が亡くならなかったら、今のあなたは居ないのね?彼も喜んでいると思うわ。遺志を継いでちゃんと社会に貢献してるんだから。でも、何故、検査工程の指揮をあたしに任せたの?あなたが“直轄”で指示を出しても良かったのに?」「“餅屋は餅屋”ですよ。ここへ来るまで“サーディプのサの字”も知らなかった人間に、的確な判断や指示が出せる訳がない。圧倒的に経験値に差があるのですから、一番信頼できる人に任せるのは当然ですよ。しかし、“総司令”になった以上、責任は負う必要がある。リスクを最小限にするとしたら、先輩にお任せする以外に無かった。適材適所で判断すれば、自ずと神崎先輩しか居ない。実際、間違ってないと確信してますがね」「徳田と田尾も自由にさせてるのは、そう言う判断?」「はい、要所だけ抑えて置けば、彼らはやるべき事をわきまえてますから、僕より回すのは上手いし、判断も早い。先行出来てる事で“見えなかったモノ”も見えて来たと思いますよ」「“おばちゃん達”も猫に変えたのもそうなの?」「引継いだ直後から、話し合いを重ねて“何が足りないか?”“何が必要か?”を徹底的に洗い出しました。不満や鬱憤が溜まってましたからね。ですから、まず、自由にやらせて見たんですよ。適正を見極めるために。そうして、洗い出したポイントを順番に叩いて行った。治工具の改良や増設、備品も買い揃えました。朝礼でも、必要な事は難しい話でも、噛み砕いてちゃんと伝える様に変えました。そして、何より“自主性”を大事にしました。ホワイトボードも“誰がいつ休むのか?”“今日は何を優先するのか?”を可視化したに過ぎません。そして、僕の腕を挙げる目的で“弟子入り”をしたのが大きかった。ただ、漠然と見て覚えるより、盗んで自分なりのアレンジを加えることで、自分もレベルアップ出来ましたし、周囲も意識的に動き出した。自分で身に着けた事は、余す事無く伝えて行きました。結果として、25名全体が底上げされ、僕の指示が無くても、自主的に動く組織に変わったんです。僕にとっては“師匠”であり、“母親”の様な存在なんですよ」「“虎を猫に変えた”秘訣は、とことん付き合った結果なのね。あなたらしいやり方だわ。今や風通しも良くなって、一体感すら生まれてるけど、これもあなたの“作戦”でしょう?」「いがみ合って何が生まれます?元々、返し・検査・出荷は一体運用だったはずです。それが、“見えない壁”で仕切られて“壁の中の論理”がまかり通っていた。これでは、各自が窒息するだけで成果が上がりませんよ。2週間、引継ぎ期間がありましたが、嫌と言う程思い知らされましたよ。“これでは回らない”ってね。そして、“どうせやるなら、思い切って自分のやりたい様に変えてみよう!ダメで元々、いずれ引継ぐ人に少しでも楽に継げればいいだろう!”って、勝手に解釈する事にしたんですよ。岩崎先輩や千絵、永田ちゃんとも仲良くなりましたし、素地はあるなって考えたら“やっちまえ!”って突っ走り出せたんですよ。“安さん”からも“思う様に変えて見ろ!必要なモノは揃えてやる!”ってお墨付きももらいましたから、それを追い風に出来た事もありますがね。結果は言わなくともお分かりでしょう?」「見事に塗り替えられた!降参するしか無いわね。あたし、岡元が大嫌いだったの。“女の分際で何を言う”ってオーラが常に出てたから。実際、岡元は何も聞かなかったし、しなかったわ。自分の都合が最優先だった。自分の立身出世のために、周りを利用してたに過ぎないもの。でもね、あなたに代わってから、ガラリと雰囲気が変わって世界観まで塗り替えてくれた。さっきも言ってたけど、窒息寸前だったのが、楽に呼吸する事が出来る職場になった。どれだけ助かったか分かる?それに、あなたは“些細な事でも真摯に向き合って、話を聞いてくれる”これが、あたし達にとってどれだけ恩恵をもたらした事か!悩む事すら必要が無くなったのよ。しかも、自由に思う通りにやらせてくれる!任せてくれる!これだけの事をされたら、信じる・着いて行くしかないわ。正直に言うと、あたし達は期待しても居なかったの。“路線継承されるだけよ”って打算的に見てたの。でも、あなたは違った。そして、今日の有給よ!ここまでやり遂げた者をあたしは見た事もなかったわ。ありがとう!これからも、宜しくね!」神崎先輩は満面の笑顔を見せた。普段は決して見せない笑顔だった。「話は変わるけと、緑ちゃんの髪の色を見て“ブッ飛ばなかった”理由はどこから来てるの?」「高校時代から“化粧容認派”だったからですよ。女性がしゃれこんで何が悪いんです?」「そう言われると、逆に答えに詰まるけど、高校で禁止されてるでしょう?」「規則は破るためにある様なもの。掻い潜ってだまし合いに持ち込んで、さりげなくやる分には問題にならないでしょう?」「伝統に縛られなかったの?」「新設校の2期生でしたから、伝統も無く煩いOBやOGもいませんでしたから、自由にやれたんですよ。僕等が“礎”を作る側でしたからね」「そうか、そう言う環境なら、何をやっても許される側面はあるわね。柔軟な考え方が出来る素地はあったのね」「でも、逆にブレッシャーになりません?“悪しき伝統”は残せないんですから」永田ちゃんがやっと話に合流して来た。「ああ、それはあったね。だから、僕等の代で改悪された規則や生徒会則は、全て破壊してから3期生に継がせたよ。“1期生の代に戻せ!”が遺言みたいなものさ!」「それでも、“自分達が歩いた道”が伝統になるって夢があっていいな!」「そうでもないよ。何もかもが“初めて”なんだから、やる側としての苦労は並大抵では無かった。教職員も含めて“全てが手探り状態”だからな。下敷きになるモノがある方がずっと楽だったと思うよ。ただ、“手作り感”や“自由な校風”はどこよりも強く印象に残ってるがね!」「“開拓者精神”があるから、職場改革も進められた。それは否定しないよね?」先輩がポットからお茶を注ぎつつ言う。「まあ、それは大いに関係してますね。“よし、やるか!”って決断出来たのは、高校時代にルーツがあるからですよ」「Y先輩、バレンタインとかはどうでした?」「幸いにして“もらえる側”だったから、惨めな日ではなかったけど、気持ちのいい日ではなかったよ。あれ程ハッキリと色分けされる日は無いからな」「どの程度個数をもらってました?」「最低でも6個は確保してたよ。だが、有賀に毎年“余り物で悪いけど置いとくね!”って爆撃されたのは、気分のいいものじゃなかったな」「その、有賀さんってY先輩に好意を持ってたんじゃありません?」永田ちゃんが攻めて来る。「どうだろう?アイツは中高の6年間、常に背後を脅かす悪魔だったからね。“才女”ではあったが、致命的な欠点があったのさ。“片付けられない女”だったんだよ。議事録とか、設営の撤収とか、引継ぎ文書なんかは、全部こっちで引き受けさせられたんだ!都合の良い様に使われる身にもなって欲しかったよ!」「でも、屈折した愛情ではあるわね。言い出せなかったのが致命傷だったのかも」と先輩が言う。「最大個数はどれくらいでした?」「38個だったかな?荷物が増えて大変ではあったが・・・」「あたし、1度も渡せなかったんです。唯一の悔いがあるとすれば、それですよ。逃した“大魚”は大きかったな。でも、今は、“別の大魚”を逃がさない様に全力を尽くしてますけど!」「それは、こっちも同じよ!」永田ちゃんと先輩が、悪戯っぽく笑う。陰でどんな運動を繰り広げているのか?知る由も無かったが。その後も、神崎先輩とは腹を割って話すことになったが、彼女の複雑な“男性不信”を取り除けたか?と言うとそうでも無い。ガッチリと鎖で縛られた心を解き放つには、まだ時間が必要だと感じた。だが、少なくとも僕に信頼を寄せてくれているのは、明確になった。帰りの“ブルドック”の車内で「神崎先輩が、あれほど男性と話すのを初めて見ましたよ。凍てついた神崎先輩の心が、少しでも解けて行けばいいと思います。怖いところもあるけど、あたし達を牽引してきたのは、あの方ですから」と永田ちゃんは言った。「直ぐには無理だろうが、神崎先輩も変わろうとしている。人を信ずる事は、関係を築く上では基本だからね。少なくとも、彼女に信頼される人であり続けなくてはいかんな!」僕も気づかされる事の多い訪問だった。寮の前に戻るとスカイラインが待ち構えていた。「Y先輩、岩崎先輩にバトンタッチして来ますね!」永田ちゃんが恭子の元へ知らせに行く。僕も“ブルドック”から降りると、永田ちゃんの頬にキスをして「ありがとう。ご苦労様!」と言った。「Y、これ!」恭子がキーを投げて寄越す。「ヒュー、阿吽の呼吸ですね!流石“正室”だわ!」永田ちゃんが目を丸くした。「いつもの事さ。さて、行ってきます」僕は恭子の待つスカイラインへ乗り込んだ。

「どこへ行く?」「さあ、どうしようかしら?取り合えず桜島へ向かってよ!」「了解だ!」僕はスカイラインをスタートさせた。「恭子、みーちゃんの事だが、少々気になる事があるんだ!」ぼくは、昨日の一件を話してから「みーちゃんに“中毒症状”らしき兆候が見られるんだ。どうしたらいい?」と問いかけた。「そうね、ちーとも話さなくちゃならない事だわ。対策は考えてみる。でも、何故この話をあたしに?“正室”だから?」「ああ、そして女性だからさ。同性の事は良く分かるだろう?」「普通は、胸にしまって置くのに、正直に口にするなんて、あなたらしいわ!でも、これはちょっと危ない兆候よ!今後の動向は注意して見てるわ!」恭子は直ぐに意図を汲み取った。車は、錦江湾の東側を南下し続けている。「Y、神崎先輩とはどうだった?」「ああ、お互いに腹を割って話せたから良かったよ。彼女に検査を託したのは“間違いでは無かった”と確認できたよ。これで、前に集中出来る!」「さっき、工場を覗いて来たけど、下山田が血眼になってたわよ!“信玄に蹂躙される前に馬防柵を築きなおせ!”って必死の形相で指揮を執ってたわ。月曜日は相当に厳しくなるわよ!」「ふん!そうでなくては困るからな。チンタラやってたら、本当に“おばちゃん達”と突撃する事になる!そうなれば、面目は丸潰れだからな!」「“信玄公”としては、あくまでも進撃を止めるつもりは無い様ね。それでいいのよ!前を変えるには力で押し切るしか無いもの!」「確かに。人員配置も含めた“抜本的改革”をやらせるには、鬼になるしかないからな!」「あたし達には“仏の顔”でも、前に対しては“鬼の形相”か。“侵略する事、火の如し”を地でいくのね。行きなさい!前を変えなくては、事業部を立て直すキッカケすら掴めないのだから!」「だが、今日は“別の顔”をしていいだろう?」「ええ、優しい本来の顔で抱いてよ。今晩も寝かせないから」恭子も平然と返して来る。阿吽の呼吸がいつしか定着しつつある。恭子の前では、自然体で居られるのは、僕にとっても彼女にとっても必然性があり貴重な時間だ。道路は、垂水付近から右に折れて桜島の麓を西へ向かって横断して行く。活発に活動を続ける桜島は、今日も噴煙を上げていた。「フェリーを降りたら、うな重でも食べようよ。まずは、腹ごしらえよ!」「やけに精を付けさせるな。何を狙ってる?」「嫡子は、あたしが挙げてみせるわ!そのためには“殿の種”も強くしなきゃ!」恭子もあっけらかんと言う。今夜も激しく長い攻防が待っているのだろう。鹿児島市内へ入ると、恭子の案内でうなぎ屋の暖簾をくぐる。「ここも、昔からの溜まり場だったわ。男達が競って精をつけたの。バイクと格闘するには、体力が必須だもの」恭子は遠い目をしていた。「そう言えば、今日は珍しくミニスカートか。どう言う心境の変化?」「ふふふ、永田ちゃんに対抗してみたのよ!あたしだって女だもの。ライバルに負けるつもりは無いのよ」「妖艶な姿で対抗とは、永田ちゃんには5年早いか?」「いいえ、10年早いわ。お子ちゃまには出せない色気もあるのよ!」「恭子に敵う相手が居るのか?」「そう言ってくれると安心だわ。みんな、Yを誘惑しようと必死だけど、1歩上を行くのがあたしの主義だから」そんな会話をしている間にうな重が届いた。箸を割ると2人して黙々と食す。食後にお茶を飲みながら「先週、ちーのヤツ飢えてたでしょう?」と聞かれる。「飢えてたなんてもんじゃないよ!水着まで持ち出して、乱痴気騒ぎさ!疲れたの何の・・・」「日干しにしてたから、ずっと我慢してのが爆発したみたいね。まあ、ちーはいいとしても、問題はみーちゃんよね!彼女“純粋培養”だから、一度知ってしまった快感が忘れられないのね。ちーよりも厄介な相手になりそう!」とため息を付く。「彼女もそう言ってたよ。それだけに、今後の予定に大きく響かなければいいがな」「まあ、調整はこっちで取るから、Yは前を向いて戦う事に専念して!今月もだけど、次月が本当に正念場になるわ!そこで、数字を残さなくては意味が無いの。あっ、それと話は全然別だけど、総務の新谷さんと岩元さんとの繋がりは何なの?彼女達、異様にYの事を知ってるのはどう言う事なの?!」恭子の声のトーンが変わった。「あの2人に捕まってるのが、同部屋にして同期の鎌倉さ。ヤツは総合保全課に配属されてるが、2人に捕まって週末もこっちと同じ事になってる。それで、詳しいんだろうよ。鎌倉と僕は大抵の場合、共に夕食を食べたりしてるからな!」「ふむふむ、そう言う繋がりか!実はね、総務からも“大奥制度”について問い合わせが来てるのよ。寮生にも総務の子はいるもの。ちーにあれこれ質問してた矢先にYの名前が出て来たから“浮気?”って、ちーは焦ったらしいのよ!よしよし、そう言う事なら“不問”にしてあげる!それにしても、鎌倉さんだっけ?大変な子に捕まったものね!“高嶺の花”状態で、ちーよりも飢えてるから大変だよ!」「鎌倉本人もそう言ってるよ。“激しすぎてたまらん”ってな!」僕がそう言うと恭子は悪戯っぽく笑った。市内を外れて高台の“誰にも見咎められない部屋”へ行くと、恭子はいつもの様に甘えだした。ミニスカートは自ら剥ぎ取り、パンティ1枚になると膝に座って抱き着いて来た。「ねえ、誰の胸が一番綺麗だと思う?」「野暮は言うな。目の前にあるじゃないか」乳房を揉んでから乳首に刺激を与えると、恭子は声を上げて身をくねらせた。「早く、坊やを頂戴!」「ダメだよ。1枚剥ぎ取ってからさ」湿ったパンティを脱がせると、ベッドに押し倒してゆっくりと息子を潜らせる。「ああ・・・、暖かいわ・・・、突いてお願い!」恭子の身体を味わい尽くすかのように、僕等は求め合い激しく営みを続けた。

土曜日、今度は“頭脳戦”を挑まれる事になった。早紀の部屋には、立派な将棋盤と駒があり、実里ちゃんと早紀が棋戦を挑んで来たのだ。負けた方が昼食と夕食代を持つ条件である。早紀の部屋へは、実里ちゃんの“トッポ”で向かったのだが、当然の如く朝から実里ちゃんとは1試合を先行してするハメになってしまった。勿論、早紀には内緒である。女子高生と見紛うばかりの実里ちゃんは、激しいのがお好きで背後から猛然と突きを入れてやり、多量の体液を飲み込んだ。「前哨戦は、あたしの勝ちですね」彼女はそう言って笑ったが、幼い体型との逢瀬は、何故か止められない”魔力”を纏っていた。早紀のアパートに着く前にヘトヘトになったが、彼女は平然としていた。故に早紀に悟られる事は無かった。対局が始まると「“信玄公”の知略・軍略、しかと見定めさせていただきます!」早紀はそう言って後手を選んだ。さて、早紀はどう出るのか?取り合えず、僕は居飛車で駒組を進めた。早紀は、飛車を振って4筋へ打ち付ける。ただ、角は動かさずに3三に銀を据えた。「うぬっ!」僕は手を止めて長考に沈んだ。定跡ならば、2・3・4筋で銀・桂・歩・飛車をさばくべきだが、早紀の陣形だと、逆に後手にさばかれてマズイ展開になる。「どうされました?早くもギブアップですか?」早紀は余裕で待ち構えている。確か、この戦法に対抗するには・・・。僕は必死に記憶を辿り手を探った。実里ちゃんは、“継ぎ盤”と言われる別の盤で検討をしている。彼女もこちらの手を見定めようと必死だ。端歩を突き合ってから、僕は8・7・6筋へ駒を盛り上げた。早紀の攻め駒である飛車・角・銀には見向きもせずに、玉頭を狙うのだ。後手は、先手の攻めを待つしか無いので、陣形を整えて待ちに転じた。僕は玉の守りを最小限に留めてから、金銀の厚みで早紀の陣形を押し潰しにかかった。9筋の歩を突いて飛車も回した。後手から見れば、上から圧壊される様なものである。角金交換が成立すると「負けました」と言って早紀が駒から手を離した。「早紀先輩、まだ手はあるのに、何故投了するんです?」実里ちゃんが異議を唱えた。「端を詰められ、金を剥がされている以上、玉の逃げ場が少ないあたしの負けよ。2・3・4筋の駒が働いてないから、受けも効かない!Y先輩、お見事です。あたし、この戦法で初めての敗戦ですよ」とサバサバとした表情で言った。実里ちゃんも手を進めてみたが、角が働いてないのが響いて、受けが難しい事に気づいたらしい。「Y先輩、知ってますね?この戦法の対処方法を?」実里ちゃんが指摘した。「まあね。先手から見て、右辺でさばきが効かないのは直ぐに気づいた。逆に後手の駒をさばかれて、守りの薄さを突かれて手が無くなる。一か八かだったが、玉頭戦に賭けるしか無かった。まだ、詰めろでも無いのに投げるとは意外だったけどね」「飛車と角を封じられれば、後手は動き様がありません。お見事でした。お昼は、あたしがご用意しますよ!」と早紀は笑った。早紀はキッチンに立つと、パスタを出してくれた。実に美味い!午後は、実里ちゃんとの対局に臨んだが、薄い守りで攻め合う展開になり、慎重な差し回しが求められた。1手のミスで局面は暗転するのだ。互いに時間を使っての勝負は、際どく僕が寄せ切って2連勝とした。「うーん、桂の打ち場所を間違えたー!この手が致命傷かー」彼女は終盤の桂打ちを悔やんだ。「非常に微妙ですが、お互いに勝機を1度逃してますね。実里が銀を逃げなければ勝てた勝負よ。Y先輩は、飛車を切っていれば勝ってましたね!」早紀の指摘通り、互いにもっと早く勝つ手順はあったのだ!「ふー、やるね!中々先が見えなかっただけに、際どい勝負になったが、今回も運が良かっただけだろう」「いえいえ、中々の差し回し。“信玄公”の知略に完敗ですよ」実里ちゃんも素直に振り返って感想を述べた。「さて、猛烈にお腹が空いて来た。僕がおごろう!食事に行くぞ!」「えー、それじゃあ、あたしの立場が無いですよ!」「それは、次の機会に取って置け!糖分を補給しないと頭が回らないからな!」「仕方ありませんね。実里、今回は甘えて置きましょうよ!」早紀の一言で最終決着は持ち越しになった。久々の“頭脳戦”は、いい刺激になった。3人でワイワイと食事を済ませてから、寮へ戻る道すがら「もう1度抱いてくれませんか?」と実里ちゃんが言い出した。「もー、この底無しが!」とは言ったものの、結局は彼女を抱いて注いでやった。白いワンピースを剥ぎ取ると、幼い身体が露になる。だが、僕との逢瀬で彼女は、”どうすれば最も感じるか”を学んでしまった。「もっと・・・、突いて・・・下さい!」とねだる声は、大人の誘惑そのものだった。パンテイもTバックを履いている。表の顔とは裏腹に、すっかり抱かれ上手に変貌していた。「次は、制服姿にしますか?」と聞かれて「似合うけど、そのままの実里ちゃんが好きだから」と言ってなだめた。彼女は車内でするのが何より好きらしい。「だって、“見られてるかも知れない”って思うと、あたし燃えちゃうの!」と言ってペロリと舌を出した。そして、愛しそうに息子に舌を這わせて離さなかった。「あたしだけですよね。ここまでするのは?」本気で1滴も余さずに吸い取るのは、実里ちゃんだけだった。「あたし、結構エッチな妄想するの好きなんです。早紀先輩に負けたりしませんよ!」彼女は、ライバル心を口にした。早紀とは、1度“持ち帰り”になっただけだが、実里ちゃんとは何度も逢瀬を重ねている。「あたし、負けませんよ!懐妊一番乗りは、もらいましたから!」そう言った彼女の目は真面目そのものだった。

日曜日は、千絵の実家に連れて行かれた。「先手必勝」とばかりに、両親に紹介されたのだが、「こんな臍曲がりで宜しいんでしょうか?」と言われて往生したが、話に花が咲き、千絵の小さい頃の“武勇伝”の数々を聞けた。「恥ずかしいったらありゃしない!」千絵は“おかむり”だったが、天真爛漫と言うか“ガキ大将”だったとは、とても想像が付かない話に笑ったり驚いたりの連続で結構愉しめた。「“おてんば”がこんなに美人で“しおらしく”なるとは、思っても見なかったんだろうな。小さい頃の写真からは、想像も付かないがね」「酷―い!でも、あの写真の事は内緒にして下さいよ!“黒歴史”そのものなんですから!」千絵は口封じに走った。「実は、帰りがけに1枚もらってある!ほら、この木に登ってスカートの中、丸見えのヤツだ!」古びた写真をヒラヒラさせると「返して!ダメです!」と千絵は奪還をしようとする。「運転中に無茶するなよ!蛇行してるぜ!ちゃんと前を向け!」とたしなめるが、「恥ずかしい中でも最も嫌な1枚なの!返して!」と運転しながらも暴れ出す。でも、心底怒っている訳では無かった。「あの頃は、何をしてても撮られるのが好きだったの。だから、家の親も四六時中撮りまくってましたよ。生まれた直後から数えれば、万の単位で枚数あるんじゃないかな?」千絵がそう回述する。「それだけ、大切にされた証だろう?感謝しなきゃならないな!」「うん、先輩、それ奥深くにしまって置いて!小さなあたしも愛して!」千絵はそう言って前を向いた。「そうさせてもらうよ。明日からまた、長い戦いが待ってる。敵を蹴散らさないと“お盆休み”の大望は果たせないからな!」「“信玄”に逆戻りね。あたしも加わってるの?」「勿論だ。立派な“武田の騎馬隊”の一員さ!」「じゃあ、矢でも鉄砲でも跳ね返してやるわ!ひたすらに前進あるのみ!」千絵は勇ましく言う。「だが、来週は少し戦略を変えるぞ。半ばを過ぎたら“包囲”して停まる予定だ!」「どうして?」「磁器が間に合わないからさ。千絵達の手を止めないのも、裁量のウチだからな!」「じゃあ、半ば以降はスローペースになるの?」「そう言う方向に持って行かざるを得ないんだよ。余り、前を叩き過ぎてもマズイ。前の陣立てが整ったら、一気に押し潰しにかかる!それまでは、力を温存する時間も必要さ!」「意外と先が見えてるんですね」「物見からの報告もあるが、“安さん”から“後1週間は凌げ!”って指示が出てる。圧倒するのは簡単だが、“完膚なきまでに叩いてしまう”のはマズイ!その辺の裁量は、一任されてるから、好きにさせてはもらうが、難しい舵取りになるのは間違いないよ」「あの“安さん”が先輩に本音を漏らすなんて珍しいわ!それだけ切羽詰まってるって事ですね!」千絵はようやく納得したらしい。「千絵、水曜日になったら、頻繁に顔を出してくれ!検査の残量と前からの上がりを秤にかけて、見定めなくてはならない。水曜からは、“連携”を強化するしか無い!」「了解、あたし達2人で決めていくのね?」「そうだよ。それしか無いんだ!」難しい局面に足を踏み入れる事になる月曜以降、どうするのか?を決めるのは僕の手腕にかかっているのだ。任せてくれた“安さん”の期待に答えられるか?真価が問われる戦いになるのは間違いなかった。